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記事一覧

街の片隅で

「時間どうしますか」と言われて時計を見たら既に予定の滞在時間を過ぎていたらしく、店主がさりげない形で確認してきた。 声を掛けられるまで今何時なのかわからずにいた…

fuji
1年前
2

渦の傍ら

「桜が舞ってるよ」と知り合いから連絡が来るまでは僕は今どの季節にいるかを正確にわかっていなかったように思う。  普段事務的な連絡手段としてしか用途のない緑のアイ…

fuji
2年前
5

白寿の祝い

「梅雨を過ぎてグズグズしている内に、いつの間にか季節をひとつ越してしまった。その間に僕は川で遊んだりフェスに行ったりiPhoneの機種変更をしたりした。どれもか…

fuji
2年前
2

瑞々しさの感覚

「父兄参観って苦手なんだよね」少し物憂げな声で彼は言った。 「父親らしくしている人達の中はなんだか居心地が悪くて」低い声で喋りながら指は鍵盤の上を滑らす。ポロン…

fuji
2年前

センターカラーのように鮮やかに

 僕らは挨拶もそこそこに、代々木公園の出口に向かった。薄暗くなっていく濁った空の中、花見の賑わいの余韻が見て取れるような、少し熱を帯びた空気があたりに漂う。  …

fuji
2年前
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柔らかい春に

「有名なバンドが出るんですか?」  注文したうどんの引き渡しに時間がかかるようで、店員が間を持たすように聞いてきた。 「toconomaというバンドが出るんです。」 話…

fuji
2年前
1

悲しさは伝染する。
ふざけていれば世界は平和だと思っていたが、体力が衰えていればそう長く平和も続かない。
口に出せれば簡単なことも蓋が閉めれば行き所を無くしてやがて燻りながら哀しみに変わる。
他愛無いことなのだが昨日の事を思い返してはそぐわなかった肌感覚を捉え直している。

fuji
4年前

清濁

台風が過ぎて3日が経った。 竜がうねるような姿に似た台風19号は、東日本を舐めるように通過して各地をのたくり回った。 ニュースでは各所で水位が上がり、危険水位に達…

fuji
4年前
2

日々ふじ20191012

朝からダラダラとなんとなく過ごしている。 頭痛で目が覚めて、「これが偏頭痛なのかな」と思いながら無理やりシャワー浴びて。けど断水対策で風呂に水貯めてあって「あれ…

fuji
4年前
1

日々ふじ20191010

上の人からそこそこ叱られたりして。 それでなんとなくもう嫌になって上司と二人でコソコソと裏っこの棚で作業していた日 明日休みだったのだけれど忙しいから「悪いけど!…

fuji
4年前

日記20191008

「お先に失礼します。また明日。」 仕事用のリュックを担ぎ、足早に会社を出る。時刻は午後9時30分。終バスの時間は9時34分。僕は急いでバス停に向かう。 歩いて、5.6…

fuji
4年前

土くれの塊

自分で物事を考えなくなった。 朝起きて、出社し、仕事して、退勤して、人の声を聴いて、寝る。 ”読書するとは、自分でものを考えずに、代わりに他人に考えてもらうこと…

fuji
4年前
2

水、淡きをもって

ある方と食事に行った。 実に一年ぶりの繋がりであった。 互いに思い違いをしていた分もあり 約一年のブランクが空いてしまった。 僕は、会わなかった時間を悔い、埋め…

fuji
5年前

「ぴたりと足が止まった」から始まり「今日も空が青い」で終わる物語1

SS 『ぴたりと足が止まった』 50m先、川の向こう側、先輩が女の子と楽しそうに一緒に歩いているのが見えた。 失恋。 短い春がまた終わりを告げた。 帰りにスタバに寄ろ…

