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【両利きの組織をつくる8:第四章(後半) 組織のアライメントを再構築する 〜AGCのコングルエンスモデル/トップとの対話 合宿〜】

本マガジンの前回までの記事は上記に入れています。

本マガジンでは、近年注目の“両利きの経営”についてAGCを題材に事例研究した書籍、“両利きの組織をつくる”について解説していきます。今回は、前回マガジンでビジョナリーカンパニーを学習した健が同期の倫也に工場で会います。(両者とも課長)倫也がこの本について解説し、その中で2人が議論していきます。今回は第四章「組織はどのようにして変わるのか」の後半を解説します。

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👱🏼‍;おはよう。

👨‍🦱;おはよう。今日は、第4章「組織をどのように変えるか」の後半について解説する。主に異なるアライメントの追求、組織のアライメントの再構築について解説していく。

👱🏼‍;おう。よろしく。

◆異なるアライメントを追求する

👨‍🦱;AGCの組織アライメントの再構築について今日は見ていくのだが、まず、既存コア事業(深堀)と新たな戦略事業(探索)それぞれにおいてどのようなアライメントが適しているのか整理してみる。

👱🏼‍;おう。

👨‍🦱;建築用、自動車用ガラス、化学品、ディスレイなど既存コア事業は。従来のものづくり事業であり、基本的には「高品質×量の確保×低マージン」を特徴とするんだ。

👱🏼‍;まさに、高度経済成長の名残りだな。安く大量にといったところだな。わかる、わかる。

👨‍🦱;ああ、これは一時代を築き成功を成し遂げたというのは事実だ。それに適合したアライメントは下記になっている。これはAGC含む多くの日本企業に言えることだと思う。

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各項目は下記だ。

・リーダーシップ
経営陣からのトップダウンと中堅層からのミドルアップのハイブリッド型が理想的。合意と納得性をベースにした、長期的な視点が望まれる。

・戦略
基本的には売上規模の拡大を追求する。顧客との信頼関係をベースにした、ローコスト・大規模生産が基本目標となる。

・KSF(成功の鍵)
オペレーショナル・エクセレンス。生産オペレーションの効率性、コスト削減力、信頼を生む高品質と納期の厳守、継続的な改善能力。

・人材
専門知識と経験をもった現場力のある人材。指示命令によく従い、上司へのホウレンソウを欠かさない人物。

・公式の組織
(構造・制度・手順) ・基本的にPDCAサイクル。短期目標が明確に設定され、仕事の手順は標準化されている。また長期雇用を前提に、わかりやすく確実な評価昇進の制度が整えられ、指示命令を確実にやり遂げる人物が最も評価される。

・組織カルチャー
規律、勤勉、あきらめない態度(粘り)が大切。長時間労働を厭わず、コンセンサスと納得性重視した仕事のやり方が良しとされる。

👱🏼‍;なるほど。それと、リーダーシップでトップダウンとミドルアップと書いてあるけど、これトップダウンが強い組織のように感じるね。そうなると、上位解脱のカルチャーになって、自主性が薄れていってしまうし、閉塞感が出てきてしまうな・・。

👨‍🦱;ああ、著書によると当時AGCも4期連続の減益だったから、かなり閉塞感がある状況だったとのことだ。そこで、新経営陣はその状況を打破すべく、傷んだ組織のアライメントを修復する必要があったと書いていある。そして、その中で戦略事業の実現が必要であった。

👱🏼‍;戦略事業はモビリティ、エレクトロニクス、ライフサイエンスだったな。

👨‍🦱;そうだ。それらの組織アライメントは下記だという。

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同じく解説は下記だ。

・リーダーシップ
 トップダウンとミドルアップのハイブリッド型のスタイル。新しい領域に進出するためには、トップ自らが変化を推奨し、新しい組織カルチャーの形成に前向きである必要がある。また時間軸の異なる既存事業と新規事業を両立させるためには、臨機応変なリーダーシップが求められる。

・戦略
 顧客との親密さをベースに、顧客と共にイノベーションを起こすのが基本方針 (Your Dreams, OurChallenge)。そのためには、顧客から最初に声をかけられる存在でなければならない。ニッチマーケットにおける少量生産・高コスト構造を可能とする高収益を目指す戦略である。

・KSF(成功の鍵)
長期の時間軸で、競合に真似されにくい、技術的なイノベーションを起こす力。それは顧客との親密な関係を構築できる力に支えられる。人材 ・技術的な専門性を有しつつ、果敢に粘り強く新しいことに取り組む人材。言われたことを確実にこなすのではなく、上司による課題設定さえ疑い、目的のためにはフレキシブルなアプローチがとれる人材。

