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新世紀マーベラスnovel episode1(52)

そもそも、今さらそれを知ってどうなると言うのか。
ルミナは捨て鉢に考える。
だから、エマが「渡したい物があります」と行った時も、表面上はともかく、内心では興味を持つことができなかった。
エマは託されたそれをポケットから取り出したそれ。
「――ぁ」
鈍く頭を持ちあげたルミナは釘付けになる。
「これ、は……」
震える手を伸ばす。
「アイナちゃんの部屋にあったものです。箱に入れてあってきっと大切な物なんだろうなと思ったので、ルーミンに」
差し出されたのはひとつの髪飾りだった。
高価なものではない、言ってしまえばどこにでもあるような、わざわざ箱に入れるまでもない品だ。だからこそ、エマはルミナに渡す必要があると思ったのだろう。
「あぁ……」
自身の髪につけている月の髪飾りと対になる、星をあしらったそれは。
「……うぅ、あぁ……っ」
頬に温かく流れるものがある。
 ――ああ、よかった。
きっと、疎まれてなどいなかった。
安堵が固く冷えた胸の内を解していく。
だがそれを知ったところで、もうアイナはいない。
いないのだ。
『ありがとうお姉ちゃんっ、絶対大事にするね!』
プレゼント用の粗末な箱を胸に抱く妹が浮かぶ。
その光景を皮切りに思い出の奔流が胸を浸す。

『お姉ちゃん、大好き!』
『お姉ちゃん』
『お姉ちゃんっ』
『お姉ちゃん』

 偽りの姉妹だと他ならぬアイナから言われたのに、こんなにも思い出は温かく蘇る。
「う、あ……」
だが記憶は最近のことばかりで、それはすぐに底をついてしまう。
当たり前だ。
実際に共にいた時間はわずかで、それまで両親が死んでからずっと、ルミナはたった一人で生きてきたのだから。なのに――
「ああああぁぁぁぁ――!」
なのになぜ、こんなにも胸の中心をえぐり取られたような痛みがあるのか。
この涙はとめどなく溢れて止まないのか。
「ああああああぁぁぁぁぁぁ――……っ」
 喉が熱い。
 知らない。
 潰れてしまえ。
 妹を失った姉にできることなんて、それしかないのだから。
 アイナ。
 アイナ――。
 アイナ――……っ。

「……――お願いがあるの」
ひとしきり泣いてようやく落ち着いたころ、ルミナはエマにそう言った。
「お願い、ですか?」
エマが鼻をすすりながら聞き返してくる。
一緒に悲しんでくれたことに、少しだけ嬉しくなる。
「私を、LSPに入れて」
不意の提案にエマはキョトンとした。
「LSPはあいつらを追ってるんでしょ? アイナを利用したあいつらが正しいなんて思えない、認めない」
アイナのような思いをしている者がいるのなら、放ってはおけない。
「だから、私も仲間に入れて」
強い意思でルミナは二人を見つめた。

 街を見下ろす丘の上には、かつて楽園と呼ばれた城があった。
そしてその隣、一本の木の下にはひっそりと小さくて、少し歪な墓が建てられている。
墓の周囲には名も知らぬ花が咲き誇り、揺れている。
そこに、一人の少女がいる。
黒い髪に月と星、二つの髪飾りをつけた、褐色の肌の少女だ。
「絶対、また帰ってくるから」
墓の前で目を閉じていた少女が呟く。
「おーい!」
呼び掛ける声がして、少女は振り返った。
「今行きます! ……じゃあね、アイナ」
墓に背を向けて少女が駆けていく先。
そこには五人の仲間がいる。
彼女たちに迎えられる姉を、小さな墓石は穏やかな風とともに見守っていた。
                

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