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ドル経済はどうなる? 2/2

常にある米経済制裁の恐怖

米経済制裁を受けているのは露だけでも初でもない。イラクイランベネズエラアフガニスタンリビア等々数十か国を見てみるといい。制裁は表向きに言われている目的をたいていの場合は達成していないが(要は制裁を科された方が特に態度を変えたりしない)、この辺りの国も米ドルでの為替準備をしていたがある日突然『制裁』という名の下でその準備高の大半若しくは全部が凍結されている(はっきり言うと盗まれているようなもんだ)。そして、凍結された資産は、未だ返却されているわけではない。つまり、米ドルの為替準備は今まで一般常識化している通り低リスクなんかではなく、むしろ高リスクそのもの。ボタン一つを押すだけで、国家の準備高が凍結ざれるわけなのだ。

自ら主権を譲る欧州

しかし世の中には制裁を受けていなくても、半分自らの意思で米の属国になっている地域がある。それは欧州(EU)なのだ。昨今でいうと、象徴的な事例はNORD STREAM 2の稼働開始承認の延期だ。長期的に固定された条件で安定して天然ガスを供給できる優秀な調達手段が出来ているのに、市場の自由化だか何かを言い訳にして、NORD STREAM 2を中々承認しないという完全に政治的な判断。これは分かっている人も多いだろうが、米が米産のLNGを欧州に売りつけるための道筋づくりなのだ。簡単にいうと米からの多大な圧力があって、欧州各国(特に独)が一目瞭然の選択肢を選べない。この結果として、EU地域の一般消費者どもが今年(2022年)だけで、エネルギー(電気代、ガス代、ガソリン代等々)に€2,300億も多く支払わないといけなくなると言われている。これはEU域GDPの1.8%に相当する。更に、EU一般市民の貯金が合計で€700億程減少していると言われている。つまり、一般消費者が既に€3,000億程身を削る計算となっている。まだインフレの影響やこれから来る(であろう)食糧難の影響やスタグフレーションの影響等は未知数のままだ。既に独の識者は経済成長率予測を大幅に下方修正している。これまだ、経済危機が始まっていると誰も認めていない今の状況なのだ。どれもこれも欧州に経済を守るための主権が無いから起きていると考えている。

当の米は?

ここまで米が世界中の国、中でも凡人を苦しめている様か書き方だったが、では当の米はどうなんだ?
CNBCが最近実施した調査によると米の成人の81%が経済危機は避けられないと考えているそうだ。現政府の経済政策を評価しないと答えているのも大半。米一般消費者にとって最も痛いのはガソリン代の高騰ではないだろうか。これは米政府も理解しており、先般は戦略石油備蓄から半年間で1億8千万バレルを開放すると発表した。これは、40年前に米がオイルショックを受けてこの備蓄を設けた依頼、最大の解放量となる。しかし、ゴールドマン・サックスに言わせると、こんなものは海の一滴に過ぎない。要は、原油価格が一時的に下がったとしても、依然高いままだし、中期的には戦略石油備蓄量が減った分を補填しないといけないことも忘れてはならない。これを見ているOPECも原油生産量を増やさないと発表している。つまり寧ろ状況が悪くなると想定されている。
そして、インフレ率が劇的に上がっているのは欧州だけではない。先日米でもインフレがここ40年ぶりの高水準に達した。これはもしかして、一時的なものでもなく、外部要因によるものでもなくそもそもドル経済そのものの発想が現実世界で通用しなくなっていることを示しているのではないか。痛ましいかぎりだ。

経済戦争で誰が勝つのか?

前回の投稿の冒頭に触れた露に対する経済戦争は、ソ連邦が国として設立した直後に始まって以来、止まったことは無い。実に、米がソ連に科した初の経済制裁は1917年に遡る。その大義名分は、露(当時は帝国が崩壊しソ連となって、そのソ連)が独と個別平和条約を締結して戦争から出ると判断したことに対する罰則なのだ。当時も、1917年に制裁を科された露(ソ連)が結局1918年に独との個別平和条約を結ぶ。当時から経済制裁は効果の無いものだとわかる人は分かっていた筈だ。しかし、協商国(後に独も加わる)から一切経済関係を断られ、一年間で(1918年vs 1919年)ソ連経済が40倍近くまで縮小する。それから10年たった1929年は経済成長が著しいソ連と関係を持ちたいと手を差し伸べてきたのは制裁を科した諸国の方だった。しかし1930年に再び米がソ連にダンピング抑止制裁を掛ける(ソ連が意図的に輸出品の価格を下げているという発想)。後にこの制裁に仏も加わるが、制裁そのものは長続きせず1年そこそこで収束。その後1933年はもう一発と。一方のソ連は、そんな環境の中、来る第二次世界大戦で独(そのバックに隠れている多くの西側諸国含む)に勝利を収められる程の国力・経済力を持つ国となり、戦後は世界で米にモノを申せる雄一の国となっていた。

今回も、露がソ連同様、独立した経済戦略を持って、ドル経済から脱却出来れば、勝てるのではないかと考えられるが、このドル経済に将来性が無いと認めない側を苦しい未来が待っているのではないかと心配する限り。

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