_トレ録3_30-1

+またあなたに逢えるのを… +

カノホとのっことのバトルを終えて少しぎこちなく握手をした、二人ともトレーナーとのバトルは初めてで、こんな感じやっけ?とシュンは笑う。

「ぼく初めて戦ったトレーナーがかのちゃんでよかった!ありがとう、マゴたんもぼくもようわからんくなったりしたけど……でも楽しかった!」

「また………バトル、しよ!」

彼女の言葉一つ一つしっかりと大きく、シュンに届いた。その言葉に目を輝かせそしてにっと歯を見せる。

「もちろん!絶対、な!」

*****

コテージに戻っている途中、またあの姿を見掛けて駆け寄る。
シュンは歓声を上げた。

「かっわいい!!!ぴちゅたんに白いリボン……ライセくん付けたん?天才…………まさにカモネギにネギ……!!ぴちゅたんが天使のようや……いや天使や。」
「付けたのは俺じゃねぇ」
「……そうなん?でも満更じゃないんやね〜かわいいもんな〜ぴちゅたん!そうや、マゴたんも付けよか〜何色がいいかな」

ライセの鬱陶しそうな顔を見てもシュンは一人で喋っている。取り出した三つのリボンを並べてマゴに選ばせるとそれを耳に付けてやる。ライセのピチューと同じ純白のリボンを付けてマゴは少し照れながらも嬉しそうに跳ねた。

「ライセくん!合宿の間付き合ってくれてありがとうな!!またどっかで会おうな!」

睨まれたって返事がなくったって、それでも構わないのだ。シュンは手を振った。

*****

「ディムナくん次会うまでぼくのこと忘れんといてな〜〜〜」

コテージでの支度を終えて皆荷物を持って出ようとしていた時だった。シュンは立ち上がったディムナに抱きつく。
たった四日とはいえ一緒に生活を共にしてきたのだ、明日からまた一人と一匹の生活に戻る、今名残惜しいと言わないでいつ言ったらいい。
そしてこの先皆それぞれ違う道を進む、なかなか簡単には会えないだろう、そう思うと忘れないでほしいと願ってしまうのだが、シュンの脳裏にはマレーアの姿が浮かんだ。

「……やっぱいい」
「……いいの?忘れても」
「うん、いつか忘れちゃう時もあるかもしれんしなぁ……忘れちゃったらしゃーない!もちろん忘れんといてほしいけど!!!でも…次どうなっててもええよ!次また会えたらそれでええの!」

シュンは笑顔をディムナと、そして足元のコロンに送った。
さよならはぼくらしい笑顔でいたいと、そう願って。

四日前とは確実に何かが違う今、明日から前とは違う旅が始まる。
シュンは振り返り、扉を開けたままの部屋をじっと見詰めた。

「行ってきます!」

大きな声で別れを告げて、ちょっと泣きそうな顔。

「マゴたん、ぼく立派なトレーナーになるからな!」
「ぱう!!」

決意新たに一人と一匹は一本道を進む。

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「あの!アカリくん!」

バトル大会の時間も終わりかけていた頃、アカリの姿を見付けたマレーアは駆け寄って名前を呼ぶ。

「マレーアちゃん!」
「あの、今日で……最後だから、自己紹介をしに来ました……!」
「見つかった?好きなもの」
「うん…ありがとう、気付くのはちょっと遅かったけど、アカリくんの言葉でやっと少しわかって………自分のこと、やっぱりまだまだよくわからないし、好きもはっきりとはわかってない、でもなんとなくわかってきた」

一日目から今日までをまた思い返してマレーアの頬が勝手に緩んだ。

「私はマレーア。あったかいモーモーミルクが好きで、ママさんの料理が好き、自分で作るのはまだまだかな、オシャレなお洋服もなんだか好きみたい、あとイタズラも…好きかも、鬼ごっこも好き、ゆっくりおしゃべりするのと、内緒話と、夕焼けが好き、迷子は……嫌…かな、シュンちゃんマゴちゃんトオルくんイロミちゃんトワ!それからここで出会った人達が好き!」

