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【両利きの組織をつくる6: 第三章(後半)AGCにおける両利きの経営】

前回までのマガジンは上記に入れています。

本マガジンでは、近年注目の“両利きの経営”についてAGCを題材に事例研究した書籍、“両利きの組織をつくる”について解説していきます。今回は、前回マガジンでビジョナリーカンパニーを学習した健が同期の倫也に工場で会います。(両者とも課長)倫也がこの本について解説し、その中で2人が議論していきます。今回は第三章「両利きの経営 成熟企業の生き残り戦略」の後半を解説します。

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👱🏼‍;おはよう。

👨‍🦱;おはよう。今日は第三章の後半を始めていこう。

◆AGCにおける「両利きの経営」

👱🏼‍;前回、生き残るために既存事業と探索事業の共存が必要という話があったが、AGCでは実際にどのように改革を行っていったんだ?

👨‍🦱;OK。前回説明した、イノベーションストリームでAGCの事業の方向性を確認してみよう。各領域の定義は下記だ。

領域1「既存の組織能力」×「既存の市場」(コア事業の領域)
領域2「既存の組織能力」×「新規の市場」(漸進型イノベーション)
領域3「新規の組織能力」×「既存の市場」(アーキテクチュアル・イノベーション)
領域4「新規の組織能力」×「新規の市場」(不連続型イノベーション)

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AGCでの各領域の実践例を示そう。第二領域では、モビリティー事業で曲がるガラスを作り出す組織能力を車内タッチパネルという内製ガラスに転用して、新しい市場を創造している。第三領域についてはライフサイエンス事業にてドイツのCDMO(医薬品受託製造開発)を買収し、既存の微生物タンパク質の製造能力を活用して欧州進出を実現している。さらに第四領域は新たな顧客基盤の形成と新たな能力形成が必要な探索分野だが、ライフサイエンス事業では、米国CDMOを買収し、それまでの植物性タンパク質由来ではなく新たに動物性タンパク質の製造技術を獲得し、CDMOのグローバルネットワークを作り上げている
そして、第一領域の化学品でも、タイのビニタイ社を買収し、東南アジアにおけるクロール・アルカリ事業の基盤を拡張しているのだ。


👱🏼‍;むむ、すごいな。

👨‍🦱;そして、これは一例であってあれだけ大きい企業だから、各領域で他の複数の挑戦しているんだ。

👱🏼‍;なるほど、だが、これをどんな組織体制で実施しているのかだな。どのようにそれぞれの事業に適したアライメントを形成して、AGCという傘のしたで共存しているのか。

👨‍🦱;そこだ。「両利きの経営」を実践するためには、まず、「異なるアラインメントを必要とする事業は分離する」という組織デザインが必要条件となると著者はいっている。そして、探索事業をコア事業から分離させるだけでなく、探索事業がコア事業の資産や能力にアクセスできるようなプロセスも確保する必要があるとも言っているんだ。イメージは下記だ。

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👱🏼‍;AGCの場合、オートモーティブ、電子、化学品、ビル・産業ガラスとカンパニーがあるよな、具体的にはどうなっていたんだ?

👨‍🦱;下記のようにしたんだ。

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👱🏼‍:おお、横ぐしの事業開拓部っていうのが否が応でも目に付くな。これはなんだ?

👨‍🦱;そうだね。事業開拓部は、R&Dで研究・開発された事業のネタを事業化し、各カンパニーに持ち込めるように育成する役割を担う部署だ

👱🏼‍;なるほど。おお、そして探索事業は強いトップダウンの保護がないと、既存事業につぶされてしまうから、事業開拓部は経営チーム直轄となっているんだな。

👨‍🦱;そう。新規事業部をただ設置するだけでは、既存事業につぶされてしまう。その活動まで支援していく必要があるんだ。そして、これはトップの覚悟の表れだと感じるね。トップも責任を取るってことだ。

👱🏼‍:なるほど、この構図がAGCにおける両利きの経営のベースになるわけか。俺には画期的に見えるね。

◆分離しつつ統合する

👨‍🦱;そうだな。でも、それだけじゃないんだ。事業開拓部は経営チーム直轄で独立を保っているんだが、孤立はしていないってことなんだ。

👱🏼‍;独立しているが、孤立していない?

