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【両利きの組織をつくる4:第二章 AGC 変革への挑戦】

前回までのマガジンは上記に入れています。

本マガジンでは、近年注目の“両利きの経営”についてAGCを題材に事例研究した書籍、“両利きの組織をつくる”について解説していきます。今回は、前回マガジンでビジョナリーカンパニーを学習した健が同期の倫也に工場で会います。(両者とも課長)倫也がこの本について解説し、その中で2人が議論していきます。今回は第二章「AGC 変革への挑戦」を解説します。

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👱🏼‍;おはよう。

👨‍🦱;おはよう。今日は、第二章に入っていく。第一章で成熟企業における攻めと守りの組織の同時追求の重要性を話したが、そのモデルケースとなるAGCについて解説していく。

👱🏼‍:わかった。よろしく。

◆島村CEOの決意

👨‍🦱;はじめよう。2014年10月31日、島村琢哉氏は、期せずして旭硝子株式会社の次期CEOに指名される。この時AGCは順風満帆という状況ではなかった。

👱🏼‍;そうなのか。AGC(旧旭硝子)といえば、ガラスでトップ企業で高収益のイメージがあるけどな。

👨‍🦱:確かに、旭硝子は、世界最大手で最も多角化が進んだガラスメーカーであって2000年代初頭には、フラットパネルディスプレイ事業が主力となり大きな営業利益を上げていた。しかし、新たな競合企業の参入、そして、2008年のリーマンショックの影響、プラットパネルディスプレイ市場の成熟が重なり、2010年をピークに減益傾向になっていくんだ。そして、回復は難しいと予想されていたんだ。

👱🏼‍:あの頃、液晶テレビ自体劇的に価格が安くなっていたしな。でもほかの事業もAGCは強かったはずでは??

👨‍🦱;ああ、一方、化学品や主力製品である建築用ガラス、自動車用ガラスといった同社のほかの事業は比較的安定していたが、成長が見込めるような状況ではなかったんだ。その結果、2010年に過去最高益を記録した後、4期連続の減益という状況になっていたんだ。さらに、世界的にガラス事業はコモディティ化され、新興企業に業界自体が破壊されつつあったんだ。

👱🏼‍:なるほど、となると既存事業で生き残りのための強みを作らなければならない、かつ新規の成長分野を探し出さなければならなかったというわけだ。うーん。そんなに苦しい状況だったのか。

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👨‍🦱:そう。そして、外部環境の悪化だけでなく、他の日本企業同様に社員のモチベーションの低下が起こっていたようだ。この状況を書籍では下記のように記載している。

経営者の多くは、会社を成長させる破壊的な方法を模索するよりも、短期的・中期的目標を重視するというパターンに陥っている。しかし今日のような荒れた市場では、常に数値目標を達成するのは難しい。責任を追及して罰する「非難のカルチャー」が生まれ、管理職はリスクを回避するようになった。(中略)旭硝子はもはや島村氏が好きだった企業カルチャーを持ち合わせてはいなかった。同社は彼が経営したいと思うような企業ではなくなっていたのだ。社員はやる気を失い、失敗を恐れているように見えた。旭硝子はこの轍から脱却し、新しいビジョンとエネルギーで活気を取り戻す必要があった。

👱🏼‍;なるほど。最悪の状況とまでは至っていないが、社内の雰囲気としては良くなかったのだな。わかるな。ここまで大きい企業でも、トップが少しでも焦り、威圧的になるとそれが末端の現場まで伝場してくる。そして、現場の主任クラスでも威圧的になり、非難のカルチャーが醸成されてくる。トップからボトムまでが減点法の評価になりプレッシャーに苛まれていく。こんな時、現場で個人が奮起してもチームのやる気を鼓舞するのは非常に難しい。

👨‍🦱;島村CEOは就任時この状況に気づいていて、戦略を変えるだけでは不十分であり、組織のマインドセットと構造、プロセスとカルチャーも同時に変えていかなければならないと考えていたそうだ。そして、まず、全社員に「リーダーの役割は、人の心に灯をともすことだ」とメールを打っという。

👱🏼‍:すごいな。そうなのか。あえて、短期的な収益が云々の言葉でなく、組織カルチャーを変えるための一言を社員全員に送ったのか。きっと当時、感度が高い社員は、何かが変わりそうな気配は感じたと思うな。

◆AGC(当時:旭硝子)の概要

👨‍🦱:ここで、AGCの概要を見ていこう。2019年時点で、①建築および産業ガラス、②自動車ガラス、③化学品、④電子(ディスプレイガラス)の事業を行ってる。また建築、自動車ガラス、石英、フッ素樹脂などで世界最大のシェアを有している。

