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  • 黒と白と、ときどき朱(あか)

    世界で一番大好きで大切で、私を我が子のように愛情を注いでくれた。私も、結婚式には特等席に座って欲しかったし、子供が産まれたら「ほら初孫だよ!」って言って抱いて欲しかった。なのに…。

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黒と白と、ときどき朱(あか)~最終話~恋しい、けど、もう大丈夫

 おばちゃんは、まだ大人になったばかりの私に、人が死ぬとはどういうことなのかを、身をもって教えてくれた。  大切な人が亡くなるとどれだけ悲しいのか、大人になっても声を上げて泣くことがあるということ、人は死ぬと冷たく硬くなること、葬式と告別式ではどういうことをするのか、その間おばちゃんは変わらず綺麗で、でも火葬場に連れて行かれ、火葬場がどういうところなのか、冷たく狭く閉ざされた空間に入れられ点火され、その間最期のお別れの食事をすること、そして次会う時には骨だけになってること、

    • 黒と白と、ときどき朱(あか)~第17話~約束、守ったよ

      「うちの子の先生してくれん?ふみかさんやったら安心して任せられるっちゃけど。」  しばらくすると、おばちゃんが亡くなる直前まで教えてもらっていた子供たちの親が何人か、そう言ってきてくれた。  本当は、二つ返事で「やります!」って言いたかった。将来は習字教室をしたいと思っていたし、許されるならおばちゃんの跡を継ぎたいと思っていた。でも、あまりにも急すぎて心の準備ができなくて、まだ美容師を辞める決心もつかなかった。  ある日、練習用の紙が少なくなってきたので、書道用品を売っ

      • 黒と白と、ときどき朱(あか)~第9話~初めておばちゃんが感情を出した日

         美容師はずっと前からの夢だった。記憶が正しければ、明確になりたいと思い始めたのは小学5年生の頃からだったと思う。けど、それよりもずっと前から、自分の髪が切られているのを鏡越しに見ているのが大好きだった。  友達の両親が営んでる床屋さんがあって、小学生の頃はいつもそこに切りに行っていた。そして毎回「1㎝だけ切って下さい」って言って、いつもオカッパに切ってもらった。友達からもよく「髪キレイやね!絶対、将来シャンプーのCM出れるじ!」って言われていたし、自分で言うのもなんだけど

        • 黒と白と、ときどき朱(あか)~第16話~モノクロ

           おばちゃんが亡くなってからの人生はモノクロになった。  周りのいろんなものから色が消えた。  仕事をしている間は美容という色鮮やかな綺麗なものに囲まれて、お客さんと楽しい話をして、いろんな色を感じることができる。だけど、お店を出て1人になると途端に色褪せていく。帰り道、飲み屋の並ぶ賑やかな繁華街を通って帰る時も、ネオンやイルミネーションがキラキラしているはずなのに、凍りついてるような、時が止まったような、現実の世界に思えなかった。私との間に見えない壁があるかのように、遠

        黒と白と、ときどき朱(あか)~最終話~恋しい、けど、もう大丈夫

        • 黒と白と、ときどき朱(あか)~第17話~約束、守ったよ

        • 黒と白と、ときどき朱(あか)~第9話~初めておばちゃんが感情を出した日

        • 黒と白と、ときどき朱(あか)~第16話~モノクロ

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        • 黒と白と、ときどき朱(あか)
          19本

        記事

          黒と白と、ときどき朱(あか)~第15話~プロって…、美容師って…

           どっと疲れが押し寄せてきた。全てが終わった。骨になり壺に納められたおばちゃんを思い出して、本当にもう会えないんだ…と理解した。理解はしたけど、認めたくはない。また目元がじんわりしてきて視界がボヤけていく。そして、すぐに容量をオーバーして、一筋…また一筋…と頬が濡れていく。 ―――いつまで涙は出続けるんだろう…。  だいぶ泣いたはずなのに、まだ枯れない。泣き過ぎて鼻をすすり過ぎて、鼻の奥から目全体にかけて熱を帯びジンジンしていた。頭もボーっとする。瞼も重く開けているの