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5年前
1

幼馴染の縁

久しぶりにFacebookを立ち上げたらこんな投稿が目に入った 「Danke! ドイツにきて5ヵ月が立ちました。戸惑うことも多いし忙しいけど毎日が刺激的です!英語やドイツ語は…

fuji
5年前

一年の終わりに

仕事を納めた。 ”納めた”というより”詰め込んだ”というほうが感覚的には当てはまるような忙しさで。 年始に持ち越した部分も多くあり、穏やかな気持ちで終えたとは言…

fuji
5年前
街の片隅で

街の片隅で

「時間どうしますか」と言われて時計を見たら既に予定の滞在時間を過ぎていたらしく、店主がさりげない形で確認してきた。

声を掛けられるまで今何時なのかわからずにいた。

窓の外はまだ明るく、時間を測る材料にはならなかった。だいぶ日が伸びたな、と思った。

最近近くに商店街に出来た作業スペースができた。
「あれ、僕何時から居ましたっけ?」

店主に確認すると1Fにいる本屋の若店長に「何時からいたっけー

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渦の傍ら

渦の傍ら

「桜が舞ってるよ」と知り合いから連絡が来るまでは僕は今どの季節にいるかを正確にわかっていなかったように思う。

 普段事務的な連絡手段としてしか用途のない緑のアイコンに久しぶりに赤い数字が付いたのでタップすると、画面の中に桜の花びらが舞っていた。なるほどそういうことか、今の時代桜が舞うのに樹木はいらない。端末ひとつでどこにでも桜が舞うのだ。ある時は雪が降り、ある時には花火が咲く。

 暦の上は春と

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白寿の祝い

白寿の祝い

「梅雨を過ぎてグズグズしている内に、いつの間にか季節をひとつ越してしまった。その間に僕は川で遊んだりフェスに行ったりiPhoneの機種変更をしたりした。どれもかけがえのない思い出だが、写真を見返さないと思い出せない辺り思い入れの程度が知れているなと思う。」

 この文章を出だしに一つの形を作ろうと保存して取っておいていたのだが、気乗りがしないのを言い訳にずっと放置をしていたら、またいくつかの季節を

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瑞々しさの感覚

瑞々しさの感覚

「父兄参観って苦手なんだよね」少し物憂げな声で彼は言った。

「父親らしくしている人達の中はなんだか居心地が悪くて」低い声で喋りながら指は鍵盤の上を滑らす。ポロン、と音が流れる。最近練習しているらしいメロディが辺りに響いた。

今週半ばから降り始めた雨は週末まで飽きることなく降り続き、ニュースでは梅雨入りのアナウンスが流れた。話す言葉も梅雨特有の湿り気を帯びているように聞こえる。息子との今の関係性

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センターカラーのように鮮やかに

センターカラーのように鮮やかに

 僕らは挨拶もそこそこに、代々木公園の出口に向かった。薄暗くなっていく濁った空の中、花見の賑わいの余韻が見て取れるような、少し熱を帯びた空気があたりに漂う。

 僕は歩ってく道中、さっきあった耳馴染みのある初対面の人々の、不安定な認識を埋めるようにいろいろな人に声をかけた。ボサボサの頭で来てしまったことに後悔しながら、髪でも切ってくれば良かったかなと内心思いながらも入口へと歩いた。

 入口の時計

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柔らかい春に

柔らかい春に

「有名なバンドが出るんですか?」

 注文したうどんの引き渡しに時間がかかるようで、店員が間を持たすように聞いてきた。

「toconomaというバンドが出るんです。」

話しかけられるとは思ってなかったので、どぎまぎしながら僕は答えた。

 「フジロックにも出てるようなバンドなんですよ。」と僕は続けたが、店員はよくわからなかったようで、そうなんですかと返事をしながら「ここからだとちょうど舞台が見

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悲しさは伝染する。
ふざけていれば世界は平和だと思っていたが、体力が衰えていればそう長く平和も続かない。
口に出せれば簡単なことも蓋が閉めれば行き所を無くしてやがて燻りながら哀しみに変わる。
他愛無いことなのだが昨日の事を思い返してはそぐわなかった肌感覚を捉え直している。

清濁

台風が過ぎて3日が経った。

竜がうねるような姿に似た台風19号は、東日本を舐めるように通過して各地をのたくり回った。

ニュースでは各所で水位が上がり、危険水位に達したと報じられて、僕の携帯にも定期的に緊急速報が鳴った。

長野埼玉と堤防が決壊し、付近の集落が水没した。

台風の最中僕は家に閉じ籠り、時折窓を開いてら外の様子を伺いながら携帯で雨雲レーダーを確認していた。

近くに川ががあるとはい

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日々ふじ20191012

朝からダラダラとなんとなく過ごしている。
頭痛で目が覚めて、「これが偏頭痛なのかな」と思いながら無理やりシャワー浴びて。けど断水対策で風呂に水貯めてあって「あれ、これ俺シャワー浴びていいのかな」って思いながら頭とか洗ったりしていた。

