見出し画像

新世紀マーベラスnovel episode1(38)

「……アラン、すまなかった。おまえの言う通りだ。俺はおまえの気持ちを裏切った。不幸に酔っておまえを蔑ろにしてしまった。……俺は飛んだバカ親だよ。……でもな、でも変わる。変わるさ、変わってみせる」
血走った目は、くずおれた膝は、未だ依存から抜け出せてはいない証拠だ。だが強烈なその誘惑を断ち切ったのは正しく――
「はあぁ、これこそ愛――っ」
ルカが陶然とした呟きを漏らす。
「だからアラン……戻ってきてくれないか……? 約束するから、もうおまえを手放したりしない……っ。不幸を理由に甘えたりしない、真面目におまえと一緒に生きると誓う! だから……っ、だからアラン――っ!」
枯れ木のような手を伸ばす。
他の者たちも涙ながら口々に懺悔し、自身の子の名を呼び、求める。
「……親父」
子どもたちもまた、泣いていた。
エマたちのもとへ戻ってきたメアリーが心底興味の薄い顔でルカに言った。
「これで満足?」
「ええ――とても」
これ以上ないという満足げなルカの蕩けるような笑みを見ながらレイが「なるほどな」と呟いた。
仮に彼らがクスリを選んだとして、エマたちはそれを見逃すわけにはいかなかった。実際のところ選択肢の片方は全てを失う奈落への片道切符だった。……レジスタンスの面々はそれを知る由もないだろうが。
そんな綱渡りの選択肢を、自らの意思で彼らは勝ち取ったのだ。
「ハッピーハッピーなのです!」
エマが抑えきれんばかりの喜びを言葉にしてはしゃぐ。
「……くだらん」
そんな彼らを地の底から響くような声が冷や水を浴びせた。堕落していく様を見届けようという期待を裏切られた教導長だった。
「ゴミどもがくだらん茶番を見せよって! もうよい、こうなったら貴様らも道連れだ!」
「桜夜!」
「はい」
自棄を起こす教導長を止めるべく、桜夜は仕込み傘を構えようとする。
しかし、それよりも早く動く者がいた。
灰銀が子どもたちの中を縫うように動き、教導長のすぐ傍についた。
「貴様、なん――っ!」
血しぶきと拳銃、そして腕が宙を舞った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?