新世紀マーベラス

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新世紀マーベラスnovel episode1(52)

そもそも、今さらそれを知ってどうなると言うのか。 ルミナは捨て鉢に考える。 だから、エマが「渡したい物があります」と行った時も、表面上はともかく、内心では興味を持つことができなかった。 エマは託されたそれをポケットから取り出したそれ。 「――ぁ」 鈍く頭を持ちあげたルミナは釘付けになる。 「これ、は……」 震える手を伸ばす。 「アイナちゃんの部屋にあったものです。箱に入れてあってきっと大切な物なんだろうなと思ったので、ルーミンに」 差し出されたのはひとつの髪飾りだった。 高価

    • 新世紀マーベラスnovel episode1(51)

      楽園がなくなってもすぐに街は変わらない。  LSPの活躍で売られていた子どもたちの奪還には少なからず成功している。 それに貢献したのがアイナの部屋に残されていた資料なのだという。 彼女は楽園に潜入後、人身売買のルートを探り出していたようなのだ。  とはいえ、街自体立ち直るのにも時間が掛かるし、一度蔓延してしまったクスリの影響を完全に取り除くのは難しい。 依存から抜け出せない者、抜け出したものの離脱症状に苦しむ者、クスリのせいで家族を失ったもの様々で、残された爪痕は大きい。  

      • 新世紀マーベラスnovel episode1(50)

        「あい、な……」 呼び掛けてもガラス玉のような瞳に光は戻らない。 信じたくない。 認めたくないが知っている。 この目は、死んだ人間と同じ目だ。 「あいなぁ……っ」 狂笑している声に誰かの憤った声が加わる。 エマと桜夜がやってきたらしい。 機械的に情報が入ってきて、頭を素通りしていく。 「うぅぅ……」 妹の体に縋りつく。 アンドロイドだと知っても彼女の体は柔らかく、まだ温かい。 「起きて、起きてよぉ……」 アイナが最期何を言おうとしたのか、ルミナにはわからなかった。表情をもどか

        • 新世紀マーベラスnovel episode(49)

          「……なに?」 こんなにも根づいていたのかと、自分でも信じられなかった。 たかが潜伏先の子ども一人に、機械たる自分がほだされるなどと。 だが、意識しないよう目を逸らしていただけで、本当はわかっていた。 正義のため、組織のためなどと嘯いておきながら。 一人で楽園に来たのも。 楽園に来た姉を冷たく拒絶したのも。 本当は全部。 『アイナ』 自分を求めてくれる、ただ一人の家族のためだった。 「殺さないであげるから、大人しく捕まって」  ――もう、私には無理だ。人は殺せない。 ここに来

        新世紀マーベラスnovel episode1(52)

          新世紀マーベラスnovel episode1(48)

          「こんなところに逃げるなんて……、本当に、あなたは愚かなのね」 頭上に大きな鐘を備える、見晴らしのよい大鐘楼だった。  アイナは切っ先の欠けた手甲剣を教導長に突きつける。  そこら中から滴る紅い血――機械油が不快で仕方ない。片腕は既に機能しない。片目は役割を成していない。それでも目の前の男を殺すには十分すぎるほどだ。 「くそっ」  残った片腕に握る拳銃から発砲された弾丸を刃で弾く。 「無駄だって、わかるでしょ?」 冷静に問えば、教導長は悔しげに唇を噛みしめている。 高高度故に

          新世紀マーベラスnovel episode1(48)

          新世紀マーベラスnovel episode1(47)

          熱線に貫かれてボロボロの体を引きずりながらアイナは教導長を追っていた。姿は見えないが、発信機がついている。彼はレジスタンスから逃れようと上へ追い詰められているようだった。 それこそ逃げ場がなくなってしまうのに、そこまで頭が回らないほど焦っているらしい。 よくそれでこの規模の組織を創り上げたものだと、いっそ感心すらしてしまう。 道中現れる楽園の衛兵たちを打ち倒しながら、アイナは教導長のもとを目指す。 「……ぐっ」 エマにやられた傷に加えて連戦による消耗が激しい。 片足を引きずる

          新世紀マーベラスnovel episode1(47)

          新世紀マーべラスnovel episode1(46)

          「安心しろ、殺しはしない。だが、捕えさせてもらうぞ」 「……調子に、乗るな……っ」 膝をつき、それでもなおアマレスの目は殺気に満ちている。 そんな彼のもとに、彼と同じ外套に身を包んだ者が、まるでアマレスの影から生えるように現れた。 「貴様、どこから――」 新たな襲撃者のこともなげに振った剣によって、突きつけたレイのそれが宙を舞う。 「な……っ」 剣がレイの遥か後方に突き刺さった。紅く染まった刀身から血が地面へと染みて白銀へと戻っていく。 抵抗の手段をなくした彼女に何をするでも

          新世紀マーべラスnovel episode1(46)

          新世紀マーベラスnovel episode1(45)

          「ハッ、やってみろよ」 大げさに肩を竦めて見せるアマレスの背後から、メアリーが切りかかる。 「レイにはあげないよ――!」 「てめえの方は芸がねえなぁ!」 両手剣を振り向きざまに袈裟斬り。 メアリーは先刻よりも数段素早い動きで体を回転させそれを避けると、勢いを乗せた蹴りを放つ。 「チッ!」 「さっきのお返し」 「効いてねえよ」 蹴り足をそのまま退く動力に変えて返しの剣閃を紙一重で回避。 距離が空いたのを見て、エマが大杖を振る。 「炎熱よ、疾く敵を穿て――フレイムピアサー!」 熱

          新世紀マーベラスnovel episode1(45)

          新世紀マーベラス novel episode1(44)

