_トレ録3_26

+さよなら赤色、また来て海の色+

「アスタちゃんもトトちゃんも三つ編みはやい…」
「毎日やってるからね〜」

洗面台の鏡の前でアスタとトトが手早く自分の髪を編んでいる姿をマレーアはじーっと見ていた。アスタは最後にゴムで結んで、はい出来上がり!と摘んでマレーアに見せる。

「毎日やってるとそんなにはやく出来るようになるの?」
「慣れだよ慣れ!」
「マレーアちゃんもやってみる?」

トトの提案にマレーアは首を振った。

「教えてくれるのは嬉しいけど……私、多分三つ編みしたことがないから、崩れた時に自分で直せない……それに、髪の毛短いし……」
「そんなに簡単には崩れないよ」
「編み込みだったらできるんじゃない?」
「……編み込み?」

なんて話をしてるうちにいつの間にかマレーアは座らされ2人にあれこれと髪の毛を弄られている。
じっとしたまま動けずなんとなくムズムズするのを少し我慢して、目線の先の談笑しているローベルとトワとエメを見て待っていた。

髪の毛を触られると少しムズムズする…前からそうだった
前からって、何時?

「出来た!編み込み!」

アスタの声で考え事から戻ってきたマレーアは鏡の前に立つ。
前髪に丁寧に編まれた三つ編みを見て頬が薄く染まった。

「はわ……………………すごい……」
「うんうん!似合うね!マレーアちゃんもうちょっと伸ばしてハーフアップにしたりしてもいいかも!」
「ハーフアップ……」

アスタとトトから聞きなれない言葉が出てきて、少し戸惑いながらも、オシャレをするというその行為にドキドキとワクワクを抱いていた。
しかしコテージでこうやって生活を共にするのも今日が最後だと気付くと、急に寂しい気持ちが溢れてきた。

「明日からみんな別々か」

マレーアは一瞬、アスタはテレパシーでも使えるのかと思って凝視した。

「同じこと考えた…」
「ほんと?……みんなそれぞれ別々の場所から来て、また別々の道を歩んでいくから、次いつ会えるかとかわからないよね」
「うん」

またトワと二人だけの旅に戻る。合宿に来る前までの日常に戻るだけ、寂しいと思うのは、ここで会った人達が好き、だから?
ここでの出来事、忘れたくない、初めてがいっぱいあってイタズラしたり鬼ごっこしたり、内緒話をして約束もした。忘れないなんて保証はない、一度記憶を無くしたマレーアに二度目がないとも限らない。

それでも忘れたくない、気休めにしかならなくても、大切なものは大切にしたい。マレーアは約束をした時の海の色を思い出して、胸元の赤いリボンを解き、潮騒のリボンを同じ場所に付けた。

『覚えて無くても、大切なら心は忘れない』


「変……かな」

付けた後になってから恥ずかしくなる。アスタがそんなことないよ!と褒めるとマレーアはもっと紅くなった。

「心機一転?」
「気合を、入れました!」

マレーアは立ち上がりトワを呼んで、部屋でくつろいでいるエスコとイモの元へとズンズン歩いていく。

「エスコちゃんイモさん…!」
「お、なんや?マレーア」

あぁしまった、言葉を用意するのを忘れていた、でももうどうにでもなれ。

「あのね、えっと、初日に私に声をかけてくれて、ありがとう……あの日に出来なかった、バトル、今なら、トワと出来ると思うから…」

息を吸い込む。

「私と、バトルしてください…!」

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