👨‍🦱;著書では下記のように書いてある。

一時期、日本でも経団連を中心に、イノベーションのための「出島方式」が盛んに議論された。江戸時代の長崎の「出島」のように、特別に切り出した部門を設けて探索事業を行う方式だ。しかし、オライリーらの見方では、「両利きの経営」と「出島方式」は異なる。異なる組織カルチャーを形成するために、組織デザイン上、探索事業を既存事業から分離し、保護する必要があるものの、分離するだけではかえって孤立してしまうのだ。

👱🏼‍:なるほど。独立性を保ちながら繋がっているということか。そりゃそうだよな。成熟企業の既存事業の強みは当然ある。それは、顧客との長期的なつながりであったり、チャネル、生産能力、組織力、人材だったりする。これを使わない手はないよな。

👨‍🦱;そう。「分離しつつ統合する」。これこそが両利きの経営のアプローチなんだ。これがあって初めて組織は進化する。AGCの場合、統合のプロセスにおいて重要な役割を果たいsているのが事業開拓部であるんだ。

👱🏼‍;確かにそう見える。そこまで考えて、5万人のグループの舵を切ったのか・・。すごい覚悟だ。

👨‍🦱;そして、統合のプロセスは、「着想」「育成」「量産化」の三段階に整理されるといわれている。

「着想(アイディエーション)」
デザインシンキングやハッカソン、 オープンイノベーションなどの手法によって事業のアイデアを創出する。

「育成(インキュベーション)」
アイデアをもとに具体的な製品やサービス、ビジネスモデルを設計し、事業としての実効性を検証し練り上げていく段階だ。この段階では、リーンスタートアップ やビジネスモデルキャンバス といった手法が有効。

「量産化(スケーリング)」
事業を本格的に展開し、相応のリソースを投入して拡大していくの段階。

経営手法としての「両利きの経営」は、着想・育成・量産化の三つすべての段階を視野にいれた手法なんだ。

👱🏼‍:これって、「研究」、「開発」、「事業化」といったプロセスと同じだよな。

👨‍🦱;AGCでは、意味合いは同じだがM・I・T(マーケティング、インキュベーション、トランスファー)プロセスと称されているという。執行役員事業開拓部長の高田聡氏の説明を記載している。ちょっと長いが、具体的な部分を理解してもらいたいので原文を引用させてもらう。

マーケティング
マクロ・トレンドと顧客との緊密な関係の組み合わせを活用して成長の可能性のある事業分野を特定。市場の潜在力およびAGCが価値連鎖のどの部分に価値を付加できるかを考慮して評価を下す。イノベーションの多くは既存事業に近い領域で提案されるが、新事業になりうると判断される案件は五%程度だ。通常、こうしたイノベーションは技術本部に割り振られ、さらなる開発が行われる。そして将来性が見られた場合、事業開拓部から任命された小規模なチーム(五~六人)がそれを探索する。このチームは技術者とビジネスの専門家の両方からなる。彼らのタスクは、その新技術あるいは新事業が機能するか判断することにある。

インキュベーション
このチームにさらに専門家を加え、実現可能な事業はあるか、顧客は新製品あるいは新サービスを受け入れるかを判断することに集中する。高田氏によれば、なかには開発に10年の歳月と1000万ドルの資金を要するものもあるが、本社コーポレート部門がこうした試みに出資する。たとえば、高田氏は2009年にドイツの自動車メーカーを視察したチームの一員だった。この視察からプロジェクトが発足したのは2012年、事業がモビリティ事業の一部として利益を上げたのは2019年のことだったという。平井CTOによれば、このステージで事業が失敗したら、メンバーは研究開発に戻るか、新しい事業に移る。事業が利益を上げられるようになったら次のステージに進む。

トランスファー
本業の成長または買収によって事業規模を拡大する。しかし高田氏はこう指摘する。「移管によって利益率が下がったり、新しい事業責任者が十分な注意を払わなかったり、といった問題が生じることもあります」。そのため高田氏は、新事業は適切なカンパニー・プレジデントの直下に置くべきだという。そうすれば、成功のために必要な注目とリソースが得られ、既存の成熟事業のリーダーたちから余計なプレッシャーをかけられずに済むからだ。こうした事業の多くは収益が一定金額を超えた時点で、別の社内カンパニーとして独立することがある。

👱🏼‍;なるほどな。2009年の視察が2019年に日の目を見るのか。すごい継続力だな。マーケティングからインキュベーションまでも大変な道のりだ。そして、さらに事業化にもっていくまではさらなる挑戦が必要になっているのだな。

👨‍🦱:そうそう。研究から開発までの魔の川、そして、開発から事業化(量産化)までにさらに死の谷あるといわれているよ。

👱🏼‍;あー恐ろし、ただ、それを恐れずに継続し続けるということが一つの肝なんだな。

👨‍🦱:AGCでは、この魔の川、死の谷を越えていくために、AGC独自にアレンジしたステージゲート方が採用されているという。面白そうか、勝てそうか、造れそうか、粘れそうかと問い続けていくそうだ。

👱🏼‍:なるほど、でも事業化(量産化)に行くためには何をすべきなのだろうか?

