_トレ録3_13

+好きを教えて+

光を感じてうっすらと目を開けた。ぼんやりとした視界が次第にはっきりとして、木目の天井が少し遠くに見えた。

「知らない、天井だ……」

少しの間その天井を見つめて、あぁそうか合宿に来ていたのだったと思い出す。少し身じろぎすると何か当たった、恐らくトワの足だ。トワのすーすーという寝息以外はとても静かで誰もまだ起きていないようだった。
ふと浮かんだのは寝る前にアスタがくれたモーモーミルク。

「おいしかったな」

その味をまた思い出したくてマレーアは再び目を閉じた。

静かで優しい声がマレーアを呼んだ、ぼんやりとした頭で、はーいと気の抜けた返事をする。

「マレーアちゃん……お、起きてる?」
「ぷわ〜」

正直頭は起きてはいなかったが、シュンやトオルの雑な起こし方とは違うトモリの優しい声には安心感を覚えた。
少し意識がはっきりしてきて気付けば、周りで寝ていた子達はもうみんな布団から出ているようで、朝の支度をしながら賑やかな声を響かせている。おかしいな、さっき起きた時は一番だったのに……と少しだけ残念な気持ちで身体を起こしてゆっくりと服を着替えた。その間もトワは周りのことなど気にせず、すーすーと寝息をたてて寝ていた。

起こされて少し不機嫌そうなトワを連れて洗面所へと向かうと、アスタとエスコの声が聞こえてきた。思い出すのは寝る前の事。

おはよう、昨日はありがとう、2人に訊きたいことがあるの、いいかな

一度頭の中で唱えてから息を吸った。

「……おはよう!」

*****

「好きなもん?そんなん自分がええと思ったもんが自分の好きなもんや!」
「う…………その、ええと思うもん……が、わからないの…」

マレーアは困り顔でエスコにうったえた。
それを見たアスタはうーんと呟いてから、落ち着いた声でマレーアに話出した。

「“好き”がわからない、か……確かに“好き”って気持ち、わかりやすく言葉にはしにくいけど……」

アスタはマレーアを少し見て、次にトワの方へと視線を落とす。

「マレーアちゃん、トワくんのことはどう思ってるの?好き?」
「……トワのことは……多分好きだと思う…思ってた…トワに出会った時、なんだかいつもと違う気持ちに……えっと、なんて言えばいいのかな、なんだかね!この子と旅をしたい!って思ったの。その時はこれが“好き”って気持ちなのかもしれないって……そう、感じた」

マレーアは洗面所の出入口付近でローベルとイモを誘ってじゃれているトワをちらりと見て、少し続きを言うことを躊躇ったが一呼吸置いてまた口を開いた。

「だけど……トワは私の事……あまり好きではないみたいだし……私が思った、よくわからない気持ちのせいで、トワを振り回してしまっているのかなって思うと……自分の気持ち……よくわからなくなった。いや、ずっと…前から…よくわからないままでいる」

「なんでそこまで思わなあかんねん」
「……マレーアちゃんは肩に力が入り過ぎちゃってるんだね」
「ちから?入れて…ないよ?」
「入れてないつもりでも考えすぎちゃって、どれがどの気持ちなのかわからなくなってるんだよ。今“好き”にこだわる必要はないよ、ゆっくりでいい…自分の思ったことに素直になってみて」
「ゆっくり……」

(でも……合宿が終わる前には見つけないと……アカリくんに自己紹介するって言ったんだから)

マレーアはそれでも少し焦ったような気が残っていた。俯くマレーアを見てアスタはマレーアの肩を優しくトンと押した。

「大丈夫!マレーアちゃんなら自然と気持ちは溢れてくると思うな!」
「せや、無理して考えんとき!要するに……」
「要するに?」
「考えるな感じろ!!!」

エスコの力強さに圧倒され、マレーアは「おぉ…」とだけ発した。


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