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【ざっくり学び直し】食糧自給率と食品ロス問題が、私たち消費者に与える影響とは?

こんにちは。
フォレスト出版編集部の森上です。
 
近年、食糧自給率や食品ロス問題の関連ニュースが取り上げられることが多くなりました。実際のところ、何が起こっていて、何が問題で、これが私たちにどんな影響を与えるのか?
 
社会人としてぜひ知っておきたいところですよね。
 
1月末に発売された新刊『ニッポン経済の問題を消費者目線で考えてみた』では、【食糧自給率と食品ロス問題】について、経済アナリスト馬渕磨理子さんとマーケティングアナリスト渡辺広明さんがそれぞれの立場からわかりやすく解説しています。
 
今回は、同書から【食糧自給率と食品ロス問題】に関する該当箇所を、このnote限定で全文公開します。

【TOPIC7】食糧自給率と食品ロス問題

☑日本の総合食料自給率は38%(カロリーベース)。
☑日本の食品ロス量は年間522万トンで、国民1人当たり年間約41キログラムの食品を廃棄している。

 
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2021年度の日本の総合食料自給率は生産額ベースで63%、カロリーベースで38%(農林水産省)。先進国のなかでも自給率は低く、食料安全保障が課題となっている。一方、自給率が低いながらも食品ロス量は年間522万トンで、そのうち事業系食品ロスは275万トン(53%)、家庭用食品は247万トン(47%)。事業系食品ロスが問題視されことが多いが、家庭用食品ロスも半分近くを占めている。
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自給率低下は食料安全保障を脅かす

渡辺 エネルギー自給率と同様、食料自給率についても考えなくてはいけません。農林水産省によれば、2021年度の総合食料自給率は生産額ベースで63%、カロリーベースでは38%でした。
日本では単に「(総合)食料自給率」と呼ぶときはカロリーベースの数字を指すことが多いです。海外と比較すると、低いことがわかりますね。

『ニッポン経済の問題を消費者目線で考えてみた』p.42より

馬渕 生産額ベースとカロリーベースの違いは何でしょう?
渡辺 計算式で説明すると次の通りです。
 
・生産額ベース=
 国内生産額÷ 国内消費仕向額×100
・カロリーベース=
 国民1人当たり国産供給熱量÷ 国民1 人当たり供給熱量×100

 
食料全体を「生産額」に換算し、国内生産で賄われている額の割合を算出するのが生産額ベース。一方、国民が消費する食料を「熱量(カロリー)」に換算し、国内生産で賄われている熱量の割合を算出するのがカロリーベースです。
 
なお、この2 種類の算出方法とは別に、米、野菜、肉類などの品目別自給率では
 
「重量ベース(国内生産量÷ 国内消費仕向量)×100」
 
で算出されています。

『ニッポン経済の問題を消費者目線で考えてみた』p.43より

馬渕 海外の総合食料自給率は生産額ベースが主流のようですが?
渡辺 カロリーベースを採用するのは世界的にも珍しいですね。
「自給率38%」と聞くと低いように感じますが、この数字を下げているのは、肉類や卵などの「畜産物」です。畜産物を育てるためには飼料が必要ですが、この飼料の多くは輸入に頼っています。このため、外国産飼料で育てられた畜産物を除いた自給率も算出されています。
たとえば、2021 年度の鶏肉の食料自給率(重量ベース)は66%ですが、外国産飼料で育てられた鶏肉を除くと8%まで下がってしまう。カロリーベースでは外国産飼料で育てられた畜産物を除いて算出しています。畜産物は野菜などに比べてカロリーが高いので、結果的に総合自給率が低くなってしまうんです。
馬渕 そうだったんですね。
渡辺 やや印象操作の感も否めず、カロリーベースの総合食料自給率を問題視する声もあります。とは言え「日本人が1日に摂取するカロリーのうち、国産の食料が占める割合は40%未満」というのは事実です。
馬渕 エネルギー自給率と同じように、海外依存が高いと、有事の際に厳しい状況に追い込まれてしまう。食料安全保障は重要事項ですね。

