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はじまりの物語 ⑲ 水脈


旅 とはなんだ

”京で少し用事を済ませたら
 東の方へ旅に出たいのだ”

一葉のコトバを反芻する
京の街
そうだ かの者と過ごしたあの裏通り
今はどんな様子なのだ

見に行こう いや見てほしいんだ
一葉は真剣な顔で蛇に向かっていった

その時、道風もあわてた様に声を出した
おおっと もう参内の時間だ
また来る、首尾よく行きそうか また教えてくれ

また窮屈そうに身をかがめて戸口をでると
ジャリジャリッ と足早に駆け出す音のあと
馬のいななきとともに去っていった

一葉は先ほどの龍の絵と楷書を大切にしまったあと
木棚より違う巻紙を出して広げた

京で済ませておきたい用事とはこれなんだ

それは実際に歩きながら書いたような地図であった

近年、少雨と日照りにより干ばつがひどくてね
疫病も流行ったのだが薬を飲む水にもことを欠く始末
行き倒れるものも多く
川べりに打ち捨てられ、川の水も不浄となる
以前はきれいな川で皆が喜んで遊んでいたのに
すっかり野辺として忌み嫌われ
衆生は瀕するばかりなのだ
父も祖父も懸命に治療にあたったが疲れと疫病に
かかってしまって同時期にこの世を去ってしまった

なんとかしてきれいな水を整備したい

そんなことになっていたのか、と蛇は驚く
一葉のこの苦労したなりはそのせいであったのか

我がいつも地上で居場所としているところは
木々に覆われて土壌にも水をたっぷり含んでいる
地下水脈にも通じているのだ

一葉の広げた地図を見る限りでは
木々の生い茂った場所は少なそうだ
先ほど達吉が汲んできた水はいったいどこから
そう思ったところに一葉が声をかけた

ちょっと裏にきてごらん

ついていくと社の裏の木々のまた奥に
四角く石が積み重ねてられていた
縁には縄がつけられた木桶がある
中は空洞になっており薄暗そうだ

近づいてみるとヒンヤリと澄んだ空気が漂ってくる
なるほど地下水か 

そこではたと気が付いた
この仕組みを利用して
道風も天上との行き来をしているのだな
蛇は合点がいったという顔をした

ほらっ、と一葉は汲み上げた水を両手ですくって
蛇にかけた
弧を描くようにキラキラと水が空を舞う
痩せてはいるがニコッと笑うと二十歳の若者らしく
笑顔がまぶしい

水は恵みだ

地上と天上を行き来する人間から見たら
特別な存在であるヘビも
水がなければ生きてはいけない
それは人であっても蛇であっても同じこと

雨を降らすなんてことは蛇であっても
ましてや天上の上帝であってもできぬこと
木々があって大地があって
その均衡が崩れたときに気象が乱れる

君に会えて良かったというのは
なにもあのコトバによる浄化だけではないよ
伝え聞いた君とこうして過ごしてみるのが夢だった

それとこれはお願いだ
京に、衆生が暮らす場所になるべくたくさんの
井戸を作りたい
自然の均衡が崩れない程度で
地下水脈のある場所を教えてくれないかい

蛇はすこし間をおいた
地表に接していれば水脈は感じることができる
だが砂利道を腹をつけて進むとなると
あっという間に涸びてしまうだろう

さきほどの道風の口の端をあげた笑みの意味が分かった
それも上帝の意思ということか

いいだろう
しかし、まずは神鹿の杖に入る練習をしなくては

その前にもう少し水浴びをしてからな

蛇はそう一葉に向かって投げかけた



~設定裏話~ 
草案だけの特別コーナー
 ♪パフパフパフー ♪

上帝の使徒である小野道風(おののみちかぜ)は
小野妹子の子孫です
祖父の小野篁(おののたかむら)は
夜は井戸を通って冥界にいき閻魔大王もとで
裁判官をしていたという逸話があります
体格もよく和歌・漢詩・絵画の芸術の才があり
文官としても優れていたとのことです

小野篁公と菅原道真公をおまつりするこちらのnoteフォローしてます
毎月の御朱印待ち受け可愛いですよ♡


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