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【日本人はケチなのに贅沢!?】プライベートブランドの限界

こんにちは。
フォレスト出版編集部の森上です。
 
衣食を中心に、一定の高いクオリティでありながら、低価格で購入できる「プライベートブランド」(SPA)。消費者にとってはとてもありがたい商品ですよね。
 
ただ、近年、プライベートブランドにも限界が来ているという指摘が出てきており、長期的なデメリットとして、「日本が安い国」を牽引した要因の1つともいわれています。そこには、商品を提供するメーカーや小売側の問題点とともに、私たち日本人の消費者心理が根深くかかわっているようです。
 
その実態は、具体的にどのようなものなのか?
 
1月末に発売され、経済関連のニュースを理解するうえでとても役立つと好評の書籍『ニッポン経済の問題を消費者目線で考えてみた』にて、【SPAの限界】について、経済アナリスト馬渕磨理子さんとマーケティングアナリスト渡辺広明さんがそれぞれの立場からわかりやすく解説しています。
 
今回は、同書から【SPAの限界】に関する該当箇所を、このnote限定で全文公開します。

【TOPIC20】SPAの限界

☑SPAとは、企画開発から販売まで一括して自社で行なう製造販売小売業。SPAの商品は「プライベートブランド(PB)」とイコールである。
☑2020年度末の製造業の海外生産比率は23.6%。
 
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SPA(製造販売小売業/ Speciality Store Retailer OfPrivate Label Apparel)とは、自社ブランド商品の企画開発から原材料調達、製造、流通、販売まで一括して自社で行なうビジネスモデルのこと。「A」はアパレル(衣料)の頭文字で、もともと衣料業界から始まったが、現在はほかの業界でも製造販売小売業はSPA と呼ばれる。SPAの商品は「プライベートブランド(PB)」と同じでもある。
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低価格帯の国産品が減っている

渡辺 僕と馬渕さんは毎週日曜6時~「馬渕・渡辺の# ビジトピ」(TOKYO FM)というラジオ番組をやってるじゃないですか。

▼番組HP

馬渕 はい、お世話になっております(笑)。
渡辺 ラジオ番組だけど、収録中の様子を写真に収めることもあるから、そのために新たに服を購入したんですよ。
馬渕 そうだったんですか。
渡辺 せっかくだから、靴もジーパンもシャツもすべて日本製で揃えようとしたんです。そうしたら、日本製を探すのにものすごく苦労したんですよ。1週間くらいかかりました。
馬渕 日本製を探すだけで1週間!?
渡辺 そうなんです。今思えば、1990年代は何も気にしなくても全身日本製でコーディネートできていたんですよね。ところが、今は中国製やベトナムなどの東南アジアやバングラディシュ製ばかりです。たとえば、靴下は1988年には91%が国内生産されていたのが、直近では16%程度になってしまっているんです。

『ニッポン経済の問題を消費者目線で考えてみた』122ページより

というのも、2000年前後からアジアに工場を建てて、安い人件費で製造するようになったからです。本項のテーマである「SPAの限界」は、この海外製造に絡む話です。

国内生産に戻して、ロボット化を

渡辺 自社で製造から販売まですべて行なう小売をSPA(製造販売小売業)と呼びますが、実は製造を担う部分だけは自社工場ではないことが多いんですよ。直接もしくは商社を介すなどして、現地企業に製造委託する「協力工場」が多い。現在、この協力工場の大部分が中国にあります。東南アジアにもありますが、物づくりにおいては、中国依存度は非常に高いです。
たとえば、コンビニなどで売られているビニール傘は、98%が中国製と言われています。中国と国交が断たれたら、日本からビニール傘がなくなるんですよ。
馬渕 ビニール傘がなくなっても困らない、という人はいると思いますが、他の製造業でも中国依存が高いわけですからね。エネルギーや食料の自給率の項目(本書41ページ)でも話しましたが、海外依存が強いと、その分だけ有事のリスクが高まります。
渡辺 そのとおりです。日本の経済が落ちて、中国の経済が伸びているなか、「現地の労働者を低賃金で雇って、原価を安く抑える」というモデルが崩壊しつつあります。SPAの代表的存在であるユニクロの価格も全般的に上がっているし、100均大手のダイソーだって300円や500円の商品が増えているでしょ?
馬渕 少しずつ製造拠点を日本に戻す必要がありますね。でも、国内の労働人口が減っているなかで難しい問題です。

『ニッポン経済の問題を消費者目線で考えてみた』123ページより

渡辺 ロボット化の普及がカギとなるでしょうね。設備投資が大きくなりますが、製造だけでなく流通・販売においても、いかに効率化をはかってコストを抑えるかが重要になってきます。

日本人はケチなのに贅沢!?
結果的に貧しい国へまっしぐら?

