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新世紀マーベラスnovel episode1(37)

「おい、ルカ! これがおまえの待っていたものか⁉ これでは――」
「メアリーさん。袋を」
焦るレイには取り合わず、ルカはメアリーに指示を出す。
「はいはい」
メアリーはどこまでもマイペースに短槍の男、レジスタンスたちの前に袋を置いた。メアリーとともにやってきた者たちもそれにならって、次々と袋を積み重ねていく。
「さて、さっきこの人が言った通り、この中にはあんたたちの大好きなおクスリがたくさん」
瞳孔の開いた感情の読めない瞳がレジスタンスたちを見渡した。
「適当に売っぱらっても街の再建には十分だね。なんなら少しくらい使ったって家族みんなで少しは贅沢もできるくらいには余るんじゃない?」
「おい女! それは私のクスリだ。何勝手なことを――っ!」
殺気のこもった視線がメアリーから飛んで、教導長は声を詰まらせる。
「ま、好きにしたらいいよ」
メアリーは短槍の男にそう言って、さっさとその場を離れる。
「あぁ……」
抗いがたい苦悶の表情。
落ちくぼんだ目、やつれた頬は飢餓だけが原因ではないだろう。
「ああぁ……」
袋をゆっくりと持ち上げ、抱きしめるように抱えた。他の者たちも光に誘われる虫のようにふらふらと袋を抱える。
「すぅ――……」
顔を埋めて息を吸う。それはまるで魂を袋の中に潜らせようとしているかのようで。
「親父……」
アランはそんな父の姿に痛ましく唇を噛みしめ、教導長はにやけ顔を濃くした。
そして――
「……俺たちを――舐めるな」
袋を噴水の中へ投げ捨てた。
他の者たちもまた、次々と袋を投げ捨てる。
「こんな、くだらない、ただの粉に……なんの価値がある――っ!」
 ふーっ、ふーっ。
男は食いしばった歯の隙間から荒い息を吐いている。その顔にはクスリに侵されてなお、理性を保とうと抵抗する強い意思があった。


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