・公式の組織(構造・制度・手順)
できる限りフラットな組織で、迅速な意思決定ができる組織。また年次よりも実績を評価し、新しい取り組みを評価する。キャリア採用も積極的に行う。個人の評価だけでなく事業の評価にも、従来型のPDCAとは異なる評価尺度が必要。

・組織カルチャー
 イノベーションとスピードを重視し、フレキシブルに、新しい試みを歓迎する。失敗を回避するのではなく、やってみることを良しとする。また自社の視点だけではなく、市場・顧客の視点に対する洞察を大切にする。

👱🏼‍;既存のものとはだいぶ異なるな。

👨‍🦱;ああ、こうしたアライメントは長くAGCに勤めた人にとってはなじみがないものであって、それを形成していくのは簡単じゃない。

👱🏼‍;だな。島村CEO含む、経営チームのトップダウンでまずリーダーシップ・人材・組織カルチャーの要素について取り組まないといけないと感じるよ。

👨‍🦱;実際そうしたようだ。著書では、AGCでは、3つの領域で精力的な取り組みをしていることが明らかになったという。

・既存事業のアラインメントを修復する
  (主に既存の組織カルチャーを見直す)
・探索事業における新しいアラインメントを形成する
・同じ企業内に異なるアラインメントが併存できるようにする

👱🏼‍;なるほど、でもさ具体的にどんなことをしたんだろう。

👨‍🦱;様々な取り組みをしている。著書では10紹介しているが、ここでは5つにとどめる。

1,経営トップから全従業員へのダイレクトメール
(リーダーシップ、戦略、組織カルチャー)
 島村氏はCEO就任が決まった直後、自分の信条や想いを述べたメールを全社員宛に配信した。「人の心に灯をともすリーダー」という自身の目指すリーダーシップ・スタイルを伝えた。そして、これは直接のコミュニケーションとなっている。

2,ミドルが長期戦略策定 :
( リーダーシップ、戦略、組織カルチャー(既存・新規)
次世代の経営幹部と目される二〇人のミドルに長期戦略の立案を任せ、そこに経営チームによる検討を加えて「2025年のありたい姿」をまとめた。

3,戦略タスクフォース :
(戦略、KSF(新規))
先述した戦略推進タスクフォースの設置と戦略投資枠(三○○○億円)の設定は、「2025年のありたい姿」で示されたビジョンを実行過程に落とし込む施策である。当事者によるビジネスプランの詳細な作りこみと具体的な3000億円という投資金額の設定によって、「ありたい姿」の実現に対する経営陣の本気度が社員に伝わった。

4,総会後の対話集会 :
(リーダーシップ、組織カルチャー(既存・新規))
島村氏のCEO就任後初の株主総会の翌日、本社部長以上の約一〇〇名の幹部を集めた集会を開催した。従来行われてきたトップによる訓話という形式ではなく、島村CEO自ら経営方針についての質問に答えることをメインにした内容である。「対話集会」と名付けられたこの集会はその後、定例化されている。

5,若手や各拠点社員との対話集会や合宿;
(リーダーシップ、組織カルチャー(既存・新規))
経営幹部だけでなく、若手社員と経営チームが直接対話するイベントを定期的に開催している。その運営を担っているのは、若手社員のボランティアだ。最近では、若手有志が経営チームを招待した対話合宿も行われている。また国内・海外の各拠点にも島村CEOが自ら足を運び、現場社員と直接対話する集会を頻繁に行っており、その回数は就任から四年で130回に及ぶという。


👱🏼‍;130回も拠点周りか。直接言葉を聞けるので、その結果拠点のメンバーも親近感がわき、ダイレクトメールのメッセージも刺さりやすくなっていく気がするんだ。というか、ほとんどの活動が「組織カルチャー」に関連するような気がするんだけど。

👨‍🦱;その通りなんだ。オライリー教授は、アライメントを変容させるのにカギとなるのは、組織カルチャーだと強調しているよ。実際AGCもそこに力を入れているように見えるね。そして、もう一つ取り組みが集中しているのはリーダーシップなんだ。

👱🏼‍;昔のトップダウン型に偏っていたリーダーシップスタイルを改めてトップダウンとボトムアップのハイブリット型のリーダーシップを目指すという意思の表れだと思う。きっと、これは社内の従業員は感じ取ったんじゃないかな。

