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【祇園祭】祇園祭の本来の姿と、アフターコロナ。今の祇園祭ってどんな感じ?

祇園祭は疫病退散を祈念するお祭りである。

祇園祭だけでなく、伝統的な祭りや行事はどれも、人間の力ではどうしようもできなかったことへの祈りがベースにある。理由のわからない疫病退散への祈り、無病息災、子孫繁栄。五穀豊穣の祭りはどうしようもない天候への祈りであり感謝である。気候の変化に振り回されて暮らす日本人にとって、1年は自然への祈りに次ぐ祈りだった。

そしてその祈りの傍には、いつもほんの少しの遊びがあった。一族の繁栄を祈りながら少しだけお花を飾って御馳走を食べたり、帰ってきたご先祖様の霊を迎えるために夜な夜な踊ったり、疫病退散のために神様がまちへ来てくださる前と後に、町内で山や鉾を立て、音楽を奏で舞を舞った。

だから、2020年に新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、山鉾巡行を含む祭りの大半が中止になるというニュースを聞いたとき、なんともやるせない気持ちになった。疫病を退散させるための祭りが、疫病蔓延を理由に中止になったのだ。本来の目的である神事のみが、密を避けひっそりと行われたそうだ。

現代の暮らしで必要な祈りは、実際のところそのくらいなのかもしれない。科学や医療や技術の力は、祈るしかなかった多くのことを解決した。手洗いうがいを徹底し、薬やワクチンの開発に力を注ぎ、それでもどうしようもない時に、最後の最後に祈る。私たちの暮らしからも、祇園祭からも、「祈り」の部分が減ってしまったのは明らかだ。祭りなんてやらない方が疫病退散に良いことまで証明されてしまった。

夜の御旅所おたびしょ
御旅所では、お神輿が宿泊される間、お参りに来た人々は献灯してゆく。周りが暗くなると、豪華絢爛な装飾空間に蠟燭の灯が絶え間なく浮かび、それは異様なほどに美しい。
私たちは神社で行われる神事はなかなか見られないけれど、夜の御旅所を訪れると、祇園祭の「祈り」を感じることができる。


にもかかわらず、4年間の中止や短縮期間を経て、待ち望まれて、当然のように、去年の夏、いつもの祇園祭が再開された。本当の祭りの由来を知らずに着崩れた浴衣で夜店を楽しむ若いカップルを見て、「こんなん祇園祭ちゃう」と、言われる意見はわからないでもない。

でも、神事だけの祭りがどんなに寂しいものか、私たちは経験してしまった。怒られるかもしれないけれど、私はここで言いたい。「それこそ祭りちゃう」。不要になってしまった祈りの余白で、人々は遊び、楽しんでいる。それを否定する理由はどこにもない。

商店街で朝から晩まで流されるお囃子のBGM、食べ物屋さんの軒先で売られる、テイクアウトのビール、かき氷。そういう一人一人の祈りや楽しみが、京都の夏の景色を作っている。自然や天候へのどうしようもないことへの祈りか、人々が集まり旬のご馳走を食べる楽しみか、その両方か。

きれいごとみたいに聞こえるかもしれないけれど、「季節」を作り出しているのは実際の気候ではなくて、その土地に暮らす人や訪れる人の一人一人なのである。伝統だからじゃなくて、季節行事だからじゃなくて。カッコイイから、楽しから、儲けたいからモテたいから、SNSにアップしたいから、やるのである。

この国には、たくさんと言っていいくらいのそういう行事や祭りが、少なくとも今はまだ、残っている。「伝統なんて言ぅてる時点でアカンねん」。昔、いけこみ先のすき焼き屋さんの若旦那に言われた。はじめから伝統だった行事はない。祈りはもちろん大切だけれど、遊びがなくなったら祭りは文字通り終わりだ。

祈る必要が極端に少なくなった現代社会で、人々が遊びや楽しみを忘れて、慣例だからやらないといけない、伝統だからやらないといけない、そうなったときにその行事の意味はなくなり、この国からひとつ、季節を作る景色が消える。

両側に、まっすぐに建物が並んだ四条通の向こうに見える東山。写真には映らない強烈な温度と湿度、人々の体温と情熱。熱気と蜃気楼の間を縫って、お囃子の音が天に登って行く。この日のために京都を生きている人と、この日だけ京都に遊びにきた人。どちらがいなくなってしまっても、京都の夏の景色はない。

自然とともに生き、祈り続けてきた日本人。その暮らしのベースは、常に祈ることだった。祈る必要がなくなった分は、遊べばいい。祈りも遊びも、自然や気候とともに生きるという点では同じだ。大切なのは、そうして「季節」を、未来の日本人につなぐことなのだから。少なくとも私は、そう信じている。



祇園祭ってそもそも何だったのか、それについてはこちらで。



執筆:西村良子
京都木屋町の花屋「西村花店」店主、華道家。1988年京都府生まれ。2010年関西大学卒業。
先斗町まちづくり協議会事務局兼まちづくりアドバイザー。
2017年に花店を開店し、現代の日本での花と四季の楽しみ方を発信し続けている。


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