見出し画像

【賃上げ】賃金はどうしたら上がるの?~正規と非正規の賃金格差問題も交えて考える

こんにちは。
フォレスト出版編集部の森上です。
 
物価は上がっているのに、賃金が上がらない。いつまで辛抱すればいいのか? 多くの人が思っているところでしょう。
 
昨日(1月23日)、経団連と連合の労使トップが会談し、2023年の春季労使交渉が始まりましたね。

 報道によると、労使ともに賃上げに強い意欲を示したようですが、円安や物価高による資材高騰で価格転嫁が思うようにできず利益確保に苦しむ企業やコロナ禍の影響を受け体力が弱っている企業、そもそも利益率が高くない中小零細企業は、どのように賃金の原資を確保していけばいいのでしょうか――。
 
加えて、多様な働き方が進む中、正規と非正規の賃金格差問題も目を向ける必要があります。
 
「賃上げ」1つとっても、ニッポン経済の課題は山積みです。
 
専門家はこのような状況をどのように見て、今後をどう予測し、どのような解決策を見いだしているのでしょうか?
 
本日1月24日発売の新刊『ニッポン経済の問題を消費者目線で考えてみた』では、この【賃上げ問題、正規と非正規の賃金格差】について、経済アナリスト馬渕磨理子さんとマーケティングアナリスト渡辺広明さんがそれぞれの立場からわかりやすく解説しています。
 
今回は、同書から【賃上げ問題、正規と非正規の賃金格差】に関する該当箇所を、このnote限定で全文公開します。

【TOPIC28】正規と非正規の賃金格差問題 非正規に芽生える雇用意識の変化

☑2021年の正規雇用は3555万人、非正規雇用は2064万人。
☑2021年の平均年収は、正社員約323万円、正社員以外約217万円。

厚生労働省によれば、2021 年の平均年収は、正社員が約323万円、正社員以外は約217万円だった。平均年収の対前年増減率は正社員がマイナス0.2%、正社員以外はプラス0.9%で、正社員以外の増加率が上回っている。しかし、依然として年収の差は大きく、賃金格差が課題となっている。

正規と非正規の格差は拡大していく

渡辺 総務省『労働力調査』によると、2021年の従業員数は、正規雇用(正社員・正職員)が3555万人、非正規雇用(正社員・正職員以外)が2064万人。約36%が非正規なんですね。
馬渕 そんなに多いんですか?
渡辺 「非正規」の雇用形態定義に短時間のパート・アルバイトなども含まれているからでしょうね。国税庁の『民間給与実態統計調査』では、「1 年を通じて勤務した正社員以外の給与所得者」は1271万人とのことですので、いわゆる派遣社員などを中心とした実数はこちらが近いと思われます。

『ニッポン経済の問題を消費者目線で考えてみた』p.160より

さて、平均年収は正規が約323万円で、非正規が約217万円。正規を100とした場合の賃金格差は67.0 です。正規と非正規、大企業と中小企業、それぞれ所得の格差は小さいほうがいいけど、物価高もあるし最低賃金の引き上げもあるし、今後はより格差が広がっていきそうです。

『ニッポン経済の問題を消費者目線で考えてみた』p.161より

馬渕 広がるでしょうね。特に上場企業経営者が増えているので、彼らがベンチャー企業などに投資し、そのベンチャーがまた上場する……というサイクルができあがっています。でも、ずっと非正規雇用のままだと、その恩恵に預かることができません。否応なしに格差が広がると思いますが、それでも海外の主要国と比較すると差は小さいんですよね。
渡辺 なんで日本は海外よりも賃金格差が小さいんですか?
馬渕 所得税です。住民税を含めると、最高税率55%となり、主要国と比較してもトップクラスに高いんですよ。しばしば富裕層から「日本は中間層に居心地が良い社会」という愚痴を聞きます。日本の富裕層のなかには、マクラーレンなどの高級車を所有していてもシートで隠してる人が多いんです。
渡辺 嫉妬されるから? 何だか夢がない話ですね。
馬渕 上場したからと言って、高級車に乗っていると株主に叩かれるらしいんですよ。だからシートで隠して、深夜などにこっそり乗る。
渡辺 何でもかんでもSNS に晒されて、生きづらい世の中になっちゃいましたよね。しかも最近は、物価高に賃金値上げが追いついていないから、日本の労働者の大部分を占める中間層の貧困化が進んでいるじゃないですか。より富裕層に対する嫉妬が強まりそうです。
馬渕 だから、中間層や非正規の底上げは必須ですよね。
渡辺 上げていくべきだけど、それですべての企業が値上げできれば苦労しないですよね。国内市場だけでは売上が厳しいから、やっぱり「海外市場で勝負する」という結論になります。