          黒と白と、ときどき朱(あか)~第15話~プロって…、美容師って…

          黒と白と、ときどき朱(あか)~第14話~最期の最期まで、そばに居させてくれて

           翌朝、式場に行く前におばちゃんちに向かった。  妹さんに挨拶した後、習字の部屋に向かった。部屋にあがってすぐ後ろを向くと、引き戸の上にそれはあった。飾ってあった額を取り外し、裏のツメを回してカバーを取ると、そこには細かい字がびっしり書かれていた。これは私が成人式の時、振袖姿を見せに行ったときにおばちゃんにプレゼントした色紙だった。  表には私が中学生の時、初めて出会って感銘を受けた大好きな“言葉”を、裏にはおばちゃんとの思い出やお世話になったお礼の手紙をびっしり書いて額

          黒と白と、ときどき朱(あか)~第14話~最期の最期まで、そばに居させてくれて

          黒と白と、ときどき朱(あか)~第13話~葬式

           10時くらいに目が覚めた。 ―――いつの間に眠ったんだろう…。  昨日泣きすぎたせいか、瞼が重く、鈍器で殴られたように痛かった。頭もボーっとしている。体はコンクリートみたいに固まっているようだった。目だけ開けてボーっとしていると、寝心地が悪かった。 ―――そういえば、昨日はお風呂も入らず、着の身着のまま寝てしまったんだ…。コートも着たままだ。  寝返りをうった。コートが邪魔をして動きづらい。昨日のことを思い出し、また涙が一筋流れた。しばらくの間、そのままにし

          黒と白と、ときどき朱(あか)~第13話~葬式

          黒と白と、ときどき朱(あか)~第12話~私の中の壊れていく音

           本当だったら、私はもう習字なんて辞めているはずだった。仕事との両立も大変だし、ただでさえ休みが少ないのに、毎月の課題を提出をしようとするとさらに遊べる時間が減る。それでも、今でも習字を続けてるのは、おばちゃんとの約束があったから。それがなかったら、とうの昔に、1つ目の師範を取った時点で辞めていた。でも、その約束は生きているうちに果たすことができなかった…。  親戚の方がお茶とお菓子を出してくれた。けど、声も出せず会釈するのが精一杯で、ずっと正座したまま涙が止まらない。親戚

          黒と白と、ときどき朱(あか)~第12話~私の中の壊れていく音

          黒と白と、ときどき朱(あか)~第11話~突然の別れ

           現実を突きつけられた…。泣くしかなかった…。というか、まだどこにこんなに涙が残っていたのかと思うほど、決壊したダムのように濁流となって涙が流れ出てきた。  今年に限ってお正月の挨拶をしに行ってなかったことを後悔した。落ち着いたら行こう…次の休みに行こう…と思い続けて、結局行ってなかった。行こうと思えば行ける時間なんていくらでもあったのに…。近いし、いつでも行けるからって、後回しにしてしまっていた。顔を見ていたら、おばちゃんの変化にも気づいていたのかもしれないのに…。マジで

          黒と白と、ときどき朱(あか)~第11話~突然の別れ

          黒と白と、ときどき朱(あか)~第10話~お願いだからウソだと言って

           2012年1月31日火曜日。  その日入っていた予約が全て終わったのは夕方頃だった。最後のお客様を見送って、遅いお昼を食べようとバックルームに入って携帯を見ると、母からの着信が5分前にあった。仕事中、携帯に出れないのは分かってるハズ。だから、いつもはメールをしてくるし、もし急用だったらお店の電話にかけてくればいい。なのに…、「なんやろ?」と思いながら、折り返してみた。 「どした?」 「ふみかぁ~…」  いつもになく弱々しいというか、震えてるというか、泣きそうとい

