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転居しない転勤

5月31日の日経新聞で、「どこにいても働けますか(2) JTB赴任せずに「転勤」 仕事場選べる新制度」という記事が掲載されました。

JTB東京都品川区の部署に所属でも、実際は兵庫県の日本海側にある新温泉町の実家で勤務しているという社員の事例を紹介しながら、部署異動と転居を分別し働く場所を選べる制度にした(「ふるさとワーク」制度)という説明でした。必要な時にだけ現地に行けばよくて、住む場所自体を強制移動する必要がないという考え方です。雇用を取り巻く環境が日々変わっているのを実感します。

上記の関連記事として「COMEMOの論点 転勤は本当に必要か」には以下のような内容がありました(一部抜粋)。

~~投稿プラットフォーム「COMEMO」で、転勤は本当に必要と思うか意見募集したところ、転勤は時代遅れ、なじめない、という意見が多かった。

澤円さん(圓窓代表取締役):「転勤は会社による暴力」と思っているぐらい転勤という制度が嫌いだが、転勤が嫌なら、その気持ちに正直に仕事選びをすればいい。辞令が出た時点で「転職」してしまうのもひとつの手段。

黒坂宗久さん(黒坂図書館館長):いつもの職場では味わえない仕事を国内外の拠点で体験できる選択肢は魅力的だ。これから先の時代では国内や海外への転勤があるというオプションはセールスポイントの一つになるかもしれない。

澤円さんは中堅生命保険会社に内定をもらっていたものの「就職ではなく就社」という雰囲気になじめず内定を辞退。就職活動をやり直してプログラマーになったという。「就社は嫌だなと思った原因の一つに転勤があった」。また長谷川祐子さんは「転勤には家庭を崩壊させてしまう力も持っている」と指摘した。

一方、転勤を前向きに評価する意見もあった。
黒坂宗久さんは「今や転勤に魅力を感じる」という。島袋孝一さんは「いまの自分をつくっている要素は間違いなく社会人の序盤に全国を転勤した機会だ」と振り返る。

「世界の普通から」さんは、転勤の目的を再定義すべきだと主張。今後は人材育成目的の転勤は大幅に減り、世界中から人材を集めるような多様性を高めるための転勤が増えると予想していた。~~

「多様性」という言葉がマーケティングや組織マネジメントでのキーワードのひとつになっていますが、土地に対する価値観も多様化しています。このことは、普段様々な企業関係者や若手人材とお話する機会からも実感します。「この土地でしか働きたくない」「土地にまったく執着なくどこでもよい」「自分の理想の環境を満たしている土地ならどこでもよい」など様々です。

土地に対する価値観の個人差は以前からあったわけですが、若手人材ほどその傾向が高まっているのを感じます。「この土地でしか働きたくない」という価値観の強い人材に対して転居付きの辞令を出すと、上記記事の澤円氏のように高い確率で離職を考えるでしょう。

このテーマに関しては、以下の4点を踏まえて考えるとよいと思います。
特に、1.については冒頭の記事のように、コロナ禍もきっかけにリモートワークでも成立する仕事が実はたくさんあったことが分かったわけです。他方、エッセンシャルワーカーと呼ばれる職種など、リモートワークでは成立しえない仕事も明確になってきています。また、1.の結果は組織の方針にもよるでしょう。

1.その仕事やプロジェクトを成功させるために転居が必要か。(業務の視点)
2.人材育成・成長のために転居が必要か。(育成・成長の視点)
3.その仕事やプロジェクトへのアサインの必要性は、どのぐらい続くのか。一時的か、長期的か(時間軸の視点)
4.本人の価値観が転居を望むか。(価値観の視点)

冒頭のJTB社員の例では、「3.長期的」ながらも、「1.不要」「2.不要」「4.望まない」という結果となり、それを受けて「所属部署の所在地と住所を分ける、他都道府県への異動はするが転居はしない」というアクションをとったのだろうと推察します。

1.~4.の結果が違えば、アクションも違ってくることでしょう。例えば、「1.必要」+「3.長期的」という結果を踏まえて転居する、「1.不要」だが「4.本人が是非」と望み会社もそれを認めるため転居する、などです。

2.については、様々な考え方がありそうですが、それは次回以降のコラムで考えてみます。なお、上記JTBの例「2.不要」と勝手に推察しましたが、不要なのは転居であって、「人材育成・成長が不要」と推察しているわけではありません。人材育成・成長は必要です。転居とは違った方法で人材育成の可能性があるという見解をされているのだと思います(下記参照)。同記事にある「ふるさとワーク」の概要を、参考までにご紹介します。

ふるさとワーク制度の概要
1:どこを居住の拠点にしたいか、「ふるさと」を全社員が会社に登録。出身地・自宅に限らず国内どこでもOK
2:「ふるさと」と異なる地域への異動辞令が出たとき、上司に相談のうえ、利用希望を申請できる
3:勤務予定地、そこから最寄りのJTB営業所、そこへの交通手段などを申請
4:仕事内容や勤務予定地などから会社が業務遂行の可否を判断
5:業務は基本テレワークベース。出勤が必要な場合は出張費を会社が負担
※本人の希望のほか、赴任不要と判断すれば会社が転勤なし地域間異動の辞令を出すことも

期待する効果
・介護や子育てなど配慮が必要な事情があってもキャリアを積める
・単身赴任を解消できる
・転勤できない社員も、全国様々な部署での業務に携われる
・転勤先での住居費補助、単身赴任手当などのコストが節減できる
・地域に密着した生活ができ、そこから新しい発想が生まれる

<まとめ>
転居なしでも転勤が可能になった。転勤に伴う転居の有無は「業務の視点」「育成・成長の視点」「時間軸の視点」「価値観の視点」で考えるとよい。


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