👨‍🦱;ボトムアップを推奨するというか、閉塞感やプレッシャーを和らげるために、島村CEOはバッドニュースファーストという仕事のやり方を強調しているそうだ。悪い情報に対して叱咤するのではなく感謝し受け止めるというのだ。

👱🏼‍;それはある意味画期的だな。でも、そこで感謝だけでなく、次のアクションを一緒に考えていくというのが必要なんだろうな。でも、確かにバッドニュースが起きたのは、結局はそのトップの責任だから部下に叱咤するというより、一緒に挽回するというのが通常ではあるわな。それができないのが日本の会社なんだが。しかしながら実際にどんなことをしてアライメントを再構築していったかは分かった。

◆AGCの両利き度を点検する

👨‍🦱;著書では、AGCの具体的な活動の説明はここで終わっている。AGCの両利きの組織の特徴を整理しよう。オライリーは両利きの組織の特徴として、4つ挙げている。

①組織構造が深掘りと探索を自律的に行う事業ユニットに分かれている。【組織デザイン】
② 探索側が既存側の資産や能力をレバレッジ(活用)できるよう、特定部分で統合されている。【組織デザイン】
③ 既存側と探索側をつなぐ大きなビジョン(存在目的)と明確な戦略意図が存在している。【存在目的・戦略意図】
④ 既存側と探索側の間で発生するテンションやコンフリクトを自ら解決するリーダーが存在している。リーダーシップ】

👱🏼‍;①と②は組織構造に関する特徴化、「分離しつつ、統合する」だな。AGCは組織構造として、コア事業と戦略事業を分離しながら、事業開拓部が中心となって統合を試みているな。

👨‍🦱;ああ、そして、③は存在目的に関して、島村CEOのダイレクトメッセージや2025年のありたい姿や戦略事業があり、対話を重ねることによって浸透をさせ既存側に新規事業の許容の文化を創り出しているな。そして、④に関しては、事業開拓部を直下に置き、サポートしており、既存と探索のコンフリクトが生じる際は、トップの意思を表示するとともに財政的に既存事業に負担がない仕組みを創っている。まさに実際の行動で示して組織カルチャーの形成に挑戦しているな。

👱🏼‍;そうか、それで、両利きの経営論の第一人者のオライリー教授が両利きの組織として認めたのか。

◆これからのAGC

👨‍🦱;AGCは創業110周年を迎えた。そして、社名が旭硝子からAGCへと変更された。徐々に島村CEOの変革が形となり、素材加工会社から素材開発会社へ進化してきている。ただ、まだ、この変革は継続中だ。引き続き島村CEOは対話を続けている。そして、戦略事業も始まったばかりだ。島村さんは対話を振り返りこういっているという。

「私は変革の方向付けをしているだけです。社員には私からのメッセージを直接送りたい。一部の社員はそれを変革の許可と考え、自分の担当分野で小さな変化を起こしてくれる。そのうちみんながそうするようになるでしょう。新しい企業カルチャーを生み出すのは私ではなく、彼らなのですから」
「はじめの頃、社員の顔を見れば、私のメッセージに対して彼らが懐疑的であることは明らかでした。以前にも同じようなメッセージを耳にしたけれど、何も変わらなかったからです」

👱🏼‍;まさに、トップが姿勢を見せ続けてミドル・ボトムアップを待つ。その度量と覚悟を物語っている言葉だね。実際に足を運んで対話して、信じることを4年続けた。そのことで少しづつ皆が会社を信じることができて、変化が起き始めたということか。きっと、ミドルや若手の一部の人はそれを感じてアクションに起こしていると思うな。

👨‍🦱;そうだな。さあ、ここまでの変革機運を更なる発展につなげていけるか、今度は若手、ミドルがどうやって期待に応える、いや期待以上のアクションを取るかだな。

👱🏼‍;おれらも自分のこと棚に上げてちゃだめだな。

👨‍🦱;おう、がんばろう。これで4章は終わり、AGCの解説も終わりだ。5章はこのケースを頭に入れた上で実践理論の詳細に入ってい行く。

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 今回は、第4章の後半、組織のアライメントを再構築するをテーマに解説をしました。実際の大企業でもCEOの地道な活動とそれに対するミドルの呼応で組織カルチャーを変えていくということが分かったかと思います。次回は、5章に入り理論の深堀と具体的な実践方法について解説していきます。ここからはぜひ自分事に落とし込みながら読んでださい。日本企業に必須の概念、手法ですので是非フォロー、スキお願いします。


なお、過去のマガジンは下記です。もし興味あれば覗いてみてください。



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