          黒と白と、ときどき朱(あか)~第10話~お願いだからウソだと言って

          黒と白と、ときどき朱(あか)~プロローグ~

           目の前には、白い箱が置かれていた。そして、その周りには親戚と思われる人がたくさん集まっていた。なんで「と思われる」なのか…。それは、ほとんどが知らない人ばかりの中で、唯一分かる顔が一人いた。おばちゃんの甥っ子さん。いつもおばちゃんが私のお店に来るときに送り迎えしていた人だ。そして、それ以外にもおばちゃんに似た年配の女性が二人いたから。 「あなた、ふみかさん?本の子やない?」 「あ、本当や!本の子や!」 「姉さんが自慢しちょったよ。いろんな人に宣伝して回ってね。『すごい

          黒と白と、ときどき朱(あか)~プロローグ~

          黒と白と、ときどき朱(あか)~第8話~準師範と師範

           おばちゃんの元を離れ、高校の書道部での練習が始まった。しかし、おばちゃんも長友先生も、もちろん私より字が上手で素晴らしい先生であることに変わりはないが、文字の書き癖が違く、練習する部屋や環境も大きく変わって書きづらかった。  おばちゃんちでは、床に座布団を敷いて正座し、6人でいっぱいになるような狭い部屋だった。机も下敷きを敷くとそれだけで奥行きがいっぱいになり、横幅は手本と下敷きと墨筆硯を置くと自分のスペースにちょうど収まり、隣との隙間はない。だからと言って窮屈さは感じな

          黒と白と、ときどき朱(あか)~第8話~準師範と師範

          黒と白と、ときどき朱(あか)~第7話~おばちゃんからの卒業

           高校に進学した後も、部活はソフトテニスを続けた。中学の時は特に強豪校というわけではなく、ただテニスを楽しんでいる趣味の延長のような部活だった。しかし高校に入ると、強豪校の仲間入りするほどの中学から来た部員も多く、しかも女子部員は少なかったので、いつも男子と一緒に練習しメニューも男子に合わせるため、めちゃくちゃハードだった。放課後はもちろん、土日祝日もGWも、夏休みも冬休みも、いつも部活で潰れた。しかも、高校も県内トップの進学校だったため、普通の授業プラス、朝課外、夕課外があ

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          黒と白と、ときどき朱(あか)~第6話~橋名板

           宮崎市から中学校へ橋名のプレートを生徒に書いてもらえないかと依頼がきた。新しく宮崎に開通する高速道路から一般道路に繋がるIC橋のプレートらしい。  職員室では、とりあえず3年生全員に書かせ、その中から上手い人を選ぼうかと考えていた。と同時に、当時作品展でいつも入賞していた私と河野さんの名前が挙がり、全員に書かせることなく2人で手分けして書かないかと話がきた。  橋名の漢字とひらがな、竣立年月日の漢字とひらがなで4つ。2人で相談し、それぞれの得意分野である私が漢字を河野さ

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          黒と白と、ときどき朱(あか)~第5話~おばちゃんと目指した完全制覇

           中学3年生。この頃になると、いかにたくさん、誰よりも良い賞を、一番良い賞を取るかに必死だった。  毎年夏休みになると宿題で書道の課題が出る。課題について文字や規格が書いてあるプリントをもらい、確信した。 ―――よし、これならイケる!  そして、もう1枚プリントが配られた。それには宮崎で行われる作品展の一覧が印刷されていた。左側には作品展名が書かれていて、宮日展(新聞社)やら、交通安全がテーマの作品展やら、8個くらいある。書道をはじめ、絵や作文、工作など、いろんな部

          黒と白と、ときどき朱(あか)~第5話~おばちゃんと目指した完全制覇

          黒と白と、ときどき朱(あか)~第4話~おばちゃん初の「鑑賞欄」

           中学2年生の頃。  部活から帰り、晩ごはんを食べ、リビングでパソコンをいじっていると、夜9時頃、家の電話が鳴った。母親が子機を取り対応している。話している様子から知り合いからの電話だと分かった。 「ふみかー、習字のおばちゃんから電話よ!」 ―――こんな遅くに珍しいな。しかも、おばちゃんって…。  パソコンを一旦中断して、テーブルの方に向き直り、子機を受け取った。 「もしもし、ふみかですけど?」 「ふみかさん?おばちゃんやけど。遅くにごめんね(笑)」

          黒と白と、ときどき朱(あか)~第4話~おばちゃん初の「鑑賞欄」