風車小屋

主にTwitter企画の小説など置場

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最近の記事

+ 日陰りゆく、同じ空の下 +

◆シュン│マゴ(ドンファン)♀、ロモ(フクスロー)♂ トオル│イロミ(ヨルノズク)♀、ヒサミ(★グレイシア)♀  木々の隙間から西日が差しこむ。  黒く長い長い髪が少し揺れた時、ようやくこちらに向けられた視線、それは酷く冷たいものだった。 「なんでこんなことしてんの」  遊園地の喧騒も遠い人気のない森のなかで今日久しぶりの再会を果たした兄弟が睨みあう。朝に出会った時に兄がしていた表情は一遍、ひりついた空気は彼の前に立ちこちらを睨みつけるグレイシアも手伝ってのものだろう

    • +もう戻れないとしても+

      あぁ彼か…  少し記憶を巡りたどり着いたのは合宿の最終日に行ったタッグバトルだった。確か、ストライクとコリンクだっただろうか、その二体と二人のバトルを見たがシュンが誘った相手がコリンクのトレーナーで、今はレントラーを連れる彼であった。  気の迷いか、賑やかで華やかな場の空気と己の格好と似つかわしくない職への皮肉でもあった『コーディネーターとは縁遠い者』という発言を早速後悔することとなった。同じ合宿の参加者とわかっていたなら言うこともなかったのに。きっと、今日になってままなら

      • +透明人間+

        コツコツと靴音がくぐもる石畳を、白いマントと真っ直ぐ伸びた黒い髪を揺らしながら歩く。 その姿はまあ目立っていた。白いマント、空色の軍服、傍を歩くヨルノズク、まるでこれから始まるパレードの一員。 しかし、彼もパートナーのヨルノズクも目立つ事など全く気にならずと言うかのように堂々と歩くので、すれ違う人々も然程は気にしなかった。このメモフェスというお祭りの環境がその目立った姿を肯定してさえいた。 広間に来た時、青と黒のオッドアイの瞳は辺りをざっと見回す。鳥ポケモンに紛れるもの、

        • ◇あるお屋敷の小話

          そのお屋敷は全てお母様の好きな物で溢れていた。カロス地方のヒャッコクシティの外れに位置するその大きな屋敷にはお母様のお気に入りの、ちょっと普通とは違う色のポケモンと子どもたちが暮らしていた。マレーアはその大きくて狭い屋敷で育った。 マレーアの一番最初の記憶は別の場所にある。お母様のお屋敷よりももっと狭く、もっと子どもが多く、雑然としていた。今思えばそこは孤児院だったのだろう。 ある日、マレーアがいた施設に黒い服の大人たちが靴音を響かせながら子どもたちの生活の場に入って来た。

        + 日陰りゆく、同じ空の下 +

          【替え歌】作業日和

          ※群青日和/東京事変 進捗はどうだい やる気何処へやら 今日が青ざめていくペース 戦略は皆無 線画何処へやら ミスが時間を奪って呻く 「描きたい気持ちは連なって焦りに変わってしまっている」と、云うと 頷いてる貴方 「同意だけで良くて無言になるくらいが丁度善い」と 答えわからぬ描き直し繰り返して わかったように描いていたら 即刻間違いを見付けている 作業をしてるんだ あなただってきっとそうさ 通話相手を探している やる気が湧いたって 線画の完成が遠くて なんとも言えない虚

          【替え歌】作業日和

          +またあなたに逢えるのを… +

          カノホとのっことのバトルを終えて少しぎこちなく握手をした、二人ともトレーナーとのバトルは初めてで、こんな感じやっけ?とシュンは笑う。 「ぼく初めて戦ったトレーナーがかのちゃんでよかった!ありがとう、マゴたんもぼくもようわからんくなったりしたけど……でも楽しかった!」 「また………バトル、しよ!」 彼女の言葉一つ一つしっかりと大きく、シュンに届いた。その言葉に目を輝かせそしてにっと歯を見せる。 「もちろん!絶対、な!」 ***** コテージに戻っている途中、またあの

          +またあなたに逢えるのを… +

          +さよなら赤色、また来て海の色+

          「アスタちゃんもトトちゃんも三つ編みはやい…」 「毎日やってるからね〜」 洗面台の鏡の前でアスタとトトが手早く自分の髪を編んでいる姿をマレーアはじーっと見ていた。アスタは最後にゴムで結んで、はい出来上がり!と摘んでマレーアに見せる。 「毎日やってるとそんなにはやく出来るようになるの?」 「慣れだよ慣れ!」 「マレーアちゃんもやってみる?」 トトの提案にマレーアは首を振った。 「教えてくれるのは嬉しいけど……私、多分三つ編みしたことがないから、崩れた時に自分で直せない…

          +さよなら赤色、また来て海の色+

          +黄昏に染まる+

          何時も、分からない自分を探して、少ない記憶の中を探って、思い出そうとすると出てくるのは一番最初の記憶、一番苦しかった時の記憶。 真っ暗なの森の中、気が付いたらそこに居た。自分のことも此処が何処なのかもわからない、今は何時?ただ長い時間座っていたような感覚はあった。留まったままだと不安感に襲われてきて気が付けば意味もわからず走っていた。走っていると段々と吐き気がしてきて、それでも足が止まらなくて、やがて転けて、うずくまってえずく。髪の毛には木の枝が絡まって足も服も泥が付いて重

