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【連載小説】CANCER QUEEN

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がん細胞のクイーンが、がん患者のキングに恋をしてしまい、なんとか彼の命を助けようと奮闘するSFファンタジー小説
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#抗がん剤治療

With  Cancer  をどう生きるか

With Cancer をどう生きるか

新型コロナウイルスによるパンデミックは、世界中に混乱と恐怖をもたらしましたが、この3年の間に、人類はパンデミックを乗り越え、コロナとともに生きる「ウィズコロナ」の時代へと新たな挑戦を始めています。

一方、がんは依然として人類にとって最大の脅威の病であり続けています。
いまや日本人の二人に一人が罹るというがんは、すでにいやが応にも私たちに ウィズがん(with cancer )の人生を強いている

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CANCER QUEEN ステージ Ⅱ 第4話 「選択」

CANCER QUEEN ステージ Ⅱ 第4話 「選択」


キングはようやくお目覚め。病院では4人部屋でよく眠れなかったから、夕べは久しぶりにぐっすり。おかげさまで、わたしもこれ以上寝たら溶けちゃいそう。
あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。
と、さっそく新年のごあいさつをしたのに、彼はいつものようにそっけないの。わたしの声は聞こえないだろうから仕方がないけれど、やっぱり反応がないのは寂しいわ。また

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CANCER QUEEN ステージⅡ 第5話 「5年生存率」

CANCER QUEEN ステージⅡ 第5話 「5年生存率」

 

夕べ、キングは寝つきが悪かった。そのうえ、夜中に寝返りを打った拍子に、背中にズキンと痛みが走って、それからずっと眠れなかった。朝起きて、いつものように血圧を測ると、160に跳ね上がっていた。
キングは傷口が開いたのかもしれないと心配になり、朝一番に電話を入れ、その足で病院に向かった。
まだ松の内だというのに、病院は人でごった返していた。彼は予約外なので相当待たされるだ

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CANCER QUEEN ステージ Ⅱ 第6話 「血栓」

CANCER QUEEN ステージ Ⅱ 第6話 「血栓」

 

今日は2月2日。もう2月よ。早いわね。わたしがキングの肺のなかで産声をあげてから、3ヵ月になる。彼にとってもわたしにとっても、この3ヵ月は驚天動地、波乱万丈の毎日だったわ。でも、これからが正念場なのよね。

今日の午後、キングは予定通り入院した。
じつは昨日、彼は入院前に歯を診てもらっておこうと思い、いつもの歯医者に行ったら、いきなり、奥歯を抜いたほうがいいと言われた

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CANCER QUEEN ステージ Ⅱ 第7話 「逡巡」

CANCER QUEEN ステージ Ⅱ 第7話 「逡巡」

 

 がん病棟は出入りが多い。前回も同室だった窓側のベッドの新田さんはめでたく退院した。
おめでとうございます。また戻ってこないことを祈ります。
キングはさっそく新田さんのいた窓側に移らせてもらった。どうせなら、外の景色を楽しめるほうがいいわね。

キングのいたベッドは、その日の午後には埋まった。今度の古田さんはさっきから、やたらに咳をしている。頑固に絡む痰を無理に出そう

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CANCER QUEEN ステージⅡ 第9話 「抗がん剤治療」

CANCER QUEEN ステージⅡ 第9話 「抗がん剤治療」

 退院から2週間が過ぎた。奥歯を抜いたあと、ぽっかり開いた大きな穴からは1週間以上も出血が続き、その後、完全に痛みが治まるまでには、さらに1週間が必要だった。キングは以前にも奥歯を抜いたことがあるけれど、今回は血栓予防薬のワーファリンの影響なのか、とりわけ出血と痛みがひどかったようね。

 結局、抗がん剤治療の前に、血栓治療と抜歯のために2週間も入院するという思いがけない回り道をしたけれど、今度こ

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CANCER QUEEN ステージⅡ 第10話 「副作用」

CANCER QUEEN ステージⅡ 第10話 「副作用」

 
キングが初めての抗がん剤治療で入院してから、今日で6日目になる。日曜日の病棟はまるで生徒のいない学校のように、ひっそりと静まり返っている。いつもの看護師さんたちの賑やかな笑い声も、ほとんど聞こえてこない。

心配された副作用も、今のところたいした症状は出ていない。強いて言えば、数日前から続いている便秘くらいかしら。キングは今朝、1時間近くもトイレでねばっていたけれど、成果は出な

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CANCER QUEEN ステージⅡ 第11話 「再会」

CANCER QUEEN ステージⅡ 第11話 「再会」

6回目の入院が始まった。今回は1週間の予定。ドクター・エッグは前回のキングの様子から、副作用の処置は通院で大丈夫だろうと判断したらしい。
今回も病棟は7階だった。キングは荷物の整理を終えてから、ナースステーションにシャワーの予約を入れに行った。

「大王さん、さっそく予約ですね。もう慣れたものですね」

 と、看護師さんが声をかけてきた。

「はい。勝手知ったる他人の家ですから」

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