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+もう戻れないとしても+

あぁ彼か…

 少し記憶を巡りたどり着いたのは合宿の最終日に行ったタッグバトルだった。確か、ストライクとコリンクだっただろうか、その二体と二人のバトルを見たがシュンが誘った相手がコリンクのトレーナーで、今はレントラーを連れる彼であった。
 気の迷いか、賑やかで華やかな場の空気と己の格好と似つかわしくない職への皮肉でもあった『コーディネーターとは縁遠い者』という発言を早速後悔することとなった。同じ合宿の参加者とわかっていたなら言うこともなかったのに。きっと、今日になってままならない思いを遠くから見ていたせいなのだとひとまず結論づけて先の対応について思考を巡らせる。
 彼は自身が誰なのかに気付いている、既に不信感を抱いているかもしれない、もう彼に対して白を切ることは難しいだろう。一呼吸置いてトオルは彼の方へと振り返った。

「…あなたはタッグバトルの時の」
「あ、ああ! やっぱりあの時の、久しぶり……だな」
「えぇお久しぶりです」

 薄く笑みを見せると少しぎこちなく相手も笑みを見せた。レントラーは不思議そうに双方を見ている。

「よく私を“トオル”だとわかりましたね」
「その目の色とヨルノズク、あの時のホーホーだよな、それでそうじゃないかと思って。まさかそんな格好をしてるとは思ってなかったけど」
「これは今所属する所の制服の様なものです」
「制服……そこ、縁遠いって言い方をするような場所なのか?なんでそんなところに」

 “なんで”

 その問いはもううんざりする程やった。
 選べたのだろうか、四年前あの場で、ライトストーンの母からマレーアと己を天秤に掛けられた時。もしかしたら自分ではなくあの場にいたのがシュンなら、違う選択肢を見いだせたのかもしれないが、後になって考えても仕方がない過去だ。
 問いに眉をひそめて口を閉ざしたトオルに彼は言葉を続ける。

「さっきの…なんだか諦めたみたいな言い方だった。それに、今の姿も合宿の時と違うように見える。無理をしている、みたいな……」

 続けられた言葉に崩れない顔はまた少しゆがんだ。

 少しのボロを簡単には落とさせてはくれなかったようだ、優しくてそして残酷だ。いつも平気なフリをして生きていたが、平気なフリは誰もが得意で誰もがそれに気付くことができるのだと、人にあげた小説に書いてあったことを思い出す。
 しかし立ち止まれなどしない、簡単に崩してはならない、大切な人が自分の見えない所で笑っていられる日々が保証されるならと選んだのだ。

「道を間違えたのは確かです、それでもこの道は私が選んだ。 もう…」

+もう戻れないとしても+

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