本を読むぞ、と意気込んでいて。2.3冊本が読めちゃうんじゃないかムフフなんて思っていたのだけれど。あれだけ意気込んでいた割には午前中からネットやったり洗濯したり。

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日々ふじ20191010

上の人からそこそこ叱られたりして。
それでなんとなくもう嫌になって上司と二人でコソコソと裏っこの棚で作業していた日
明日休みだったのだけれど忙しいから「悪いけど!」なんてふらっと三連休が無くなったりして。

今日も帰り日記を書きながら帰ろうと思って、仕事の片付け作業をしながらあんなこと書こうとかこんな構成にしようとか色々考えていたのだけれど、今の時間になって書き出そうとするとふわっと霞を掴むみたい

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日記20191008

「お先に失礼します。また明日。」

仕事用のリュックを担ぎ、足早に会社を出る。時刻は午後9時30分。終バスの時間は9時34分。僕は急いでバス停に向かう。

歩いて、5.6分。走って3分ぐらいだから逃すことはない。「いつもこの時間だなぁ」と思っていても仕事内容は減らないので致し方がない。

────────

今、無事バスに乗ってこの文章を描いている。

このバスに一人で(この一人で、というのが

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土くれの塊

自分で物事を考えなくなった。

朝起きて、出社し、仕事して、退勤して、人の声を聴いて、寝る。

”読書するとは、自分でものを考えずに、代わりに他人に考えてもらうことだ”

知らず知らずのうちにその人の陽の部分に頼り

自分自身をその雰囲気に委ね

考えなくなってしまったように思う。

さも自分がニッチで、少数派で、誰ものにも真似できないような人間であると

大した努力もせず

勘違いしながら。

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水、淡きをもって

ある方と食事に行った。

実に一年ぶりの繋がりであった。

互いに思い違いをしていた分もあり

約一年のブランクが空いてしまった。

僕は、会わなかった時間を悔い、埋めるように話した。

──────

常に人との距離感を遠めに設定してきた。

人との距離感が10あったとして

常人が5で、依存が7なら

僕は3ぐらいのつもりで接してきた。

僕は誰よりも残酷で自分本位で

もし距離感を測り間違え

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「ぴたりと足が止まった」から始まり「今日も空が青い」で終わる物語1

SS
『ぴたりと足が止まった』
50m先、川の向こう側、先輩が女の子と楽しそうに一緒に歩いているのが見えた。

失恋。

短い春がまた終わりを告げた。
帰りにスタバに寄ろうなんて言わなきゃよかった。大人しく、家に帰ってお気に入りのユーチューバーでも見ていれば幸せだったのだ。
頭の中でもう一人の自分が騒ぐ。
おそらく遅かれ早かれわかることではあったが、何かのせいにしなければ気が済まないのであった

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幼馴染の縁

幼馴染の縁

久しぶりにFacebookを立ち上げたらこんな投稿が目に入った

「Danke! ドイツにきて5ヵ月が立ちました。戸惑うことも多いし忙しいけど毎日が刺激的です!英語やドイツ語はまだまだだけど、プロジェクトを手伝いながらも新作に取り掛かっています!」

幼馴染の投稿だ。彼は美大を出てフリーになった後、アーティストのPVなどを手掛けたりして、今はドイツの大学で学ぶと国のなんだかわからない補助を受けて飛

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一年の終わりに

仕事を納めた。

”納めた”というより”詰め込んだ”というほうが感覚的には当てはまるような忙しさで。

年始に持ち越した部分も多くあり、穏やかな気持ちで終えたとは言い難い。

それでも大掃除だなんていって軽く掃き掃除なんてすると一気に年の瀬という雰囲気を帯び始めて

「よいお年を」なんて挨拶を繰り返すだけでもう一気に気持ちは軽くなる。

仕事終わりに空を見上げると、そういう日に限って星がよく見えた

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