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新世紀マーベラスnovel episode1(50)

「あい、な……」
呼び掛けてもガラス玉のような瞳に光は戻らない。
信じたくない。
認めたくないが知っている。
この目は、死んだ人間と同じ目だ。
「あいなぁ……っ」
狂笑している声に誰かの憤った声が加わる。
エマと桜夜がやってきたらしい。
機械的に情報が入ってきて、頭を素通りしていく。
「うぅぅ……」
妹の体に縋りつく。
アンドロイドだと知っても彼女の体は柔らかく、まだ温かい。
「起きて、起きてよぉ……」
アイナが最期何を言おうとしたのか、ルミナにはわからなかった。表情をもどかしく変えようとしていたが、それがどのような感情によるものなのか、読み取れなかった。
もしかしたら恨み言を言われたのかもしれない。
散々邪魔だと言われたのに、それでも追い掛けたりしたからアイナは死んでしまった。
おまえがいなければと憎まれているのかもしれない。
「ごめん、ごめんなさい……っ」
教導長が連れて行かれる。
その去り際、エマが何か言いたげにこちらを見ていたようだったが、結局何も言うことなく去っていった。
それをありがたいと思う。
今何か言われたら、それが何であれ、自分は爆発してしまうと自覚していた。
全ての責任をエマに押しつけ理不尽に糾弾していただろうから。
「ごめんね、あいな――……」
胸を潰してしまいそうな罪悪感を抱えて、ひたすらに謝ることしかできない。
大きな鐘に風が渦巻き、低い声で弔っている。
沈みゆく夕日に見守られながら、姉妹は終わりゆく時に呑まれていた。


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