*なお、以下のデータは書籍にも記載されているが、AGCのHP内の総合レポート2019から抜粋している。

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👱🏼‍;それはわかる。重厚長大で、世界シェアを取っているイメージがある。

👨‍🦱;そう。そして、ここまで大きく多角化されたガラスメーカーはなく、AGCは各事業ごと異なる企業と競合していたんだ。AGCの競合は誰?といわれても事業ごと違うっていうのも一つの特徴だな。なお、2010年までは、競合は違っても各事業ともAGCは単純明快な戦略を取っていたと著書では記載されている。

👱🏼‍:単純というと?

👨‍🦱:世界進出によって成長し、現地で生産することで、オペレーショナル ・エクセレンスおよび顧客のニーズに応えてきたんだ。重視したのは、「カイゼン」を通じた製品の継続的改良、製造工程の効率性および安全性だった。要するに現地にいって、造れば売れるものを最高の効率で製造するって方法だ。

👱🏼‍;うーん。すばらしいけど、まさに昔からの日本企業だな・・。でも、それでは今は勝てなくなったということだよな。

👨‍🦱;そう。中国企業が、桁外れに生産能力を増加し、価格破壊を起こしてきた。単純に「ものづくり」だけの勝負では勝てなくなってしまったんだ。やり方を変えなければならない。

👱🏼‍:だよな。

👨‍🦱;たださ、AGCには変化のDNAが存在しているんだ。それと、変化や挑戦に対してひるまない文化を持っている。ところで、AGCの創業者の名前を知っているかい?

👱🏼‍:いや、知らないよ。さすがに。

👨‍🦱;岩崎俊彌っていうんだ。彼は、岩崎弥太郎の弟、彌之助(2代目)の次男だ。つまり、岩崎弥太郎の甥っ子にあたる。

👱🏼‍:岩崎・・。そうか、AGCも三菱系だったな。しかし、それが何か?

👨‍🦱:彼は、20歳頃にロンドン大学に留学し、日本に戻ってきてガラスが日本の発展に重要な役割を果たすことに気づき1907年に旭硝子を設立する。日露戦争後の日本、これから世界と戦っていかなければならないという国として重要な時期だな。

👱🏼‍;なんで三菱ガラスじゃないんだ?

👨‍🦱;そこが、挑戦というところ言葉につながってくるのだが、それまで国内でガラスの量産は一度もうまくいっていなかったんだ。リスクの高い事業だから失敗する可能性が高く、三菱の名を汚してはいけないから、三菱はつけられず旭硝子という名前になったんだ。そしてガラス製造を始めるんだ。

👱🏼‍;すごいな。だいぶ、当時岩崎家では揉めたのだろうな。

👨‍🦱;まあ、それは知らないが、その後、1909年にガラス製造を始め、ベルギーから職人を雇い、原料を輸入していく。第一次世界大戦によりヨーロッパからのソーダ灰や耐火レンガの輸入が断たれると、旭硝子はこれらの事業に参入し、国内でソーダ灰と耐火レンガを生産し始めた。そして、鋼鉄、セメント、化学品といった高温の窯を必要とする産業に耐熱レンガおよびソーダ灰を提供する日本最大手のセラミックスメーカーとなっていくんだ。やがてこの事業は、苛性ソーダやフッ素製品にまで拡大され、化学品事業として成長していく。そして、さらに基盤のガラス技術を発展させさらにブラウン管ビジネス、それを進化させディスプレイ基盤のビジネスも将来的発展させていく。そして、その間に、全世界にビジネスを展開していくんだ。

👱🏼‍;すごいな。確かに挑戦と変化のDNAがあるというのはわかる。

👨‍🦱;そう、そしてAGCにはこんな社訓があるんだ。

「易きになじまず難きにつく」

👱🏼‍:かっこいい。武士道に近いのかな。岩崎家も元々は武士だし、きっと時代背景も伴って、使命感と経験からでてきた言葉なのだろう。

👨‍🦱;100年にわたり、挑戦と変化を続けてきた結果が今のグローバルな会社になっているということだ。地域別売上、利益は下記だ。

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◆課題意識

👱🏼‍;そんな、会社でも苦しい状況がやってくるのだな。まあ、苦しい状況があったからこそ変化してきたんだろうけども。でも、収益だけでなく、社内の組織カルチャーを変えなきゃってトップが思うほど悪化していたのだな。

