ヘーゲル先生(Globe)

1946年宮城県生まれ 東北大学建築学科卒 早稲田大学大学院仏文研究科修 ミユンヘン大…

ヘーゲル先生(Globe)

1946年宮城県生まれ 東北大学建築学科卒 早稲田大学大学院仏文研究科修 ミユンヘン大学東アジア研究所専任講師等を経て、 現在、NPO法人日本論文教育センターGlobe代表理事 著書:英語論文講義(駿台文庫) 深く「読む」技術(ちくま学芸文庫)翻訳:ヘーゲル読解入門(国文社)

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深く「読む」技術ーー解説7

⑴ 百姓は農民か はじめに「百姓」の読みと意味を記します。これは以下のように読まれ使われます。  ①「ひゃくせい」  ②「ひゃくしょう」 ①「ひゃくせい」の基本義は「もろもろの人」の意です。 ②「ひゃくしょう」の基本義は「農業に従事する人。農民」の意です。 この二点をしっかり頭に留めておいてください。①の「ひゃくせい」は今では殆ど使われないでしょう。 私の経験として高校の漢文の先生の指摘を書いておきましたが、私の年齢層の何割が「ひゃくせい」の意味でこの語を使っているか、ア

    • 深く「読む」技術ーー解説6

      § 訓練の力 上には本の小見出しに合わせて「訓練の‥‥」と記しましたが、これは「練習の‥‥」で構いません。 スポーツなら練習するのは当たり前と誰もが思っているでしょうが、勉強となると「練習」が使われることはあまり聞いておりません。それで「訓練」をもちいているのですが、内容はスポーツで言う練習と何ら変わりがありません。 要は整った論文を書くためにも練習が欠かせないということです。これは小学生なら可能な三行作文でも同じです。話題を変え、繰り返し書くことが大切です。P16L12に

      • 深く「読む」技術ーー解説5

        大学ではできない訓練 大学の授業に対しては文句を言いたい人がたくさんいると思います。それはよくわかります。P16L6に記したように、日本の大学では学生に顔をむける教員がごく一部だからです。 でも、大学教員の方にも学生に対して文句を言いたい人が多い。というよりそれが普通です。 空き時間に教員室で休んでいるとドイツ語の先生がプンプンしながら帰ってきました。まだ半分も時間が残っているときです。 どうしたのかと尋ねると、「学生が勉強しない!」という返事が返ってきました。 こうしてみ

        • 深く「読む」技術ーー解説5

          第一講 知識を理解に変える⑴ 百姓は農民か この章は網野義彦先生が書いた『日本の歴史をよみなおす(全)』(2005年、ちくまプリマ―ブックス/ちくま学芸文庫)の第一章「日本の社会は農業社会」の冒頭にある一節「百姓は農民か」の内容から、興味がわいた箇所を取り上げて検討したものです。 この本が書かれてから19年後の現在でも、「百姓は農民か」と訊かれたら、それは当たり前でしょう、と答える人が圧倒的に多いと思います。 常識を覆すこと、常識を直して正しい理解をもつこと、こうしたことは

        深く「読む」技術ーー解説7

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        • ミユンヘン大学での経験⑴
          1本

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          深く「読む」技術ーー解説4

          〇原則の詳しい説明 少し休みました。文庫の小見出しではP14の「自分を組織しなおすには」が説明されている箇所を扱っているのでした。 そこでは「ひとりの人間として感じ考える自分」(P15L1)が最も大切な点でした。その自分を豊かにするためには「自分を意識する機会を人為的につくればよい」(P15L3)とあります。 これだけでは意味が読み取れなくてもおかしくはありませんね。なにしろこれも原則を別の言葉で表現しているだけですから。この小見出しの部分で最も大切な箇所は「具体的には、どの

          深く「読む」技術ーー解説4

          深く「読む」技術――解説 3

          少し間が空きました。このノートと並行して別の原稿を書いており、それがやたら体力を食うやつなので、いったん、休止となりました。 表題も上のように変えました。 ○自分の保ち方 ●この点の核心を欠点として表現するなら 「感じ考える人間として生きている自部とは別のところに、それも学問や日本文化の名のもとに、頭だけで何やら得たいの知れない領域をこしらえ、その領域で考える自分を本来の自分であると錯覚する危険がある(p13l5-8) ●利点として捉えるなら、学生は「日本学を学ぶ学生にな

          深く「読む」技術――解説 3

          深く「読む」技術 2

          §1 日本の英語教育で自己理解が問題にならないのはなぜか これは面倒な問題ですねえ、全国の在り方を視野に入れて話すとなると、勢い統計的な数字に頼ることになるでしょう。 では、大都市圏だけに限ったらどうなのか。それでも大阪と東京とではだいぶ違いがあります。 ネットでよく言われることは、幼稚園から英語を勉強を始め、大学受験まで英語漬け、という子どもの状態です。 これは典型的な子どもの英語学習ですので、架空の事例かもしれませんが、この状態を事実として受け止め、考えてみます。 幼稚