あえて非正規雇用を選ぶ人が増加

渡辺 でも、近年の非正規雇用って、決して正社員になれなくて困っている人たちばかりじゃないんですよ。『労働力調査』によれば、非正規を選んだ理由として「正規の仕事がないから」と回答した人は、2013年の342万人から減り続けて2021年には214万人。一方、「自分の都合の良い時間に働きたいから」と回答した人は、2013 年の431万人から増え続けて2021 年には654 万人です。これは、非常に興味深い結果です。

『ニッポン経済の問題を消費者目線で考えてみた』p.162より

馬渕 働き方の多様化の影響ですよね。
渡辺 コンビニ業界でも「スポットワーカー」という働き方が登場していて、働く店舗や時間をその都度選べるんですよ。でも、すごく仕事のできるバイトが来たらオーナーも抱え込みたいじゃないですか。ところが、彼らは「縛られたくないから」とオーナーの誘いを断る。勤務先やシフトが固定された労働条件を敬遠しているそうです。
馬渕 それでも、やはり正規雇用にこだわる人が一定数いるのも事実です。彼らは「今は非正規だけど、正社員を目指して頑張る」という考え方です。
それというのも「自分の専門性を活かして活躍するのは正社員になってから」という風潮が残っているからです。そうした企業にとって非正規は、コストを抑えるための人材と見なされるので、それが非正規の賃金が低い理由の1つです。
渡辺 でも、働き方次第では、非正規でも稼げるんですよね。むしろ「稼ぎたいから非正規にする」という人もいるわけです。この話題については、176 ページで詳しく解説していきたいと思います。

POINT

◎正規と非正規の賃金格差は拡大する見込みで、中間層の貧困化も進んでいく。
◎「正規雇用の求人がないから」ではなく「自由に時間を使いたいから」という理由で非正規雇用を選ぶ人が増えている。

※今回ご紹介した『ニッポン経済の問題を消費者目線で考えてみた』の内容やデータは、2022年12月1日現在のものです。
※本文中の(●ページ)という表記は、今回ご紹介した『ニッポン経済の問題を消費者目線で考えてみた』の中で連動したものになっており、そのテーマについて詳しく解説しています。詳しく知りたい方は、同書で直接ご確認ください。

【著者プロフィール】

馬渕磨理子(経済アナリスト)

イラスト:中川画伯

日本金融経済研究所代表理事/経済アナリスト。ハリウッド大学院大学 客員准教授。公共政策修士。京都大学公共政策大学院修士課程を修了。トレーダーとして法人の資産運用を担った後、金融メディアのシニアアナリスト、FUNDINNOで日本初のECFアナリストとして政策提言にかかわる。またIR(インベスター・リレーションズ)について大学と共同研究を行う。現在、経済アナリストとして、フジテレビの夜のニュース番組「FNN Live News α」読売テレビ「ウェークアップ」のレギュラーコメンテーターをはじめ、各メディアでの出演多数。経済アナリストの知見を活かしたセミナーや講演会も好評を博している。ポリシーは「自分の意志で人生の選択ができる世の中を」。誰もが自分の価値観でしなやかに生きることができる社会を目指して活動中。

渡辺広明(マーケティングアナリスト)

イラスト:中川画伯

マーケティングアナリスト。流通ジャーナリスト。1967年静岡県浜松市生まれ。東洋大学卒業後、株式会社ローソンに22年間勤務し、店長・スーパーバイザーを経て、約16年間バイヤーを経験。コンビニバイヤー・メーカー勤務で約770品の商品開発を行なった経験をもとに「FNN Live News α」「ホンマでっか!?TV」(以上、フジテレビ)のコメンテーターとして出演中。その他に、静岡県浜松市の親善大使「やらまいか大使」就任。ニュース番組・ワイドショー・新聞・週刊誌などのコメント、コンサルティング・講演など幅広く活動。2019年3月、(株)やらまいかマーケティングを設立。なお、共著者・馬渕氏とともに、Tokyo fm「馬渕・渡辺の#ビジトピ」のパーソナリティも務めている。

 *

 いかがでしたか? 

『ニッポン経済の問題を消費者目線で考えてみた』では、今回ご紹介した【賃上げ問題、正規と非正規の賃金格差】をはじめ、私たち消費者が知っておきたい身近な経済関連のテーマ、計45本のTOPICを取り上げて、オールカラーの図版データを交えながら、わかりやすく解説しています。 

2023年のニッポン経済がどうなっていくのか?
そのためにはどのような生活防衛策をとっていけばいいのか? 

そのヒントとなる毎日の経済ニュースがより深く、リアルに理解できるようになれる1冊です。いよいよ本日発売です。興味がある方は、お近くの書店やネット書店で、チェックしてみてくださいね。

書影をクリックすると、本書の詳細がご覧になれます。

▼同書の「はじめに」「目次」を全文公開中

▼同書の関連記事はこちら

 
 

 



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?