言い終わったマレーアの顔を見てアカリは安心したような笑みを零す。

「ありがとう、色々経験したんだね……いっぱい聞けてよかった!」
「うん…」

あっ!と、マレーアは思い出したように小さく発した。好きなものを浮かべて最後に出てきた顔。

「まだ、自己紹介ちゃんとしてない人がいた…」

マレーアはトワを抱いてまた駆けていく、その姿をアカリは見送った。

*****

コテージを出る頃、マレーアは支度を終えて話していたアスタとエスコの隣にちょこんと座った。

「アスタちゃん、エスコちゃん、いっぱい教えてくれて……ありがとう。アスタちゃんのモーモーミルクは大好きになったし、エスコちゃんとやったバトルも楽しくて、イモさんのカラは思ったより硬かった。」
「やろ!イモのカラちょっとやそっとじゃ割れんかったやろ!」
「マレーアちゃん、メテノのカラもっと柔らかいと思ってたの?」
「……トランセルみたいに中がトロトロで扱い注意なんだと思ってた」

二人は吹き出し、三人の笑い声がコテージに響いた。

*****

コテージを後にしたマレーアは広場で人を探す。茜色に染まった広場、多くの人が別れを惜しみ最後の挨拶を交わしている。
もう迎えが来て帰っている人もいるようで、もう帰ってしまっただろうか、と少し不安になる。まだ話してないことがあるから、お願い、まだ……

「あ、マレーア!ここにいたんだ」
「ハツメくん!……よかった、もういなくなっちゃったかと……ハツメくん、私ちゃんと自己紹介してないと思って……」
「自己紹介?」
「……うん、最初私、誰なんでしょう……なんて言っちゃったから……」

思い返せば、「君は誰?」という単純な問いに混乱してしまったことが恥ずかしく、喋りながらマレーアの顔は徐々に下を向いた。
ここで照れてはダメだ、マレーアは勢いよく顔を上げる。

「約束……私、忘れないから……!必ず……伝えに来てね……私もそれまでに見付けるから……」
「見付ける?」

忘れてはならない、合宿のことを、ここで出会った人のことを、彼のことを、マレーアはいつもより大きく目を開く。彼の海と同じ色の瞳を、しっかりと覚えておかなければいけないから。

「私はマレーア!好きなものと、迷子の自分を見付けるためにトワと旅をしてるの!」

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ロニとワットに連れられてやってきた花火。トオルは相変わらず二人にサンドされている。本当は花火のあの大きな音が昔少し苦手で、しばらく見ていなかった。今日も当初は行くつもりはなく、夜の間は本でも読もうかとコテージでくつろいでいたが、ロニとワットに拉致された、というわけだ。

「たーーーーーーまやあああああああーーーーッッッ!」

ワット大声がビリビリと響く。ロニはその掛け声を聞いて喜んでいる。

「この三日間とても充実していた!!それはおまえたちのおかげでもあるだろう。ワット、トオル、ありがとう!!おまえたちはいい奴だ!また会った時には遊んでくれ!!」

ロニの笑顔を見るとまぁ、花火の音も大声もたまには悪くないかと思ってしまう。いや、ロニとワットによって耳が鍛えられたのでは……?

「次会う時は二人とももうちょっとボリューム調整覚えててや、僕の鼓膜は繊細なんやからな……でも、僕もきみらとおるのは楽しかった」

言い終えてトオルは笑みを見せた。照れもするが、ロニの笑顔につられたのだから仕方がない。

*****

「あ、ムスティカ…あれ、ロニは一緒ちゃうん?」
「ロニくんのこと探してる?」
「まぁ……最後の挨拶しとこうか思ったけど……ええわ、ムスティカにもちょっと聞きたいことあったし」
「…?私に?」
「雪国出身って言ってたよな、その、どんなポケモンが生息してるのか教えてほしくて……その、旅始めたしさ…どこにどんなポケモンがおるのとか興味あって……」

