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【連載小説】CANCER QUEEN

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がん細胞のクイーンが、がん患者のキングに恋をしてしまい、なんとか彼の命を助けようと奮闘するSFファンタジー小説
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#肺がん

With  Cancer  をどう生きるか

With Cancer をどう生きるか

新型コロナウイルスによるパンデミックは、世界中に混乱と恐怖をもたらしましたが、この3年の間に、人類はパンデミックを乗り越え、コロナとともに生きる「ウィズコロナ」の時代へと新たな挑戦を始めています。

一方、がんは依然として人類にとって最大の脅威の病であり続けています。
いまや日本人の二人に一人が罹るというがんは、すでにいやが応にも私たちに ウィズがん(with cancer )の人生を強いている

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CANCER  QUEEN  ステージⅠ  第3話 「ドクター・エッグ」

CANCER QUEEN ステージⅠ 第3話 「ドクター・エッグ」

 
今日は、再検査の日。病院までは自宅から歩いて15分。近くていいね。早々と、朝9時には着いた。
こんなに朝早いのに、1階のロビーは、もう人でいっぱい。ここは地域の拠点病院というだけあって、患者さんが多い。それにしても、この多さにはびっくり。

このあいだ、“近年、日本の医療関係予算は膨らみ続けている”というニュースをテレビでやっていたけれど、無理もないわ。
なんて

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CANCER QUEEN ステージⅠ 第4話「幸運の女神」

CANCER QUEEN ステージⅠ 第4話「幸運の女神」

 さすがに5泊6日も入院するのは時間と費用の無駄だと思ったのか、キングはドクター・エッグに頼んで、精密検査の日程を1泊2日に変更してもらった。
そうよね。いくら土日は入院手続きができないからといって、2日で終わる検査に6日も入院させるなんて、どう考えてもおかしいわ。そんな病院側の事務的な理由で患者に負担をかけるなんてとんでもない。
とまあ、わたしがむきになって怒ることではないけれど

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CANCER QUEEN ステージⅠ 第5話 「キングの望み」

CANCER QUEEN ステージⅠ 第5話 「キングの望み」

 

この頃、キングは物忘れが多いようだ。今日は2度もあった。
1度目は、会社のパントリーにある湯沸かし器のつまみを元に戻すのを忘れたらしい。彼は大のコーヒー好きで、職場でも毎日欠かさず、自分でドリップコーヒーを淹れている。それで、できるだけ熱いお湯を注ぐために、湯沸かし器を高温にセットするのだ。いつもは低温に戻しているのに、今日は忘れてしまったらしい。女性社員から厳しく注意されて、

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CANCER  QUEEN  ステージⅠ 第6話「運命」

CANCER QUEEN ステージⅠ 第6話「運命」

以前から、キングは人前で平然とタバコを吸っている人を見かけると不機嫌になっていたけれど、肺がんと告知されてからは、それがいっそうあからさまになった。タバコを吸わない自分が肺がんになったのは、受動喫煙が原因に違いないと思っているの。そう決めつける根拠はなにもないのだけれど、そうとでも思わないと、肺がんになったことの理不尽さや悔しさをどこにも持っていきようがなかったのね。

一昔前まで

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CANCER  QUEEN ステージⅠ  第7話 「外科部長」

CANCER QUEEN ステージⅠ 第7話 「外科部長」

 ドクター・エッグから精密検査の結果を聞いた翌朝、キングは元気に家を出た。透き通るような青空が、公園の黄色く色づいた銀杏の葉を際立たせている。

がんの告知を受けてからというもの、この先この景色を何回見られるだろうかなどと感傷的になることが多かったキングだけれど、今朝は晴れ晴れとした表情で、足取りも軽く歩いている。転移がなかったことにほっとしているのね。今という時間があることに、心から感謝

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CANCER  QUEEN ステージⅠ 第8話 「手術の前に」

CANCER QUEEN ステージⅠ 第8話 「手術の前に」

  

いつも明るい奥さまだけれど、ほんとうは実家のお父さまの介護でたいへんなの。

お父さまは90歳を超えてもお元気で、毎日、カラオケ喫茶に通っては自慢の喉を披露していたけれど、最近は認知症が進んで、自分でできないことが多くなったせいか、ひどく怒りっぽくなった。
普段は優しいおじいさまなのに、症状が出ると途端に、とても怖い顔で怒鳴り散らすの。奥さまは毎日お父さまのお世話をし

