深く「読む」技術ーー解説7
⑴ 百姓は農民か
はじめに「百姓」の読みと意味を記します。これは以下のように読まれ使われます。
①「ひゃくせい」
②「ひゃくしょう」
①「ひゃくせい」の基本義は「もろもろの人」の意です。
②「ひゃくしょう」の基本義は「農業に従事する人。農民」の意です。
この二点をしっかり頭に留めておいてください。①の「ひゃくせい」は今では殆ど使われないでしょう。
私の経験として高校の漢文の先生の指摘を書いておきましたが、私の年齢層の何割が「ひゃくせい」の意味でこの語を使っているか、アンケート等でデータを取らなければ何とも言えません。
①の「ひゃくせい」の方が基本義でより古いのでしょうが、こういうことは日本語の語彙学専攻の人にお任せします。
「ひゃくしょう」は「農民か」が問われているのですから、今はもっぱら「ひゃくしょう」の方を用います。
以上が基本的知識として頭に入れておかなければいけないことです。もうひとつ、今度は、歴史に関する知識として頭に入れておかなければならないことがあります。以下がそれです・
江戸時代までは農本社会
日本の社会は少なくとも江戸時代まで農業社会だった、という常識が非常にひろくゆきわたっている。
江戸時代までは農本社会か?ーー問題提起はじまる
でも実情はそれとかなり異なる、と歴史学者の網野さんは言います。ここから問題が始まるわけです。
この誤った常識が広まった理由は、何よりも、支配者がほぼ一貫して「農は国の本」という姿勢を取りつづけたことにある。
事実の検討
律令国家: 水田のないところでも一定面積の水田をあたえ、水田を租
税の基礎に国家をささえる制度を敷いた。
近世の幕藩体制:商業の利潤まで米に換算して課税した。
(以上の実態を歴史学者網野自身が知ったのは、ほぼ7,8年前のこと)
実地調査による確認
網野の大学の研究所が奥能登の時国家を調査
時国家が営んでいた業種:
江戸時代に200人くらいの下人を従えていた
北海道から京大阪にいたる廻船業を営む
製塩・製炭・山林経営・金融業
時国家に100両の貸し付けをする資力のあった廻船商人の柴草屋
教科書で貧しい農民・小作人と説明される水吞とされている
結論:
柴草屋は土地を持つ必要のない人
以上の結論から、土地を持てば農民、と見なされた可能性も浮かび上がってきますね。でも、そう断定できるのか。これは江戸時代の土地制度などを専攻する研究者に任せ、この点はこれ以上触れないことにします。
一旦の整理
①「ひゃくしょう」は農民を意味するのが常識だった。
②これは誤った常識で、それが広まった理由は、支配者がほぼ一貫して「農は国の本」という理由を取りつづけたことにある。
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