渡辺 SPAの見直しを進めるだけでなく、消費者の意識も変わらないといけない。日本人って“ケチなのに贅沢”なんですよ。
馬渕 ケチなのに贅沢、ですか?
渡辺 安さを求めるけど、同時に品質の高さも求める。僕も消費者の一人として、その気持ちはめちゃめちゃわかりますけど。
馬渕 たしかにありますね。その声に応えて、これまで日本企業が頑張り続けて疲弊してしまった感が……。
渡辺 企業努力にも限界があります。僕は「食」もSPA だと思っていますが、2022年8月に崎陽軒がシウマイ弁当のマグロを一時的にサケに変更して話題になったじゃないですか。
馬渕 ありましたね。
渡辺 あれって、海外に“買い負けた”からなんですよ。消費者のニーズに応えて、安くて高品質な食材を購入し続けていたけど、中国あたりが「その食材、うちは日本よりも高く買いますよ」となったら、日本は買えないわけじゃないですか。今後、買い負けるという現象は増えてくると思うし、価格や品質の面で不満に感じる部分も増えてくる。
でも、消費者はただ不満に感じるのではなく、こうした背景も頭に入れておく必要があります。
「低価格・高品質が当たり前」という考え方は、日本経済全体で考えた場合、回りまわって、日本人の給与がいくら頑張っても(品質を向上させても)上がらないという現象につながる危険もあるわけです。一人の消費者としても心得ておきたいものです。

POINT

◎中国依存から抜け出し、製造拠点を国内に戻してロボット化を推進する
必要がある。
◎消費者が低価格・高品質を求めすぎると、企業は疲弊してしまう。結果、
グローバル経済において他国の企業に負ける可能性も。
◎「高品質にはそれなりのコストがかかる」という認識を、消費者として持
っておきたいもの。

※今回ご紹介した『ニッポン経済の問題を消費者目線で考えてみた』の内容やデータは、2022年12月1日現在のものです。
※本文中の(●ページ)という表記は、今回ご紹介した『ニッポン経済の問題を消費者目線で考えてみた』の中で連動したものになっており、そのテーマについて詳しく解説しています。詳しく知りたい方は、同書で直接ご確認ください。

【著者プロフィール】

馬渕磨理子(経済アナリスト)

イラスト:中川画伯

日本金融経済研究所代表理事/経済アナリスト。ハリウッド大学院大学 客員准教授。公共政策修士。京都大学公共政策大学院修士課程を修了。トレーダーとして法人の資産運用を担った後、金融メディアのシニアアナリスト、FUNDINNOで日本初のECFアナリストとして政策提言にかかわる。またIR(インベスター・リレーションズ)について大学と共同研究を行う。現在、経済アナリストとして、フジテレビの夜のニュース番組「FNN Live News α」読売テレビ「ウェークアップ」のレギュラーコメンテーターをはじめ、各メディアでの出演多数。経済アナリストの知見を活かしたセミナーや講演会も好評を博している。ポリシーは「自分の意志で人生の選択ができる世の中を」。誰もが自分の価値観でしなやかに生きることができる社会を目指して活動中。

渡辺広明(マーケティングアナリスト)

イラスト:中川画伯

マーケティングアナリスト。流通ジャーナリスト。1967年静岡県浜松市生まれ。東洋大学卒業後、株式会社ローソンに22年間勤務し、店長・スーパーバイザーを経て、約16年間バイヤーを経験。コンビニバイヤー・メーカー勤務で約770品の商品開発を行なった経験をもとに「FNN Live News α」「ホンマでっか!?TV」(以上、フジテレビ)のコメンテーターとして出演中。その他に、静岡県浜松市の親善大使「やらまいか大使」就任。ニュース番組・ワイドショー・新聞・週刊誌などのコメント、コンサルティング・講演など幅広く活動。2019年3月、(株)やらまいかマーケティングを設立。なお、共著者・馬渕氏とともに、Tokyo fm「馬渕・渡辺の#ビジトピ」のパーソナリティも務めている。

いかがでしたか?
 
『ニッポン経済の問題を消費者目線で考えてみた』では、今回ご紹介した【SPAの限界】をはじめ、私たち消費者が知っておきたい身近な政治経済関連のテーマ、計45本のTOPICを取り上げて、オールカラーの図版データを交えながら、わかりやすく解説しています。
 
2023年のニッポン経済がどうなっていくのか?
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