理由を言うつもりはなかったのに、ムスティカの「なんで?」という顔を見ると言ってしまった。

「もちろん!いいよ!覚えてる範囲…にはなるけど!」
「ありがとう……」

*****

「ミハネ!」

透き通るような綺麗な白い髪を見つけ後ろから声を掛けた、トオルと同じような色の目がこちらを見上げる。

「次、また会った時は小説読ませてな」

ミハネはハッとし顔をしてから頬を赤らめ、急いでペンを取った。

忘れてないじゃないですか

トオルは吹き出した。

「ごめん、きみ見たら思い出したわ…同じ趣味の人かと思うとちょっと嬉しくてな…でも小説自分で書くってすごいことやと思うから…簡単に辞めんといてな」

(あ……もう一つ、思い出した。)

トオルはまた人混みの中に入り込んでいった。

*****

「イリーゼ……と、そっちは…兄?」
「パ!パプリカにょ……!」
「トオルやって言ったやろ」

眉をキッと逆八の字にしたイリーゼとトオルを見てクルールは、肝試しの時にいた人か?と記憶を辿る。

「そのパプリカ……やけど、シュンに怒られたわ。女の子にそれはないやろ……って……ごめん、僕としては褒めたつもりやってんけど…………その目の色鮮やかでええなと思って。そっちの兄もいい色やね」
「えっ」

まさか一緒に呼ばれるとは思ってなかったクルールは豆鉄砲を食らったマメパトのような顔になる。イリーゼもミミをぎゅっと抱いて少し驚いた顔をしている。
トオルはふと、イリーゼの手に巻き付けられた茶色のリボンが気になった。

「茶色の……それと同じ様なもの頭に付けた青い髪の人探してるんやけど」
「ふぇ、ノヴェちゃ……ん?」

ぱっと顔を上げたイリーゼと目が合う。まさかドンピシャで名前が出るとは。

「……その人」

*****

「やっと見付けた」

日が沈み、茜色の空は徐々に水色、紺色へと変化していた。
探していたその人、ノヴェは振り返りトオルを見て微笑む。トオルはリュックから文庫本を取り出し、そのまま彼女に差し出した。

「これ、おすすめ貸すわ……教えてって言うてたやろ、また本になるけどこれは短編集……僕が特に好きな本、中でも一人暮らしの男が手作りのプラネタリウムを部屋に作る話が好きで……いや、まぁそれはよくて、暇つぶしにもなるし、ええかなと思って」
「ありがとう、でも返すのは」
「いつでもええよ……僕旅してるし、またどっかで会うやろ」
「ふふ、適当だなぁ」
「きみの気ままさには負けるわ…どっかで会えたら返して、そんでその本の中で好きな話がもしあったら、教てほしい」

自分の好きを分けてあげたい、そう思った、彼女がそれを好きになるかどうかはわからない、これはただのエゴだ。
不思議な人だなと思った、彼女は最初から最後までよくわからなかった。ただ、不思議であればあるほど気になってしまう、きっとそういうものだろう。

「また、会いたい、と、思ってるからそれを貸した。そんで、こっちは、貸すんじゃなくてあげるもの」

トオルは首から下げていたリングのネックレスを渡す。

「くれるの?」
「きみほら、イリーゼにあげて一個減ったやろ……代わりには、ならんけど……まぁその、お守りやと思って……持ってて」

ただのアクセサリーでご利益もなんにもないのだが、悪あがき……とでも言えようか、自分のことを忘れないでいてほしい、が本音だ。ストレートに言えない、どこまでも不器用な人だなとイロミはトオルを眺めていた。

「また、会えたら、そん時はよろしく」

空が夜空へと変わろうとしていた頃、西の空にはまだ少し赤が残っていた。

+あなたにまた逢えるのを楽しみに待って さよなら+

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