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茜色のグラデーション⑤

第十一話

(ヒロ)

外に吹く風が葉のない木々の間をスルスルと通り抜ける。
窓から見るこの景色は何度目だっただろうか。

カランという音で思考から離れる。
扉が開き、見慣れない高校生数人が来店した。

あ、あの子と同じ制服だ。

そんなことふと思い、彼女の方に目を向けると、どこか気まずそうな顔をしていた。タクトが彼女の側に案内しようとしていたので、咄嗟に止め、彼女の姿がちょうど見えない席に変えてもらう。

どうしたんだとタクトが訊いてきたので、取り敢えず適当な理由をつけて返しておく。そうなんだと言いながら奴は少しニヤつきながら納得していた。

少し心配で様子を見ると、彼女は課題をカバンにしまい始めていた。帰ろうとしているのだろうか。扉の音が鳴ってあの高校生たちが目を向けるかもしれないのに、いいのか?

声をかけたいし、教えてあげたい。でも声をかけるって、踏み込むことになってしまわないか。心が葛藤を続ける間に彼女は今にも席を離れようとしていた。


「行きな」


タクトが俺の横を通り過ぎたその一瞬に囁く。
その言葉に後押しされ、俺は足を踏み出した。

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