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 その彼岸花も母の声を聞いて眠りついているはずだ。
 こんな怪しい夕暮れ時には、表面上での神隠しが必ず起こっているからね。
 僕の瞳の奥には真っ赤な蝶が蠢き、喚き、堕ちていてコケテッシュな少女が僕を誘い、死の微笑で出迎えている。

 僕はこんなときにサーカス小屋の隅にいる道化師のような馬鹿な真似をしたくはないのだ。
 ゆっくりと赤い下着を脱ぎ、未熟さに酔いつつも可憐な白い皮膚を照らしている少女。
 この毒々しさと初々しさに混ざり合う究極の美しさは、どうやって表すことができるのだろう。

 僕には全くもって分からず屋だ。

 だが、どうしようもなくこの甘美に浸りたくなる……。
 純粋な乙女の面影と奸智を秘めた遊女の面影の双方がこの少女にはあるのだ。

 秘かに赤い唇を僕の唇に売って。

 唇が濡れると僕はふと、甘美の海から脱却して遠くの森をちらりと見てしまう。
 ……僕は喪われた思い出を取り返してと狂乱するひとり、残された哀れな少女、のようにその暗い森を見つめる。
 その森をただじっと夜の笑みが高らかに笑うまで見てしまう。
 夕暮れ時にありがちな森の茂みから、幼い狐の子が帰っているところを見ると、心が荒むのはなぜだろう。

夜もすがら、 少年独り彼岸花 | 物語詳細 - monogatary.com

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17歳のときの作品です。
背伸びした少女の作品なので、大人になった私が読むと若いなあ、と思います。
横溝正史や三島由紀夫の短編を意識して書きましたが、今の10代はどんな小説を書くんでしょうか?

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