国産への切り替えで自給率アップ

渡辺 品目別で注目したいのは「小麦」です。農林水産省によれば、現代の日本人の主食は、米が41.1%、パンが18.7%、麺類14.1%だそうです。
馬渕 パンと麺類を合算すると32.8%。主食における小麦の需要は3 分の1 を占めているんですね。
渡辺 そうなんです。ところが、小麦の国内自給率は17%で、グローバルの環境に依存しています。
馬渕 小麦の国際相場が高騰し、日本でも多くの小麦製品が値上げされました。
渡辺 輸入小麦の高騰が続くなか、各所で国産小麦に切り替える動きが始まっています。街のパン屋が国産小麦を積極的に使うようになったほか、熊本県では2022 年9 月から公立小中学校の給食パンが国産小麦100%に切り替えました。また、大手コンビニチェーンのセブンーイレブンも、2022 年秋以降からうどんの一部商品から原料を国産小麦に切り替えることを発表しています。
馬渕 国産の需要が増えているんですね。
渡辺 供給先が確保できれば、農家の安定収入・安定供給も可能です。現在、政府は輸入小麦の高騰を抑える補助と、国産小麦の供給を支援する補助を行なっていますが、いつまでも補助できるわけではありません。
小麦に限らず、消費者が国産消費を意識することで、国産食料の需要が増えて自給率の増加に繋がるのではないでしょうか。

食のブランディングで海外市場を攻める

渡辺 ここまでは「守り」に視点を置いた話が中心でしたが、やはり「攻め」についても語りたいところです。
馬渕 「攻め」と言うと、国産食料の輸出でしょうか。
渡辺 そのとおりです。日本産は品質が高いので、海外でも人気ですからね。
自給率アップは、安全保障の面だけでなく海外に向けたビジネスにおいても重要です。「和牛」や「寿司」の認知はだいぶ広がっていますが、他にも、最近では「焼き芋」がおもしろいことになっています。大手ディスカウントストアのドン・キホーテは国内店舗で焼き芋を販売していますが、実は海外店舗でも扱っていて東南アジアで大人気なんです。
馬渕 東南アジアに焼き芋文化ってあるんですか?
渡辺 あるらしいのですが「日本産の焼き芋は甘さが違う!」と、行列ができているんです。
馬渕 日本でもちょっとした焼き芋ブームが起きていますよね。「安納芋」や「紅はるか」など、以前よりもサツマイモのブランドを耳にする機会が増えました。
渡辺 そうなんです。ブランディングして、国内だけでなく海外にも市場を広げたい。実際、こうした動きは以前から進められていましたが、ここ数年は中国や韓国に品種がパクられまくってヒドイことになっている。「シャインマスカット」の流出は、ニュースでもよく取り上げられていました。
馬渕 農林水産省の推計では、中国に無断流出されたシャインマスカットの損失額は、年間100 億円とのことです。こうした背景を受けて2020 年に種苗法が改正されるなど、国産ブランド食品をどう守っていくかが課題です。

食品ロスの約半分は、家庭系食品ロス!?

渡辺 食料自給率と関連して「食品ロス」にも触れておきましょう。
馬渕 2020 年度の食品ロス量は522 万トンでした。事業系が275万トン、家庭用が247 万トンで、緩やかな減少傾向にあると言えます。

『ニッポン経済の問題を消費者目線で考えてみた』p.44より

渡辺 僕の予想では、事業系の食品ロスは今後もどんどん減っていくと思います。SDGs の観点から、食品に携わるあらゆる業界が工夫を重ねていますから。コンビニ業界でも常温弁当(20℃以下)からチルド弁当(5℃以下)を増やして消費期限を伸ばしたり、冷凍食品の比率を高めたりと、食品ロスに向けた改革が進められています。だから、どちらかと言えば、問題は家庭系の食品ロスだと思うんですよね。