👨‍🦱;オライリー教授は、量産化においては、顧客(Customer)、既存の経営資源 (Capacity)、新しい組織能力(Capability)を抑える必要があると言っている。


1、 顧客;顧客へのアクセス
2、 既存の経営資源:生産技術、生産設備、物流、サービス
3、 新しい組織能力:人材、スキル、ノウハウ、カルチャー

👱🏼‍;なるほど、既存の資産や組織能力の活用も事業化の成否を作用するってことか。

◆AGCにおける既存事業と新規事業のつなぎ方

👨‍🦱;これらを踏まえて、AGCの統合プロセスを見てみよう。やはりポイントになるのは事業開拓部だ。事業のネタを選別して、開拓し、量産化に向けて卒業までを担っているんだ。

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👱🏼‍:「走って、投げて、取る」そこまでの役割を担っているのか。そして、既存事業の中にも事業開拓的なチームがあり、そこに受け手もいるんだな。受けがあるのが一つのポイントなんだと思う。

👨‍🦱;そうだな。例えば、こんな例が載っている。

村野忠之氏が率いるモビリティ事業本部は、事業開拓部から出される自動車系の探索事業の球を受け取り、オートモーティブカンパニー内で事業化する部門である。また、事業開拓部の責任者自身が事業のネタをもったまま既存事業に入っていくことも多いという。たとえば、高田氏の前任である倉田英之氏(現常務技術本部長)は自らライフサイエンス事業を立ち上げ、それは化学品カンパニーの中の一つの事業本部となった。

👱🏼‍:なるほど、出し手が受け手に渡すこともあれば、出し手自体が受け手になる場合もあるってことか。なんとなく出し手と受け手のバトンリレーのようなイメージをしがちなんだけど、ちょっと違うのか。

👨‍🦱;そうなんだよ。バトンリレーというよりは、コンカレントのプロセスに見えるんだ。実際、初期の研究段階において、すでに生産技術の専門家が量産を意識した検討をしているんだ。それに、カンパニー側も単に探索事業の球をまっているだけでなく、開発段階に入り込んで顧客の用途と自社技術をつなぐ機能開発をしているんだ。

👱🏼‍;なるほど。

👨‍🦱;そして、それだけではないんだ。AGCの場合、ちょっとした仕掛けを作っている。著者は下記のように言っている。

育成段階を経て卒業する事業をカンパニー側が引き受ける際には、さまざまな配慮がなされている。たとえば、本社コーポレート部門が一定期間はコストを負担するという仕掛けだ。いわば探索事業のハンディキャップを認めて、本社からの現場への「ミルク補給」をするイメージだ。経営チームがこうした細やかで現実的な配慮をするからこそ、分離した探索事業を既存事業に統合することができるのである。

👱🏼‍;なるほどな、このような、分離と統合、衝突の回避が両利きの経営には必要になってくるんだな。具体的にでよくわかった。これは経営者の覚悟と器が必要になるね。自組織に対するチャレンジそのものだ。

👨‍🦱;そう。AGCは島村CEOと平井CTOと宮地CFOというトップ3がいる。平井CEOが長期的な技術を見極め、宮地CFOが戦略の観点から事業ポテンシャルを評価し、島村CEOが全体のバランスをとるという構図になっているそうだ。今日はここで終わりだ。両利きの経営の実践例は理解できたはずだ。次章では、組織の変化、つまり組織内のアライメントを再構築するプロセスについて解説する。

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今回は、両利きの経営の例として、AGCの組織変革について解説しました。分離と統合とはどんなものなのか具体例を入れながら解説しました。非常によく考えられた組織、そして、大胆な実行だと思いますね。今回3章では、組織の枠組み(デザイン)について言及したが4章では、組織カルチャーをどう変えていくかという話を解説していきます。中盤に入っていきますが、ぜひフォロー、スキよろしくお願いいたします。

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