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はじまりの物語 第1稿

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(非公式) なんのはなしですか サイドストーリー。noteの路地裏に迷い込んだら🐍に出会ってしまいまして、蛇のはなしを綴っています。とりあえず勢いでかいたものは一旦ここに保管。つ…
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#なんのはなしですか

はじまりの物語㉓ 神酒

はじまりの物語㉓ 神酒

社に戻るともう道風と実頼が待っていた

昼間は汗ばむぐらいの陽気だが日が落ちると
幾分か涼しい
風にあたりながら食そうか

社は小さいものであったがそれでも通りからは
十分に距離をとってぐるっと木々も植えてあった
その辺は、天上の使徒でもあり地上でも神護院に
属する道風のお手のものだ

色々な意味でしっかり守りが固められ
安心してしゃべることのできる場所であった
そうとはいえ、政に携わる実頼はそう

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はじまりの物語 ㉒決意

はじまりの物語 ㉒決意

蛇にとっては
『呑んで』『出す』
ただ、それだけのこと

あとのきれいな玉を眺めて晴れやかな気持ちになる
ことはあったが一葉のいう『浄化』という行いは
蛇にとっては取るに足りないであった

それにしても一葉の『おもい』から出た玉は綺麗だ
蛇はきらきら光るその透明な玉をうっとり眺めた

一葉はというと、もう2回、合唱して呟いた

ああーーー、すっきりした

そのあとは堰を切ったように語りだした

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はじまりの物語㉑ 旅立ちの前に

はじまりの物語㉑ 旅立ちの前に

夏はすぐそこであった
すべてではないが、早くに着工したものはもう井戸が
できあがっている
こどもに背中を緒ぶった母親、
老親の世話をする中年男、
下の兄妹の面倒を見つつ一緒にはしゃぎぐ子供たち
近くに水場ができて皆が喜び礼をいう

力を合わせて掘ってくれたおかげだよ、
一葉はそう言ってはにかんだ
好かれているのだな、と蛇もうれしくなる
一葉との毎日が新鮮で
かの者を思い出して寂しくなることも少なく

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はじまりの物語 の歩き方(相関図等)

はじまりの物語 の歩き方(相関図等)

創作大賞2024に応募すべく現在執筆中の『はじまりの物語』

筆者のはじまりは、”なんのはなしですか”って”なんのはなしですか?!”という純粋な疑問から始まりました。(これについては無事に創作大賞に応募完了してからしたためようと思います。)
主催者のコニシ木の子さんのイラストをみるとへびがあごにくっついている。
そのへびさんに聞いてみると、『わかんないけど惹きよせられてしまうんだ』と答えます。

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はじまりの物語 ⑳井戸

はじまりの物語 ⑳井戸

冷たい水は気持ちが良かった
一葉も手ぬぐいを濡らしてきれいに身を清めた

社に入り今度は膳の用意をする
朝と夕だけの質素な食事だ

御仏の御蔭いただきます
一葉の声に達吉も一緒に合掌する

少しばかりのあわやひえ、裏で取れた草を混ぜて
かゆにしたものを丁寧に箸をつかって食べた

丁寧な所作である
望めば先程の道風のようにもなれたであろうに
出自のせいか それとも自ら選んだ道か

膳を下げると
一葉

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はじまりの物語 ⑲ 水脈

はじまりの物語 ⑲ 水脈

旅 とはなんだ

”京で少し用事を済ませたら
 東の方へ旅に出たいのだ”

一葉のコトバを反芻する
京の街
そうだ かの者と過ごしたあの裏通り
今はどんな様子なのだ

見に行こう いや見てほしいんだ
一葉は真剣な顔で蛇に向かっていった

その時、道風もあわてた様に声を出した
おおっと もう参内の時間だ
また来る、首尾よく行きそうか また教えてくれ

また窮屈そうに身をかがめて戸口をでると
ジャリジ

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はじまりの物語 ⑱ 神鹿の杖

はじまりの物語 ⑱ 神鹿の杖

龍 りゅう

それがこの姿絵の中の我の名前か

近頃、水辺に訪れた者たちが不思議に
気分が軽くなるという噂が聞こえてきてね

魑魅魍魎の類なら直ちに成敗との沙汰をきいて
あの父から伝えきいた人の『重い』を汲み取る
ヘビに違いない、
そういって同行させてもらったんだ
こうみえて道風はいまや朝廷の神護院のホープだからね

あの夜の君
その身をよじりながらも
隆々と月に向かって立ち昇る姿

これ以上ない

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はじまりの物語⑰ 蛇の名

はじまりの物語⑰ 蛇の名

次の日
ザッザッ ザッザッ
ホウキで掃き清める音がして目を覚ます
社の前は玉砂利を敷き詰めているようだ

小鳥の囀り、虫の声
サラサラと水の音もする
水辺に行こうと戸口に向かう

ちょっと待って
まだ出ちゃだめだ!

