+ジャンプひとつで変わっていける+
「ご〜ま〜だ〜れ〜〜〜!」
シュンは宝箱を開けながら中の物を手に取り天に掲げた。周りに誰もいないが、宝箱を見るとついしたくなるポーズなのだ。
中に入っていたのはスーパーボール、シュンはそれを今までに集めた宝と一緒に箱に詰める。
「も〜〜〜マゴたんってばすごい!全然ハズレ引かへんな!ほんまにすごーい!」
マゴはふんふんふーんと鼻を鳴らして少し照れながらも得意げな顔をしている。いつもの落ち着いた表情とは違うマゴを見てシュンはまた嬉しくなってマゴを褒めちぎっていた。マゴは恥ずかしがりながらも、シュンが喜ぶ姿を見るのが嬉しくて、もっと喜ばせようと余計張り切っている。
せっかくの散策だ、シュンは自生している木の実を見付けたらそれも一緒に箱に放り込んだ。木苺は特に好きだ、昔トオルがヘビイチゴの見分け方を教えてくれてからすぐにシュンは見分けるのが得意になった。
「マゴたんここめっちゃ木苺あるで!いっぱい取れた!」
シュンが振り返るとそこにはマゴの姿はなかった。つい先程まで傍にいたのに、呼んでみても返事がない。ぐるりと周囲を見回すが緑と茶色ばかりの森で結構目立つあの水色は見当たらない。
これは、まずいのではないだろうか……
すーっと背筋が冷えていく。
本当にマゴの姿が見当たらない。
恥ずかしがり屋で大人しくていつもシュンの腕の中か足元にいた、出会ってからほとんどの時間をくっついて過ごしていた、あのマゴが自らシュンの元を離れたことがあっただろうか、いや無い。
シュンの顔は自分でも分かる程一気に青ざめていった。
***
どれくらい時間がたっただろうか、体感時間は狂っているので当てにならない。
シュンは茂みを分け行った。
レイメイの丘は広い、宝探しをしている他のトレーナーもさっきまでは見かけたのだが今では全く出会わない。急に1人でいることを感じさせられた。
全くの1人というのは何時ぶりだろうか。トオルのイロミの時間と比べるとまだマゴとの付き合いは短いが、出会ってからずっと一緒にいた、マゴが傍にいないことがあまりにも心細い。目の奥が熱くなってきた。
(ぼく、誰かに頼らんと1人じゃなんも出来ひんくて、1人でおるのがさみしい……)
マゴはどうして勝手にいなくなってしまったのか、撫で過ぎるとよく突き飛ばされていた、やっぱり嫌だったのだろうか……
(あかんあかん、ネガティブになってる、そんなことよりマゴたんを探さんと)
気持ちを持ち直そうとしても、それでも心が勝手に良くない方を考えたがる。シュンの目から大粒の涙が零れて落ちていった。
ボロボロと次々に落ちる涙を拭って顔を上げると、少し先に見覚えのある黒い影が見えた。
「うああああああああああああんライセくんんんんんんんんんんん」
「う゛っ……」
見つけるやいなやシュンはその人に涙を散らしながら飛びついた。
「やめろ、気持ち悪ぃんだよひっくな!!」
出会った初日の怖いという気持ちは何処へやら。心底嫌がっているライセのことなどお構いなしだ。ライセは涙をいっぱいに溜めた目とマゴの姿がないことを見て状況をある程度理解した。
「そんなに離れるのが嫌ならボールに入れておけよ」
「ううぅ、そんなんゆったってぇぇ……マゴたんとずっと一緒にいたいやん、そう言うライセくんやってぴちゅたんボールから出してるやん……」
「こいつが勝手に出てるだけだ」
シュンはライセの袖をぎゅっと掴んだまま下を向く。
「いい加減離せ、もう今日は付き合わないからな」
「ぼく、1人やと心細くなるから、不安になることばっかり考えちゃうからお願い、一緒におって……居るだけでええから……」
「馬鹿じゃねぇの」
「ぴ!ぴちゅ!!!」
「なんだ急に……あ」
突然ピチューがライセの肩を叩き低い崖の方を指さした。
「おい、お前の目は節穴か?」
「……えっ?」
シュンが2人が見詰める方向に目を凝らせば、急斜面の中程に目立つ水色、紛うことなきマゴの姿だ。
どうしてそんな中途半端な所に居るのか、宝箱を鼻でしっかりと抱いたまま高所が怖いのか震えて座り込んでいる。
「マゴたん!!!!!ああよかったここにおったんやね!おいでー!!こっちにおいで!!」
マゴはふりふりと首を振った。不安気な顔でうったえている。
「このくらい降りれるだろ……」
ライセは呆れ顔で言った。高所と言っても、さすがにシュンもそれには頷いた程の高さで、普段のマゴの動きを見ていればこのくらいの高さは容易に飛んで着地出来るだろう、が、マゴは怖がって動けないでいる。
「マゴたーん!おいで!大丈夫やからおいで!」
「ぱうぅ〜〜」
マゴは助けてと言わんばかりの涙目をシュンに送る。
「宝箱のことはええからジャンプして!マゴたんなら大丈夫!!ぼくが受け止めるから大丈夫!」
シュンは声を張った。マゴはシュンをじっと見詰めて、少しだけ頷きゆっくりと立ち上がる。震える足を慎重に出し、よし行けるもう少し!とシュンが思った時、マゴは宝箱を鼻で持ち上げてそのままジャンプした。
「えっ……ちょっ…うああああああああ」
「うわ…」
ライセは少し顔をしかめた。マゴはシュンの胸元へ、宝箱は顔面に直撃してシュンはバタりと後ろに倒れた。シュンの頭上に小さなメテノが舞う。
意識を取り戻して身体を起こす、マゴは頭をシュンに擦り付けてうんうんと鳴いている。シュンはその姿が愛おしくてぎゅっと抱きしめた。
「マゴたんすごい…勇気出してジャンプしてすごいな…………ぼくも頑張らんと」
頭に直撃した箱は下に落ちた衝撃で蓋が変に曲がって半分開いていた。開けるのに手こずっているとマゴが鼻を器用に使って簡単に蓋を取ってしまった。
マゴが蓋を取った衝撃で飛び上がったのは菱形の綺麗な石。宙に浮いたその石をシュンは両手でパンとキャッチした。
ライセが、高く値がつくか…?と小さく呟くとピチューが怒ったようにパシパシと尻尾を叩く。
「お高いん?お宝なんかなぁ!これもしかして激レア?!わーーーっマゴたん!すごい!!これのために頑張ってくれたん?も〜〜〜〜〜マゴたんだーいすき!!!!!」
シュンは綺麗な石を掴んだままマゴを先程よりも強く抱きしめた。マゴは照れていた。
「ライセくん!ぴちゅたん!マゴたんを見付けてくれてありがとう!!宝探しの時間取っちゃってごめんな、ぼくライセくんのも探すの手伝うわ!」
「いらねぇ、済んだんならさっさとどっか行け」
「あ、ぴちゅたん木の実好き?食べる?」
「だから付いてくんな」
シュンもマゴも、どちらに似たのか同じようなニコニコ顔で歩いていった。
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