◇ある一家の小話


その家はポケモンやトレーナーなどといったことには疎い家であった。
チョウジタウンはジムもあり、トレーナーの出入りも多い街であったが、サラリーマンの父と専業主婦の母の2人にはあまり関係のないものだった。

ただ、長男トオルは人よりポケモンとの触れ合いを好んだ。両目がそれぞれ違う色を持つからか人によく見られることが多く、人前が苦手だったトオルは同年代の子どもたちとはあまり遊ばず裏山のポケモンたちの元へ足繁く通っていた。

両親はポケモンに対して興味を持っていなかったので、トオルの趣味が理解出来ずにいた。人の友達を作るよう促すも、言えば言う程トオルは頑なになっていった。
そんなトオルの後を着いて裏山へと入った弟シュンが、野生のアーボを突き絡みつかれ怪我をしてから家族はよりポケモンと距離を置くようになった。
誰に反対されたわけでもないが、トオルもシュンの怪我以降裏山への足取りは重くなり、いつからかほとんど近寄らないようになっていた。

シュンの怪我から一年程経った頃だろうか、台風一過の青々とした空の日のことだった。
トオルが両手にホーホーを抱えて帰ってきた。
家のすぐ近くでぐったりと倒れているところを見つけ、ポケモンセンターに連れて行ったが台風の後でジョーイさんも手一杯、それならば自分が…とトオルはキズぐすりなどを貰って連れ帰ってきたのである。
突然のことに驚く両親を他所にトオルは黙々と手当をし、餌を与え、その日の内に寝床まで作ってしまった。

ホーホーの怪我は三週間程で治った。ホーホーはトオルによく懐きトオルもホーホーをよく気に入っていた。トオルがおずおずと両親に飼っても良いかと尋ねると、2人は少し困った顔をしていたが、その頃にはもう家族の一員のようになっていたホーホーを追い出すようなことはしなかった。

ホーホーは図鑑のNo.163から「イロミ」と名付けられ、母が友人から貰ったものの持て余していたレベルボールに入れられた。もっとも、イロミは常にボールの外にいてトオルにベッタリだったのであまりボールの活躍はなかったが…

トレーナーに縁がなかった両親はトオルがポケモントレーナーになりたいと言い出すのではないかと少し心配していた。可愛い子には旅をさせよ、とは言うが控え目で人付き合いが苦手な息子をそう簡単に行かせてもいいものだろうかと考えていた。
ところがトレーナーになりたいと言い出したのは弟シュンの方であった。
トオルと常に一緒にいるイロミを見て誰よりも羨ましい想いをしていたのはシュンだった。自分も自分のポケモンが欲しい、パートナーと言えるポケモンが欲しいと両親にせがんだ。
ただでさえ兄だって心配なのに、甘えたで色々と苦手な物が多いシュンを旅に出すなど考えられようか…両親は頭を抱えたが、シュンは必死に訴え訴え訴え、やがて両親が折れた。
シュンは10歳の誕生日にポケモンを貰い、旅に出ることとなった。

一方のトオルは、怪我をしたポケモンを見掛けては連れ帰り手当てをしてやっていた。イロミのようにゲットはせず、完治したら野生に返していくうちに段々と手際もよくなり、その面倒みの良さに磨きがかかっていた。
初めは連れてくるポケモンもコラッタやキャタピーなど小さなポケモンばかりであったが、手当ても慣れてくるとコイキングやラッタ、キリンリキと段々と大きくなった。

そしてついに、ある夜トオルは、記憶喪失の少女を見付けて連れて帰ってきたのである。

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