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詩 大切なものたち 記憶の中で

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形象化と現実は、少しズレていて、本当の出来事より印象に残ったりします。
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2023年1月の記事一覧

詩)座席お-21

詩)座席お-21

座席お-21
大牟田の映画館は重いドアの向こうだった
暗闇の中 席をたどる
錆びたゴツゴツの真鍮の座席表
あいうえおのお 1234・・21番
ここだと真鍮を擦って 座る
目の前の席に太ったおばさん
はみ出している
館内は煙草の匂い
煎餅やらキャラメルやら
女の香やら 
鼻歌もある 肌から滲み出る汗のすえた匂い
大牟田 ここは 真っ黒
石炭がまだ産業の真ん中だった頃
混じりあい 粘つく 湿気
絡み

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詩)愛なんて

詩)愛なんて

愛なんて ひとりで成り立つ訳ない
甘えん坊 声だけでいい

詩なんて 喜怒哀楽 の端っこ
の そのちょっと先 の
ふり の 訳のわからない先

ああなんで 人って最後まで 
ああ 自分の死ぬ瞬間を
見られたら 納得するだろうか

ワインで悪酔い  いい歌は
優しすぎて かえって辛い
塩辛でワイン 合うわけないと思っていたけど

若い時に もっとめちゃくちゃに 
もっと 何もかも捨てて
そう今思う 

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詩)鰻重特上

詩)鰻重特上

父が死んだ時 母は居なかった
22歳からずっと一緒に暮らしてきたのに
最期は離れ離れだった
(死ぬところを見られたくなかったからよ)
母は意外なほどサバサバしていた

まだ父が元気な頃
父と母を鰻を食べに連れていった行った
鰻重特上
もう食べられなくなるかもしれないと思い
いちばんいいものを食べてもらおうと「特上」を頼んだ
その場で鰻をさばき 蒸して焼く
鰻を焼く香りが店中に充満し
頭の中は柔

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詩)女房と銭洗弁天

詩)女房と銭洗弁天

テキトー男である わたし
詩を書いてますとなかなか周囲に言えない
いわゆる「詩人」というイメージとは程遠い
言葉の魔術師とかではもちろんない
繊細な神経は持っていない
うるさいことは聞き流す
よく「ハイハイ」と返事をし
「ハイ」は一回でいいと女房に言われる

女房はなかなか面白い
昼にラーメンを食べていると急に笑い出す
どうしたの?
小葱の輪っかに箸が入って動かなくなった ほら
とみせてくる 

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詩)今日はもうおしまい

詩)今日はもうおしまい

残業して遅くなって
詩を書こうとメモを広げた
けれど
頭がまるで回らない
今日はもう
おしまい

女房が
母ちゃんが といい
すい臓がんかもと言う
さっき電話があってね
まだわからないけどね

言われ

そうか
もう手術は無理だね
そう答え
もうなにを考えても
なにも浮かばない
親父と一緒の病か

それで
今日は
もう
おしまいです