一葉は大きくはっきりと制止するように
声を出した
外の男がほうきを持つ手をとめて
お目覚めですか、とひょいとのぞいた

ああ達吉、すまないが桶に水を汲んできておくれ
そういって運ばれ

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はじまりの物語 ⑯ 薬

はじまりの物語 ⑯ 薬

一方、もう一人の祖父は典薬寮で学んだあと
宮中に医術を施しに参内しつつも
相変わらず裏通りの医師(くすし)として
衆生とともに過ごしていた

父は、母との縁があったとき
境内に住まいを設け薬房も任されるようになった
色々な薬草の芳香が入り混じる
一葉は薬房に入るのもその香りを嗅ぐのも
嫌いではなかった
生来の好奇心も手伝って色や形、匂いで
薬の効能やその作り方を理解するのに
そう時間はかからなかっ

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はじまりの物語 ⑮ 出自

はじまりの物語 ⑮ 出自

小さき一葉がのぞき込んで話しかける
ねえ あれを鳴らしてもいい

そばにあった木枠をちらりとみる
膝に座った一葉のちょうど目の高さぐらいだ
木枠の中には皿状の小さな鉦(かね)がかけてある
金属でできており中が空洞になっているようだ
真んなかがさらに円状に隆起しており
金のうち具で叩いてみると
チーンと短く音がなる
あとに響くとわけではないが
高く短い鉦の音はリズムを刻むにちょうどいい

どうやらす

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はじまりの物語⑭ 一葉

はじまりの物語⑭ 一葉



一葉(かずは)という名前だったね

どこにでもいっていい

そういう意味でつけたそうだよ

蛇は驚きを隠せずまたスックと頭をあげた

ああ、勘違いしないでくれよ
いたく僕を可愛がってくれてね
夜は怖くてよく寝所に入れてもらったりしてたんだ

まだ幼き日のこと
雨風が吹きすさび隠れるように
法衣に滑り込んだその時
衣越しにもはっきりと分かる稲光りがして
大きな雷鳴が響いた
夜が明けるまでずっと

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はじまりの物語⑬ 2人の祖父

はじまりの物語⑬ 2人の祖父

しかし宮中にいたとは

宮中にある池には何度か出たことがある
天上から水底を経て地上に出る際

ピーヒョロロロー
と流麗な音色が聞こえてくる
音のする方に引き寄せられ
草陰からちらりと覗き見てみる

神楽にあわせて
幾重にも重ねられた色鮮やかな衣を身に纏い
ひらひらと蝶が舞うごとき
優美に舞い踊る

地上の上の天上とでもいうのか
そこだけ時の感覚が違うような
別空間のように思われた

宮中にいたと

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はじまりの物語⑫ 契り

はじまりの物語⑫ 契り

そういって上帝はふっと脳裏からきえた

そうだ、かの者の血族、
きみとしたいことがあるんだ、と言っていたな
それが上帝のいう役目なのか、
なぜ上帝は知っているのだ

社の中の襖戸に顔を向ける

そのとき、スッとあの青年が入ってきた

ゆっくり休めたみたいだね

僕の名は一葉(かずは)
君のことは聞いているよ
これから僕たちの計画をきいてほしい

といっても、
君とコトバを交わすことができるのは

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はじまりの物語⑩刻

はじまりの物語⑩刻

壺に草で蓋をして隙間から通りを覗きみる

都は争いごとのあとで雑然としていたが
人通りが多く活気に満ちていた

路地に入った辺りから
せんせーい、せんせーーいと
賑やかに声がかかる

純粋な医業だけでなくよろず相談所の
ようであった
文字にも通じており命名までも請け負っていた

人は死ぬと名を残すという

かの者はひとの死期も察するようであった
終には叶うことのない願い

残していくもの
残される

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