          「……あ?」 「……エマ?」 血の滲む腹部を押さえながら立ち上がる。  ――まだ動ける。だから大丈夫。 「もしあのおじさんが自分の行いを反省してくれたら、もし自分のやったことに後悔して人助けをしてくれたら助けられる人はたくさん出ます。殺しちゃったらおじさんが助けるはずだった人たちも助からないのです!」 あまりに都合のよい希望的観測に満ちたエマの未来視。 「それにっ、そもそも人の命は奪っちゃダメダメのダメなのです。あなたは、そんなこともわからないのですか……!」 アマレスはキョ

          新世紀マーベラス novel episode1(44)

          新世紀マーベラスnovel episode1(43)

          ならば、私たちと目的は同じ――」 「いいや、違うね」 男が首を振る。 「てめえらはあのおっさんを殺さずに捕えようとしてんだろ。そのやり口はあめぇ。悪人は殺されるまで止まらねえよ。生かせば必ず次の犠牲者が出る。何度でも繰り返す。何度でもだ」 「思想が過激過ぎる。どんな者にだって更生の機会はあるべきだろう!」 「……で、また被害者が出てから考えるってか?」 静かな指摘にレイは眉を上げた。 「……なに?」 「そうなった時、てめえらは被害に遭った奴らになんて言う気だ?」 「実際にそう

          新世紀マーベラスnovel episode1(43)

          新世紀マーベラスnovel episode1(42)

          エマは異世界人であり、当然彼女の使用する魔法はこの世界において未知の技術のはずだ。だがこの男はエマのクレイランスを発動する前に読んでいた。つまり―― 思考を読んだようにエマを見て笑みを深める。 「余所見してる場合?」 メアリーが両手のナイフで突きを放つ。別方向からの二撃を、アマレスは両手剣を軽々と振るって弧を描き、二本のナイフを巻き込むようにして払った。 「あーわり、眼中になかったわ」 距離を取ったメアリーを冷めた目で見据える。 「……あはは、すごいじゃん」 目つきが鋭くなる

          新世紀マーベラスnovel episode1(42)

          新世紀マーベラスnovel episode1(41)

          「やらせないって」 追い掛けようとするメアリーの脇腹をアマレスが蹴りつけた。 「ぐ……っ」 「そりゃこっちのセリフだ」 メアリーを蹴り飛ばしたアマレスがさらに迫ってきたレイと切り結ぶ。 「くっ」 「おっとぉ、油断も隙もねえなぁ」 「エマ、あの娘を止めろ!」 言われる前に動き出している。 「はい! アイナちゃん、ごめんなさい。炎熱よ、疾く敵を穿て――フレイムピアサー!」 エマの詠唱とともに複雑な軌道で振った大杖から幾重にも紅い熱線が放たれる。 空気を焼きながら高速で飛ぶそれに気

          新世紀マーベラスnovel episode1(41)

          新世紀マーベラスnovel episode1(40)

          黒い外套にフードを被ったその者の手には両手剣が握られていて、首を刎ねんと振りかぶられている。 メアリーが目を見開く。 「エマ君!」 「はいなのです!」 メアリーの指示にエマは手のひらを教導長に向けた。 そしてまるで彼につながれた綱を引き寄せるように拳を握って自身の方へと引き寄せる。 無詠唱で使用できる念動魔法だ。 「むぉっ」 結果、教導長は何かに引かれるように前のめりに倒れ、その頭上を刃が掠った。 「チッ」 舌打ちをする襲撃者を逃すまいとメアリーがナイフで追撃を仕掛けるが、そ

          新世紀マーベラスnovel episode1(40)

          新世紀マーベラスnovel episode1(39)

          「がああぁぁぁ――っ」 血を浴びた子どもたちが悲鳴を上げてレジスタンスのもとへと駆ける。 手の甲から伸びる刃を教導長に突きつける灰銀の髪の少女。 その姿に、エマは見覚えがあった。 「アイナちゃん!」 アイナは恐ろしく冷たい目を、腕を押さえてうずくまる教導長に向ける。 「目標、楽園教導長マルク。機は熟しました。あなたを殺します」 「ひ、ひいぃぃい!」 首を寸断せんとする刃を止めたのはレイだった。細身の剣でアイナのそれを受け止める。 「桜夜、ルカ、みんなを!」 レイの指示に二人が

          新世紀マーベラスnovel episode1(39)

          新世紀マーベラスnovel episode1(38)

          「……アラン、すまなかった。おまえの言う通りだ。俺はおまえの気持ちを裏切った。不幸に酔っておまえを蔑ろにしてしまった。……俺は飛んだバカ親だよ。……でもな、でも変わる。変わるさ、変わってみせる」 血走った目は、くずおれた膝は、未だ依存から抜け出せてはいない証拠だ。だが強烈なその誘惑を断ち切ったのは正しく―― 「はあぁ、これこそ愛――っ」 ルカが陶然とした呟きを漏らす。 「だからアラン……戻ってきてくれないか……? 約束するから、もうおまえを手放したりしない……っ。不幸を理由に

          新世紀マーベラスnovel episode1(38)

          新世紀マーベラスnovel episode1(37)

          「おい、ルカ! これがおまえの待っていたものか⁉ これでは――」 「メアリーさん。袋を」 焦るレイには取り合わず、ルカはメアリーに指示を出す。 「はいはい」 メアリーはどこまでもマイペースに短槍の男、レジスタンスたちの前に袋を置いた。メアリーとともにやってきた者たちもそれにならって、次々と袋を積み重ねていく。 「さて、さっきこの人が言った通り、この中にはあんたたちの大好きなおクスリがたくさん」 瞳孔の開いた感情の読めない瞳がレジスタンスたちを見渡した。 「適当に売っぱらっても

          新世紀マーベラスnovel episode1(37)