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+ 日陰りゆく、同じ空の下 +
◆シュン│マゴ(ドンファン)♀、ロモ(フクスロー)♂
トオル│イロミ(ヨルノズク)♀、ヒサミ(★グレイシア)♀
木々の隙間から西日が差しこむ。
黒く長い長い髪が少し揺れた時、ようやくこちらに向けられた視線、それは酷く冷たいものだった。
「なんでこんなことしてんの」
遊園地の喧騒も遠い人気のない森のなかで今日久しぶりの再会を果たした兄弟が睨みあう。朝に出会った時に兄がしていた表情は一遍、ひりついた空気は彼の前に立ちこちらを睨みつけるグレイシアも手伝ってのものだろうか。傍で困惑するマゴ、先頭に出るロモは矢をまだ構えたままでいる。
そういえば七年前の合宿の際にも兄とは言い争うような喧嘩をしただろうか、そのようなことが頭の隅から蘇ったのだが、今の兄の口は前の様な売り言葉に買い言葉もなく堅く閉ざされていた。
それもそうだろう、彼は狙っていた色違いポケモンの走り去る背中を弟、シュンによって見ることとなったのだから。兄が狙っていたのは幻のポケモンシェイミ、その色違いとあらばゲットしたいと思うことは誰にでもあるだろう。自分だってせっかくの出会いを逃さんとバトルを望みたいと考えるだろうが、兄の雰囲気はそれとは違っていた…ように見えた。そうではない可能性だってあったが、シュンはそうではない可能性の方が低いと感じていた。
一向に開かれない口元を見てシュンは言葉を続ける。
「マレちゃんが言ってた。兄ちゃんが自分の代わりにライトストーンに入ってしまったんやないかって……そうなんやな、今シェイミを狙ってたんも、その派手な恰好も……」
長い髪で隠されていた青い目がはっきりと見えた。
「わかっているのなら口を挟むな。マレーアにも言うな、この事を知ったらあの家に帰ると言い出す…私がしてきた事が無駄になる」
「そんなん!! 兄ちゃん自身はどうなってもいいって─」
シュンの焦点が急に合わなくなった。自分だけではない、マゴとロモにも同じ現象が起こっていた。兄のパートナーであるヨルノズクは背後に近づき“さいみんじゅつ”を放っていたのだ。
弟たちが地面に倒れ込む音を聞きつつトオルはその場を後にした。
***
「マレーアにどんな、失敗があったのか、俺は分からないけれど。マレーアはそれでいいの?」
「わ、わたしは─…」
「おっと、そんな顔させたかった訳じゃないんだ。ただ、少し悲しそうに見えたから」
そう言ったハツメはかまってほしそうに鳴くナゾノクサの相手をする。
マレーアは俯いた。ハツメの言葉が胸の奥を熱くして、少し前を見られなくなった。
(話、しても、いいんだ……まだこれは突然言えるような話じゃないけれど、少しだけ許されたような、気持ち……ハツメくんは優しいな)
俯いたマレーアの目は少しだけ、滲んでいた。
マレーアの隣にいたトワが鞄からのその音に気付き、マレーアにつついて知らせる。あわてて鞄の中からスマホを取り出し確認する。
「シュンちゃんからいっぱい来てる……」
「友達?」
「あ、うん。ごめんなさいちょっと出てきます」
あまり興味がなさそうなトワをそのままにして店の外に出る。先程まで赤く照らされていた空は太陽が見えなくなり、微かにあるオレンジ色ももうすぐ水色に染まろうとしていた。
「もしもし、シュンちゃん?」
電話の相手の声色からその内容を察した。あぁ…一番嫌な予感が当たってしまった。しかしその予感はぬぐい切れないものでもあった。
「私が、トオルくんをライトストーンに入れてしまったんだ」
(トオルくんの人生を私のせいで、私のせいだ、トオルくんを返してもらわないと……お母様に謝って…そして─)
「シュンちゃん私、帰らないと……」
「あんな、マレちゃん、兄ちゃんもおれもマレちゃんが帰るって言ってほしくないのは一緒やねん」
(でも、そうしないと……)
マレーアはそれでいいの?
(いいわけないじゃない、やっぱり嫌だ、お母様の人形じゃもういられないよ、だって好きなものを、あの家にいた頃は知らなかったたくさんのものを知ってしまったんだ。それにトワたちをもう振り回したくない、みんなと一緒にいられる方法がほしい)
「シュンちゃん、まずはトオルくんとちゃんと話しよう、それからあの家にも行く、お母様ともちゃんと話をしたい」
(ずっと後回しにしてきたんだ、ずっと向き合うのが、否定されることが怖くて避けてきた、本当は帰り方も知っていたの)
+ 日陰りゆく、同じ空の下 +
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