深く「読む」技術ーー解説4

〇原則の詳しい説明
少し休みました。文庫の小見出しではP14の「自分を組織しなおすには」が説明されている箇所を扱っているのでした。
そこでは「ひとりの人間として感じ考える自分」(P15L1)が最も大切な点でした。その自分を豊かにするためには「自分を意識する機会を人為的につくればよい」(P15L3)とあります。
これだけでは意味が読み取れなくてもおかしくはありませんね。なにしろこれも原則を別の言葉で表現しているだけですから。この小見出しの部分で最も大切な箇所は「具体的には、どのような文章を読むときにも、それをひとりの人間が書いた文章として受け止め、文章をとおしてでなければ見えてこない著者の姿や現実が捉えられるよう、丹念に文章を読みながら、理解したことを自分で文章にする訓練を積めばよい。その文章には嫌でも自分があらわれ、自分を見つめることになるからである。検討のときに文章の内容を現実の事態として捉えれば、自分の現実理解も確認できる」です。文として3文、行として6行。かなり長いですね。それ以上に厄介なことは書かれてある事柄を実行することです。
明日はこの3文をばらして説明します。

明日と言っておきながらまた休んでしまいました。さっそく上の文章を個々にばらして検討します。

①どのような文章を読むときにも、それをひとりの人間が書いた文章として受け止める
この①は案外意識していないことが多いので、意図的に記しました。どの文章も誰かが書いたものです。ですから、文章を読むときには、文章の内容だけではなく、書いた人は何を考えながらこの文章を読むほうがいいというのがこの①の言いたいことです。
文章をとおしてでなければ見えてこない著者の姿や現実が捉えられるように、文章を読む。
①からこの②が出てくるわけですが、この②を実践するのはとてもたいへんです。最初は評論文などを利用しながら、あの小説にはこんな読み方もできたのか等と考えるほうが自然な訓練になります。
丹念に文章を読みながら、理解したことを自分で文章にする訓練を積めばよい。
文章読みの訓練は、実際には、ここから始まるのでしょうね。要約は「理解したことを自分で文章にする」方法の一つです。
私は国語の勉強の一環として単元ごとに日本史の本を読ませ、それを要約させています。そうすると、とんでもない要約文を書く子がいます。桓武天皇の事績を描いた漫画を200字で要約するよう求めたことがあります。そのとき「私は桓武天皇をほめている」と書き始めた子がいました。どうやらこの子は桓武天皇より偉い立場に立っているんですね。
この子に限らず、自分を知らないと、飛んでもない要約を作ってしまいます。ですから要約の訓練は誰かに見てもらうのがいいでしょう。ということは「理解したことを自分で文章にする訓練」も実際にはだれか指導者のいる場で行われるのが一番です。
その文章には嫌でも自分があらわれ、自分を見つめることになるからである。
「その文章」とは自分で書いた要約の文章です。この④は②と同じくらい難しい。自分を見ない人はたくさんいますから。でも、その自分をほっておくと大人になって困ることになるでしょうね。自分を見る機会はできるだけたくさん欲しいものです。
検討のときに文章の内容を現実の事態として捉えれば、自分の現実理解も確認できる
この⑤も実際には高級な訓練で、③を数年続けることでやっと到達するレベルになるでしょう。

以上が「自分を組織し直すには」の最も大切な部分です。「はじめに」で大切な箇所をさらに挙げると、P16の最後「文章を書くということが自分の頭を洗いざらい総点検することだということもわかってきます」ですね。簡単には自覚を高めることと言ってもかまいません。
最後はP17L3〜の「考えるという行為がどのような営みなのか、それが生きるプロセスとどのように結びついているのか、その一端を明らかにできるようにと、本書を執筆することにした」で、この本の意図が出ています。
ですから、この本は試験に役立つ作文の練習などとは一切かかわりがありません。私が書いたものでその種の本が欲しかったら、他にありますから、それを参考にしてください。










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