ITで坐禅をもっと身近に──禅友 品部東晟 × Gns【前編】
坐禅とIT。
共通点のない、全く別の分野だと思いませんか?
この度、京都の寺院で坐禅の指導をしている品部東晟さんをお招きして、坐禅にITを取り入れた想いと、IT企業Gnsと共に次のステージへの挑戦に至った経緯を伺いました。
坐禅とIT。出会いのきっかけは人の繋がり。
──2人の最初の出会いのきっかけを教えてください。
品部:共通の友人からご紹介いただきました。
坐禅という身体技術を、多くの人が「自分の道具」として使えるようにしたくて、具体的なアプローチを検討していました。
私は、両足院で毎朝坐禅のやり方をお伝えしています。ですが、それだけでは坐禅を「自由に使える技術」にするまでには至らないと、課題を感じていました。
どうすればそれが可能か、「誰かと一緒に坐禅をすること」が突破口になると確信していました。誰かと一緒に坐ることは、実際に現場を共にしていなくても、オンラインで可能です。ただ、オンラインで実現するとなると、具体的にどう進めていくべきか、プロの意見を聞きたいと思っていました。そこで、友人に相談したところGnsさんと繋がりました。
──どんな印象でしたか?
渡邊:最初はオンラインで打ち合わせをしました。当時の僕は坐禅の経験がなかったため、実際の坐禅を知るために両足院の坐禅会に参加させていただきました。
初めて品部さんに直接お会いし、坐禅の面白さを知り、品部さんの考えていることや見ている世界への興味も湧きました。坐禅を続けた先の自分を見たいと思いました。もっと深く知りたいという気持ちから、共同プロジェクトがスタートしました。
──お役に立てそうと感じたのは、ITの会社として、それとも個人としてですか?
渡邊:ITの会社としてです。
様々なプロジェクトに関わる中で、「ITは主役になれない」と僕は感じています。ITは何か大きな価値があるものを、より届けやすくする補助的なものです。
坐禅、そして品部さんのビジョンの価値を確信したため、ITの力でぜひサポートしていきたいと思いました。
──坐禅の「ええやん」ポイントはどこですか?
渡邊:自分と世界を観察するところに魅力を感じました。
自分自身で「自分がどう生きるか」を考えることは僕は必須だと考えています。まず自分と向き合う。観察する。そこに坐禅の魅力を感じました。
品部:どの坐禅会でもお伝えしますが、簡単に言うと坐禅は観察の技術です。自分を観察する、身の回りで起きていることを観察する。現実を観察することで現実の自分と世界を知る、とてもシンプルです。
観察の過程で、さまざまな刺激に対する無意識の反応や、気づいていなかった体のとても微細な感覚、微細な感情の揺れなど、詳細な自分の説明書を自分で書いていくような作業をまずは繰り返していきます。そして最終的に「自分って何だろう、世界ってなんだろう」という問いに対して自分なりの納得を得ることになります。自分という存在と、世界との関係が腑に落ちるような感覚です。それから初めて、納得した状態で、自分がどう生きるかを自由に選択できると思っています。ですから坐禅は、「自由になるための技術」あるいは「自由であったことに気づくための技術」とも言えると思っています。まじない的、魔法的な要素は一切ありません。坐禅は具体的で論理的でドライな、身体の使い方の技術です。
坐禅を時代に合わせたツールとともに次の時代へ。
──ITで坐禅を広げていくためにどんなことに取り組みましたか?
渡邊:Discordというツールを使い、どこでも離れている人と一緒に坐禅ができる、オンライン坐禅コミュニティ「禅友」を技術的な面でサポートさせていただいています。
Discordは、文字、音声、映像でコミュニケーションが取れるツールです。
その中にさまざまなコンテンツを作ることもできます。テキストメッセージで坐禅に関する質問や自分が坐った場所の風景写真を送ること、そしてオンライン坐禅会に参加することができます。
品部:今までは、お寺に来てくださる方へ坐禅のやり方をお伝えすることは出来ましたが、その後の、坐禅を技術として「自由に使える」ようになるまでには距離があると思っていました。Discordを使うことで、家の中や好きな場所でスマホやパソコンを使用し、自分のタイミングでオンライン坐禅に参加できます。
「禅友」がDiscordを使っている理由は、人との繋がりを感じられるためです。坐禅の時間以外でも、参加者同士でやり取りができます。自分の感じたことをテキストで記録に残すことも可能です。
出家して僧堂に入らなくても、日々の生活の中で自分のペースで坐禅に取り組んだ人は、実際にどのようなことに気づき、何を発見し、何を考え、どのように変化を実感しているのか、そんな情報は世の中にないと思っています。「禅友」は最終的にはオンライン上の僧堂のようなものになっていくのではとイメージしています。「禅友」は、誰もが使えるプラットフォームであり、誰もが使えるオンライン上の僧堂になれば良いなと思っています。
またDiscordにおいて、参加者が自分の感じたことを記録して積み上げることは、とても大事な機能だと思っています。言語化することにより、記録した本人の頭の整理ができること、後から自分の変化のプロセスを確認できることがあります。さらに、後から参加する人たちがその情報を参照できるため、坐禅や瞑想といった一見曖昧なものについての理解が、格段に早くなります。参加者自身の生の声をそのまま読むことができるため、坐禅に初めて触れる方の「坐禅をすると実際なにがおきるんだろう」という疑問や不安にも、ある程度自分で解を見つけることができるでしょう。
──坐禅を広げたい想いから、気づけば未来のために動いていますね。
お聞きしていると、Gnsさんはサービスを一緒に作られている感じがします。
渡邊:ITを導入するだけでうまく回ることはほとんどありません。何を作り上げるかのゴール設定と、そこまでに必要な過程を1つずつ実行することが大事です。
Discordを入れて完了ではなく、使いながらより価値が多くの方に伝わるようにしていくことが、我々の仕事だと思っています。
ITだけにとらわれない。価値あるものに対してできること。
──品部さん、共同プロジェクトのスタートまで半年間ありましたが、いかがでしたか?
品部:印象的だったことは、Gnsさんが最初に坐禅を体験しに来たこと。IT会社のはずですが、坐禅を体験し続けて、理解しようとしてくださいました。
世界中の人がオンラインで坐禅をできる状態にしたいと思った時、しかるべき会社にお金を払って依頼すれば、サービスとして形にすることは容易にできるでしょう。ですが、私は「坐禅は面白くて世の中の役に立つ」と心底共感した人と一緒に広げていきたいと考えていました。
Gnsさんは、坐禅を理解するために、何度も何度も両足院の坐禅会に参加してくださり、私の想いに共感いただけたと感じましたね。
──坐禅を繰り返さずにはいられなかった何かがあるんですか?
渡邊:そうですね。初めて両足院で坐禅をした時が衝撃的で、この価値をよりたくさんの人に届けたいと思いました。「ええやん」と感じたものに対して、できることは全部やりたいという意識が強いですね。
──共感があって、初めて始まる。GnsさんはIT企業ですけど、ぬくもりを感じられますね。
後編では、坐禅を通しての変化と、これから目指す坐禅の未来についてお届けします。お楽しみに!
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〈インタビュー〉仲田 匡志(株式会社SOU)
〈撮影〉黒木 康太
〈協力〉ピースホステル三条
〈ライティング〉神崎 千晶
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