          +黄昏に染まる+

          +木苺+

          きっかけは些細なことだった。兄がいつも遊びに行く裏山へシュンもその後を追っていた時、低木から黄色の丸が見えた。以前トオルが木苺を教えてくれ、それがまた美味しくて、これも木の実だろうかと喜んで手を伸ばし摘んでひっぱる。 違った、引っ張ったそれは紫の体をぐんとしならせて飛び上がり宙に弧を描いて頭をシュンに向けた。アーボと目が合った刹那、シュンは反射で手を振って離すがその反動で尻餅を着いた。地から離れた左足にアーボは絡みついてシュンに顔を近付ける。振り払おうにもシュンの力ではどう

          +木苺+

          +ジャンプひとつで変わっていける+

          「ご〜ま〜だ〜れ〜〜〜!」 シュンは宝箱を開けながら中の物を手に取り天に掲げた。周りに誰もいないが、宝箱を見るとついしたくなるポーズなのだ。 中に入っていたのはスーパーボール、シュンはそれを今までに集めた宝と一緒に箱に詰める。 「も〜〜〜マゴたんってばすごい!全然ハズレ引かへんな!ほんまにすごーい!」 マゴはふんふんふーんと鼻を鳴らして少し照れながらも得意げな顔をしている。いつもの落ち着いた表情とは違うマゴを見てシュンはまた嬉しくなってマゴを褒めちぎっていた。マゴは恥ずか

          +ジャンプひとつで変わっていける+

          +好きを教えて+

          光を感じてうっすらと目を開けた。ぼんやりとした視界が次第にはっきりとして、木目の天井が少し遠くに見えた。 「知らない、天井だ……」 少しの間その天井を見つめて、あぁそうか合宿に来ていたのだったと思い出す。少し身じろぎすると何か当たった、恐らくトワの足だ。トワのすーすーという寝息以外はとても静かで誰もまだ起きていないようだった。 ふと浮かんだのは寝る前にアスタがくれたモーモーミルク。 「おいしかったな」 その味をまた思い出したくてマレーアは再び目を閉じた。 静かで優し

          +好きを教えて+

          + スイッチ +

          「不思議?ただ思ったことを言っただけなんだけどな」 「なんなん……キザなん?ようそんな、き……勿体ない……とか、躊躇なく言えるな」 「あぁ、君は照れ屋なんだね」 「そういうとこ……」 トオルは更に顔を赤らめてそっぽを向いた。目のことを何か言われるなんてことは以前よりは慣れた方だと思っていたが、どうにもこうにもここまでストレートに言われてしまうと戸惑う。 いたたまれなくなったトオルはわかりやすく話を変えた。 「その好きなのが羨ましいって、好きと思う気持ちがわからへん……とか

          + スイッチ +

          ━ 98% ━

          大丈夫、まだ覚えている。 胸にしまった私の最後の願い。 少しずつ何かを忘れて、やることも何もなくて、願いを持って過ごすことで私は私を保っていた。 「なんであなた裸足なの?」 「……裸足?あー、なんででしょうね!」 彼女は特に気にしてない顔をして笑った。私もそうかと呟いてそれ以上はきかなかった。 二回目の鐘がなってから色々と忘れているらしい。 「あれ?どうして?」と思うことが増えて、もうそれについて追求する気すら起こらなくなった。彼女は裸足、そういうものなんだろう。 湿っ

          ─ 20%─

          ここでは鐘が鳴るとそれが合図らしい。 「記憶がなくなっていくと聞いてたけど、案外普通だよね」 湿っぽい石畳を歩きながら後ろの後輩に話す。裸足の後輩、ユコの足音はひたひたと、ガーディのクウの足音は爪を鳴らせながらカチャカチャと、さらに後ろにユコのウツボットのキイ、ヒマナッツのマキが続く。 なくなった記憶はあるようだが今のところ支障はない。ただここに来てからは何もすることがないので思いに耽けることは増えた。いつもの癖で手に持っているスマホも文字化けしてほとんど使い物にならず、

          ◇ある一家の小話

          その家はポケモンやトレーナーなどといったことには疎い家であった。 チョウジタウンはジムもあり、トレーナーの出入りも多い街であったが、サラリーマンの父と専業主婦の母の2人にはあまり関係のないものだった。 ただ、長男トオルは人よりポケモンとの触れ合いを好んだ。両目がそれぞれ違う色を持つからか人によく見られることが多く、人前が苦手だったトオルは同年代の子どもたちとはあまり遊ばず裏山のポケモンたちの元へ足繁く通っていた。 両親はポケモンに対して興味を持っていなかったので、トオルの

          ◇ある一家の小話

          『どうか誰も傷付かないで』

          その沈黙はえらく長く感じられた。 クレーネが状況を理解する間もなくあっという間に彼のルガルガンは人質にされてしまったというのに、彼が口を開くまでの沈黙は、とにかく時間がかかったように感じた。 おそらく、実際はそれほどかかっていなかったのだろう。が、クレーネの頭の中は記憶と考えが走り回っていて時間なんて麻痺してしまったのだ。 リクと呼ばれたルガルガンをカイヤが人質に取る前、カイヤはクレーネにこう言った。 「あんさん、イオん友達やろ」「ほんでもってユキヤとも友達や」

          『どうか誰も傷付かないで』