+透明人間+

コツコツと靴音がくぐもる石畳を、白いマントと真っ直ぐ伸びた黒い髪を揺らしながら歩く。

その姿はまあ目立っていた。白いマント、空色の軍服、傍を歩くヨルノズク、まるでこれから始まるパレードの一員。
しかし、彼もパートナーのヨルノズクも目立つ事など全く気にならずと言うかのように堂々と歩くので、すれ違う人々も然程は気にしなかった。このメモフェスというお祭りの環境がその目立った姿を肯定してさえいた。

広間に来た時、青と黒のオッドアイの瞳は辺りをざっと見回す。鳥ポケモンに紛れるもの、人と戯れるもの、グラシデアの花が舞うこの会場にはたくさんのシェイミたちが集まり思い思いに過ごしている。目につくポケモンの姿を彼は一つ一つ確認する。見付けたいのは色違いのポケモンだけ、それも幻の色違いでなくてはならない。
彼の目的は主であるお母様の機嫌を取るポケモンを捕獲することだ、遂行出来なければここに来た意味などない。
それはヨルノズクもよくわかっていて、その為の目を使って彼を手伝っていた。

ふと、ヨルノズクが彼の斜め前に出てきて横目で何かを訴えるように見据えた。鳴き声も言葉も発しない2人だけの合図。

─ 人の視線を感じる ─

彼は微かに頷き、歩みを少しだけ早めた。
いくら目立つ格好をしていても、ハンターとしての仕事は誰かに見られていいものではない。元々臆病で敏感であったヨルノズクはこの仕事をするようになってからさらにその感覚を正確なものにし、人の視線を感じればすぐに彼に伝えていた。

お母様が見繕ったこの重たい服がなければもう少し楽に動けただろうが…
そういくら考えても仕方がない、お母様から与えられたものは必ず身に付けなければならなかった。

ライトストーンの子は誰もお母様には文句を言わない。

屋敷の子どもの十五歳以上の者たちのほとんどはポケモンハンターだ。というより、ハンターになるために屋敷で育てられてきた者たちなのだ。
しかしハンターとしての能力がどれ程高くても、リスクのある服装にどこか偏りのある知識、お母様の制圧があっては成功の確率は下がってしまうものだ。
失敗して檻に入れられた子どもたちはお母様に助けを求める、お母様はその助けを愛していた。お母様がいなければ何もできない可哀想な子どもたちが助けを求めた時、お母様はここぞとばかりにいっぱいの愛で我が子を抱きしめるのだ。

しかし彼は助けを求めようとは思わない、何があっても捕まってはならないし、必ず遂行しお母様への忠誠を表さなければならない。誰の邪魔もさせない。


歩みは飽く迄も雑踏と同じ速度で、しかし止まらずスピードを保ちながら進む。
通りを歩く時は気配を消して透明になるだけ、それだけでいい、彼はその術を身に付けている。

雑踏に溶け込むように彼は姿を消した。


+透明人間+

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