『ニッポン経済の問題を消費者目線で考えてみた』p.45より

馬渕 事業系の食品ロスばかりが槍玉に挙げられることが多いですが、実は家庭系の食品ロスが半分を占めています。これは、意外と知られていない数字ではないでしょうか。
渡辺 そうなんですよね。しかも、家庭系食品ロスに関しては、個人の意識に委ねられる部分が大きいので、事業系のように業界全体で取り組んでロスを減らすという対策が立てにくいんですよね。
馬渕 推移を見ると、家庭系食品ロスも事業系と同じような減り方を見せていますが?
渡辺 各家庭がロスを減らそうと意識した結果も反映されていると思います。でも、イヤな話になってしまいますが、どちらかというと貧困化による節約意識の影響が大きいと思うんですよ。
馬渕 なるほど……。
渡辺 もちろん、ロスが減ること自体は良いことなので、そこまでネガティブに捉えても仕方ないんですけどね。馬渕さんの観点から、食品ロスを減らす方法はありますか?
馬渕 家庭用ならば、行動変容を促すアイデアの提供です。家電メーカーが自社の商品にクラウドサービスやAI を搭載させて、冷蔵庫とスマホアプリを連動させる取り組みが進んでいます。外にいても冷蔵庫に残った食材を確認できるので、無駄な買い物を減らせるほか、残った食材からレシピを提案して「これを買い足しましょう」などと教えてくれる。企業のDXが進んでいるように、家庭に対してもDX 的なアプローチで家計を助けるサービスが増えています。
渡辺 日本人には「もったいない精神」があると言われながらも、その精神とは逆の消費行動をとるケースが目立ちます。
環境省、農林水産省、消費者庁では、すぐに食べるなら手前の商品を選ぶ「てまえどり」の協力をお願いするPOP を大手コンビニ各社などに掲出し、啓蒙する活動を実施しています。
「初心に返る」という表現が適切かはわかりませんが、前向きな気持ちでロス削減に取り組みたいですよね。「家計が苦しいから節約する」よりも「未来のためにロスを減らす」のほうが気持ちいいじゃないですか。
 

POINT

◎食料自給率を上げることは、食料安全保障において重要。
◎国産消費を意識することで国産食料の需要が高まり、自給率アップにつながる。
◎食料自給率を上げれば、海外に国産食料を売り出すチャンスも増える。
◎食品ロス削減に向けた取り組みは、事業系で活性化している。家庭系では個人一人ひとりの意識改革が求められる。

※今回ご紹介した『ニッポン経済の問題を消費者目線で考えてみた』の内容やデータは、2022年12月1日現在のものです。
※本文中の(●ページ)という表記は、今回ご紹介した『ニッポン経済の問題を消費者目線で考えてみた』の中で連動したものになっており、そのテーマについて詳しく解説しています。詳しく知りたい方は、同書で直接ご確認ください。

【著者プロフィール】
馬渕磨理子(経済アナリスト)

イラスト:中川画伯

日本金融経済研究所代表理事/経済アナリスト。ハリウッド大学院大学 客員准教授。公共政策修士。京都大学公共政策大学院修士課程を修了。トレーダーとして法人の資産運用を担った後、金融メディアのシニアアナリスト、FUNDINNOで日本初のECFアナリストとして政策提言にかかわる。またIR(インベスター・リレーションズ)について大学と共同研究を行う。現在、経済アナリストとして、フジテレビの夜のニュース番組「FNN Live News α」読売テレビ「ウェークアップ」のレギュラーコメンテーターをはじめ、各メディアでの出演多数。経済アナリストの知見を活かしたセミナーや講演会も好評を博している。ポリシーは「自分の意志で人生の選択ができる世の中を」。誰もが自分の価値観でしなやかに生きることができる社会を目指して活動中。

渡辺広明(マーケティングアナリスト)

イラスト:中川画伯

マーケティングアナリスト。流通ジャーナリスト。1967年静岡県浜松市生まれ。東洋大学卒業後、株式会社ローソンに22年間勤務し、店長・スーパーバイザーを経て、約16年間バイヤーを経験。コンビニバイヤー・メーカー勤務で約770品の商品開発を行なった経験をもとに「FNN Live News α」「ホンマでっか!?TV」(以上、フジテレビ)のコメンテーターとして出演中。その他に、静岡県浜松市の親善大使「やらまいか大使」就任。ニュース番組・ワイドショー・新聞・週刊誌などのコメント、コンサルティング・講演など幅広く活動。2019年3月、(株)やらまいかマーケティングを設立。なお、共著者・馬渕氏とともに、Tokyo fm「馬渕・渡辺の#ビジトピ」のパーソナリティも務めている。

いかがでしたか?
 
『ニッポン経済の問題を消費者目線で考えてみた』では、今回ご紹介した【食料自給率と食品ロス問題】をはじめ、私たち消費者が知っておきたい身近な政治経済関連のテーマ、計45本のTOPICを取り上げて、オールカラーの図版データを交えながら、わかりやすく解説しています。
 
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