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CANCER  QUEEN  ステージⅠ 第9話 「ドクター・ジャック」

CANCER QUEEN ステージⅠ 第9話 「ドクター・ジャック」



12月16日、予定通り入院。10日間の入院ともなると、いつも通勤で背負っているリュックサックだけでは足りずに、キングはもう一つ大きめの旅行バッグも提げていくことにした。

 病室は今度もまた窓側だった。窓からはラッキーなことに、ランドマークタワーや観覧車まで、横浜の街が一望できる。
これで個室だったら、高級ホテルのVIPルーム並み。4人部屋なのが残念。でも贅沢は言えないわね。

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CANCER  QUEEN  ステージⅠ 第10話 「手術」

CANCER QUEEN ステージⅠ 第10話 「手術」



 手術は明日だけれど、土日は診察も検査もないので、キングは静かな病室でのんびりと過ごしている。窓の外を眺めたり、読書をしたり、音楽を聴いたりと、いつもよりリラックスしている。唯一、バイオリンを弾けないことだけが心残りみたい。下手でも弾いていると、いやなことを忘れるから。
はたから見ると、この人が生死を分ける手術を目前に控えたがん患者だとは、だれも思わないでしょうね。

わたし

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CANCER QUEEN ステージⅡ 第2話 「傷痕」

CANCER QUEEN ステージⅡ 第2話 「傷痕」

キングはドクター・ジャックのアドバイスどおり、手術の翌日からリハビリテーションを始めた。見るからにたいへんそう。彼は傷口が痛むことより、点滴用のスタンドを押しながら歩くことのほうが煩わしいようだわ。スタンドには、傷口から出る血液や膿を溜めるドレーンの管とか、尿道カテーテルとか、ほかにもいろんなものがぶら下っていて、気をつけないと、管がからまったり、外れたりしそうなの。

キングは毎

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CANCER QUEEN ステージⅡ 第3話 「退院」 

CANCER QUEEN ステージⅡ 第3話 「退院」 

 今頃の人間の世界は師走とかいって、すごくあわただしそう。がんの世界には季節がないから、わたしたちはいつも勝手気ままに暮らしている。がんの種類によって成長するスピードがまちまちだから、何年ものんびりしている子もいれば、やたらとあわただしい奴もいる。

 わたしは、今はのんびりよ。ずっとこのままでいたいけれど、自分でもこの先どうなるかはよくわからない。でもまた大きくなりすぎて、キングに迷惑をかけるこ

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CANCER QUEEN ステージⅡ 第5話 「5年生存率」

CANCER QUEEN ステージⅡ 第5話 「5年生存率」

 

夕べ、キングは寝つきが悪かった。そのうえ、夜中に寝返りを打った拍子に、背中にズキンと痛みが走って、それからずっと眠れなかった。朝起きて、いつものように血圧を測ると、160に跳ね上がっていた。
キングは傷口が開いたのかもしれないと心配になり、朝一番に電話を入れ、その足で病院に向かった。
まだ松の内だというのに、病院は人でごった返していた。彼は予約外なので相当待たされるだ

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CANCER QUEEN ステージⅡ 第8話 「抜歯」

CANCER QUEEN ステージⅡ 第8話 「抜歯」

退院の翌日、キングは久しぶりに出勤した。
出勤簿には年休と療養休暇のスタンプがずらりと並んでいる。そのわずかな隙間に、出勤した日を示す印が、申し訳なさそうに押してある。
キングは職員一人ひとりに経過を報告して回った。みんなはいつもどおり温かく迎えてくれる。
世間ではがんになると職場にいずらくなって、退職を余儀なくされる人も多いというのに、キングは恵まれているわね。

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CANCER QUEEN ステージⅡ 第11話 「再会」

CANCER QUEEN ステージⅡ 第11話 「再会」

6回目の入院が始まった。今回は1週間の予定。ドクター・エッグは前回のキングの様子から、副作用の処置は通院で大丈夫だろうと判断したらしい。
今回も病棟は7階だった。キングは荷物の整理を終えてから、ナースステーションにシャワーの予約を入れに行った。

「大王さん、さっそく予約ですね。もう慣れたものですね」

 と、看護師さんが声をかけてきた。

「はい。勝手知ったる他人の家ですから」

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