          深く「読む」技術 2

          深く「読む」技術  1

          §01 外国語を習得する際の自分の保ち方 冒頭から身の保ち方の問題が出てきますね。12ページの小見出しの下にある2行です。 「ドイツ語とは異質の言語である日本語を学んでいるうちに自分が変わってきていることに、学生たちが気づいていないのです。」とあります。 一度読んでください。次にドイツ語を英語に変えて、自分ならどうだろうと考えてみてください。 中学生なら新しい言語を学ぶことで嬉しくてしかたがない人がいるでしょう。逆に、なんで英語なんか勉強するんだよう。英語なんて一生のうちでも

          深く「読む」技術  1

          深く「読む」技術 0

          §1 はじめにこれまで文章の書き方について述べてきました。大学のレポートや論文は結局のところ2パターンを使えばこなせる。これが結論でした。 後は内容をどう考えながら文をひねり出してゆくかです。内容は世の中の出来事の数だけあります。 それで、私は2010年にちくま学芸文庫から出した『深く「読む」技術』を実 際に私がどのように書いていったかを説明することにします。 成立の過程 この本は学芸文庫から私の翻訳したアレクサンドル・コジェーウ”著『ヘーゲル読解入門』の文庫化をしたいとい

          深く「読む」技術 0

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          §8 よくあるレポートの書き方 3行作文の次に、大学でのレポートや論文の書き方でよくある型を説明しましょう。よくあるのですから簡単な型です。 あまりにも当たり前な型だから名前もないのでしょう。 それは次のような順番をたどります。 ①提示された論題がこれまでどのように論じられてきたかを調べる ②その内容を要約する ③要約する過程で、まだ扱われていない点を見つける ここまでくれば、残るのは自分で書き出すことだけです。 でも考える作業は、実は、①から始まっています。「これま

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          §7 3行作文(続) 前回利用した3行からなる作文を「3行作文」と呼ぶことにしましょう。名前を付けておいたほうが後々便利だからです。 3行作文の特徴 3行作文は、文章が書けないで困っている人や、どう書き出せばいいのかわからないでいる人に、ヘルプを出しているのです。 その理由は簡単です。どう書き出せばいいのかわからないということは、最初の1文字や最初の1文が思い浮かばないから困っているわけですね。 3行作文はその1文字や1文が出されています。だから困る必要がないのです。

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          §6 どうすれば文章が書けるか:最も単純な型:四ステップで一まとまり 前の文章を例に型に整理してみます。 ⑴願望ーーーーーーーーーーーーーー提題   ⑵その理由ーーーーーーーーーーーー理由提示  ⑶理由を具体的に根拠付ける例ーーー理由の根拠提示     ⑷理由とその根拠から生まれる結論-結論・冒頭に戻って⑴の正当性主張 ⑴の願望は希望でも願いでも構いません。とにかく自分の方で親に何かしてほしいことがあるときに言う言葉です。 自分の願望なり主張などを語ったら、相手になぜな

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          §5 日本語で文章を書く 文章を書く場合、日本語もドイツ語も基本は同じ ドイツ人学生は1年半で日記を日本語で書けるようになりました。彼ら彼女らがそれほど早く書けるようになったのは、ギュムナジウムで文章を書く訓練をしていたからです。 ひと昔前の話になりますが、先生たちの指にはペンだこができていたそうです。 それなら日本でも中高で同じ訓練をすればいいではないか、となります。しかし日本ではこの時期が受験のために使われます。 組織的に訓練ができるようにするためには、制度を変えなけ

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          ミユンヘン大学での経験(3) 実際の授業 学生が何人受講するかはふたを開けてみなければわかりません。この年は150人でした。 それを二人の教員が教えます。当然、75人ずつ分担します。75人を一人で教えるのは無理。 それで北大からドクターが留学してきていたので、彼に手伝ってもらい、35人と40人に分けて実際の授業は始まりました。 少し傾斜のきつい階段教室に座った75人の学生の姿は壮観です。この人数を一人で教えるとなったら、ひたすら絶望するだけです。 北大ドクターの手助けは本

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          §4 ミユンヘン大学での経験から⑵ 授業の最初にテスト 私がミユンヘン大学に赴任したのは93年4月だったと思います。授業開始に際して教員が銘々学生たちに挨拶する場がもたれました。行われたのは講堂ででした。 この講堂は天井がかなり高い。そして館内は古色蒼然としている。なにしろ昔の王宮を大学の建物に利用しているのだから、これは仕方がない。それにそもそも、靴を履いたまま入るのだから、綺麗になりようがない。 学生たちに挨拶する場に話を戻しましょう。学生は200名くらい集まっていた