👨‍🦱;そう。そしてこの時、島村氏は下記の3点を可決すべき課題と考えたんだ。

① どのように事業ポートフォリオをリバランスすれば、高収益部門を強化できるか。
② AGCが進むべき道、会社の目標 は何か。
③ どうすれば従業員のやる気を取り戻し、社内に蔓延する内向きの思考を克服できるか。

島村氏は自身の過去の経験から、「既存の想定を疑い代替戦略を模索する必要がある」、「リーダーシップが重要であり、それは組織のあらゆる階層の人々が関与する形で発揮され、かつ常にトップが率先して遂行すべき」ということが重要だと認識しており、幹部らのマインドセットを「内向きで、効率を高め、コスト削減に注力する」ものから、「戦略とイノベーションに関するビジョン」へ切り替えることを決断した。

👱🏼‍;なるほど。

👨‍🦱;各事業の位置づけを再定義して、ポートフォリオを整理すると同時に、社員のマインドセットを前向きにすることを目指したんだ。

◆全社事業ポートフォリオ

👨‍🦱;全社としての事業ポートフォリオのリバランスは、まず、会社の資産と設備を活用して新たな市場に参入する方法を模索した。そして、その際に「AGC plus」という新たな経営方針を示したという。

👱🏼‍:どういうことかな?

👨‍🦱;資産(人材、投資費用含む)、設備を活用し、「素材を製造する企業」から「素材を開発する企業」考え方を変え、素材のソリューション提供会社になるということのようだ。

👱🏼‍;なるほど。ただのものづくりから、ものつくりを活用したソリューションの提供に変えていくと。

👨‍🦱;そう。そして、その考えをベースにもって「2025年のありたい姿」策定したという。これに関しては下記のように書かれている。

AGCの「コア事業」と「戦略事業」を定義した。コア事業(ガラス、化学品、セラミックス)は競争力のない領域からは撤退し、残った領域では効率性を重視して、戦略事業のための安定した収入基盤を提供するものとされた。「戦略事業」は次の成長エンジンとなる高成長分野の新事業である。

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👱🏼‍;そぎ落とすだけでなく、新たな成長分野を作っていく意気込みが感じられる。

👨‍🦱;これら戦略策定のプロセスに関しては、下記のように記載されている。

戦略策定プロセスにおいて、交通インフラストラクチャー(自動運転等)、ユビキタスなコネクティビティ(データおよび通信の速度と密度の向上)、世界人口の増加および長寿化(先進的な医薬品の必要性)といった分野におけるマクロ・トレンドと素材の需要を検証した。それを踏まえて、将来的な成長と収益をもたらす戦略事業の分野として特定されたのが、モビリティ、ライフサイエンス、エレクトロニクスの三つである。

なお、詳細を確認したければ、是非上述した総合レポートを見てくれ。

◆実現へのハードル

👱🏼‍;でも、これだけでうまくいくというわけではないよな?

👨‍🦱:その通り、問題はどう実行するかだ。

👱🏼‍;どうしたのだろう・・。

👨‍🦱;著書では、ここでヒントになるのは自社の過去の変化の特徴を学ぶことだと言っている。具体的に過去AGCは需要が爆発する前に超薄板の開発をしていたし、通信が3G、4G、5Gになり、自動運転ができた時新しい素材のニーズが必要になることを常に見越してきた。そして顧客との関係を長きにわたり密接に行ってきた。この歴史を見るとまず何をしなければならないかが見えてくる。

👱🏼‍;そうか、そうしてきている間に、AGCにはガラス、化学品、エレクトロニクス、セラミックスといった多様な材料技術、製造技術が蓄積されてきている。こういう、自社の強み、既存のコア事業の能力や資産をうまくマネジメントしていくことは、まず必要になるのだな。

👨‍🦱;そうだ。その一方では、コア事業の効率性を高めるという課題もある。つまり、現行の事業においては効率的であり、新事業の開発においてはクリエイティブでなければならない。

👱🏼‍;おお、なるほど。既存事業で効率性を求め、新規分野でクリエイティブであることが島村CEOが目指すべき姿に対しての課題になっていたわけか。

👨‍🦱;そうだ。それが両利きの経営につながっていくわけだ。それをどのようにしたかを次回以降解説していこう

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今回は、第二章について解説しました。AGCの概要と当時抱えていただ課題、そしてCEOが何をしようと考えていたのかがわかったかと思います。次回から3章に入り具体的な活動について確認していたいと思います。今の日本企業にとって共通課題です。ぜひ、フォロー、スキお願いいたします。

次回の記事は下記です。


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