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新世紀マーベラス novel episode1(44)

「……あ?」
「……エマ?」
血の滲む腹部を押さえながら立ち上がる。
 ――まだ動ける。だから大丈夫。
「もしあのおじさんが自分の行いを反省してくれたら、もし自分のやったことに後悔して人助けをしてくれたら助けられる人はたくさん出ます。殺しちゃったらおじさんが助けるはずだった人たちも助からないのです!」
あまりに都合のよい希望的観測に満ちたエマの未来視。
「それにっ、そもそも人の命は奪っちゃダメダメのダメなのです。あなたは、そんなこともわからないのですか……!」
アマレスはキョトンとした後、腹を抱えて笑った。
「……くははは! 確かにその通りだな、エマ・キルケ」
「……エマのことを知ってるのです?」
「ああ、てめえの噂はよぉく聞いてたぜ? 冒険者でありながら、よくそんな甘えた価値観でいられるもんだ。……想像通りだぜ、クソみてえにな」
「あなたも冒険者だったのですか?」
アマレスは一瞬、苦痛に喘ぐように眉根を寄せた。
「――勇者。そう言えばわかるか?」
次の瞬間にはまた皮肉げな笑みに戻っている。
勇者。
エマがいた世界で、冒険者の中でも魔王と呼ばれる勢力の軍勢に対抗し続ける者たちがそう呼ばれていたはずだ。エマ自身も国の使いを通じて何度か勧誘されたことがある。彼女自身は縛られることを嫌ってそれを受けることなく断り続けたが。
 ――やっぱり、この人はエマと同じ世界の……。
「……エマ。ありがとう」
俯いていたレイが呟くように言った。
「君の言う通りだ。……命を奪うのはよくないこと。子どもでも知っているただそれだけの簡単な話だな。だが、今はそれだけわかっていればいい」
レイが眼前に剣を横立てる。
「だから、悪人だろうが何だろうが、今奪われようとしている命を救うため、ただそれだけを考えて全力を尽くす……!」
そして自身の手を刃に滑らせた。
「なにしてやがる」
刀身がレイの血で紅く染まる。それは次第に妖しく輝きを放ち始める。
そして、彼女は人差し指を立てた。
「一太刀だ」
「……なに?」
「私の一太刀で終わらせる」
レイは凛とした顔で宣言した。

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