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夜明けは天使とうららかに

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『夜明けは天使とうららかに』  精神面に不調を抱える母と仕事をしながら母のケアをする父を両親に持つ菖太。彼は学校に居づらさを感じつつも、それを打ち明けることが出来ずにいた。 … もっと読む
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夜明けは天使とうららかに 1-1

夜明けは天使とうららかに 1-1

夜明けは天使とうららかにあいいろのうさぎ

「ただいま」

 玄関のドアを開けると、少し間を置いてお母さんがリビングから出てきた。

「おかえりなさい」

 と穏やかに微笑みながら言ってくれる。僕はそれを見て『良かった、今日は元気なんだ』と安心した。

「確か今日はお誕生日会をやったのよね。楽しかった?」

 僕のクラスでは毎月、誕生月の子たちのお祝いをする。僕は二月が誕生日だから、クラスメイト全

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夜明けは天使とうららかに あとがき

夜明けは天使とうららかに あとがき

 目を通してくださってありがとうございます。あいいろのうさぎと申します。以後お見知りおきを。

 「夜明けは天使とうららかに」という今作は、長いお話を書いてみたいな、という欲求から誕生しました。ところが長い話は書きたいもののアイディアが浮かばない。仕方がないので、過去に私が個人的に書いた掌編の中から長編化できそうなものをいくつか取り上げ、その中からこの天使のお話を選びました。

 初めは本当に天使

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夜明けは天使とうららかに 3-4

夜明けは天使とうららかに 3-4

エピローグ菖太さんへ

 ……なんて、書き出してみたのですが、実際この手紙が菖太さんに届くことはありません。じゃあなぜこんなことをしているかというと、ただの私の自己満足です。本来もうどこにも存在できないはずの私がこうして手紙を書けることを嬉しく思います。

 この手紙は届かないから、菖太さんに私の正体はいつまでも気づかれないままなのですが──もしかすると大人になってから近いところまで気づくかもしれ

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夜明けは天使とうららかに 3-3

夜明けは天使とうららかに 3-3

〇 〇 〇

 学校に行くと、隆聖の方が先に教室にいた。

 目が合って、お互い固まってしまう。こういう時ってどうすれば良いんだろう。

「菖太さん、落ち着いてください。『おはよう』って声をかければいいんですよ」

 リセが耳打ちしてくれて、僕は隆聖の方に向かって歩き出す。何だか変に緊張して右手と右足が一緒に出てしまった気がする。

「お、おはよう!」

 僕が言うと、隆聖も『あぁ、そうだ』みたい

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夜明けは天使とうららかに 3-2

夜明けは天使とうららかに 3-2

〇 〇 〇

 始業式が終わった後に隆聖君に声をかける(というか、声をかけようとしたのを察してもらう)と、隆聖君は学校近くの公園に僕を連れてきてくれた。

「いきなり声かけてごめんな。でも話そうとしてくれてありがとう」

 ベンチに座った途端お礼を言ってくれたので、僕は慌ててしまって「だ、大丈夫だよ!」と返答になっているのかイマイチ分からないことを言ってしまった。

「じゃあ、別室登校ってどんな感

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夜明けは天使とうららかに 3-1

夜明けは天使とうららかに 3-1

第三章 春休みが終わって、最初の登校日になった。今日は始業式があるくらいで、午前中で帰れる。

 僕は通学路をリセと二人で歩いていた。

 学校に行く時はいつもそうだけど、通学中にリセと話せないのは少し不便だった。話しながら学校に行ければ少しは気が紛れるんだけど。

 けれど、リセが隣にいてくれることで、僕が抱える緊張が何パーセントか減っているのも確かだった。

 学校に辿り着いて、僕は自分のクラ

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夜明けは天使とうららかに 2-4

夜明けは天使とうららかに 2-4

〇 〇 〇

 あれからも別室登校は続いた。続いた、と言っても、あの日はもう二月の最後の週で、もう学校に行く日自体がそんなになかった。

 それくらいの短い期間なら教室に戻れるんじゃないかって考えてみたこともあったけど、やっぱり江藤君やクラスメイトのことが怖かったから、行くのはやめておいた。あんな風に意見できたのは、あの時の感情のおかげで、今の自分が同じように意見できるとは思わなかったから。

 

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夜明けは天使とうららかに 2-3

夜明けは天使とうららかに 2-3

〇 〇 〇

 翌日、担任の先生に会えたのは昼休みのことだった。僕は先生が会ってすぐに江藤君の話をするんじゃないかと思ってた。だけど、挨拶をしたら、そんなことは無かったみたいに僕の体調とか、昨日帰った後何をしたかを聞いてきたから、少しビックリした。そして、江藤君のことを自分から切り出さないといけないんだ、と気づいて心の中が嫌な跳ね方をした。

 昨日覚悟を決めたのに、僕の口は固められてしまったみた

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夜明けは天使とうららかに 2-2

夜明けは天使とうららかに 2-2

〇 〇 〇

「ただいま」

 玄関のドアを開けると、少し間を置いてお母さんがリビングから出てきた。

「おかえりなさい」

 と心配を隠し切れない表情で言って、

「今日はどうだった?」

 と聞いた。

 僕は、どう言おうか少し悩んだ。別室登校自体は、大丈夫だったどころかリセのおかげで楽しかったとさえ言えるけれど、一番最後に起こったことは、まだ僕の頭を悩ませている。

「別室登校は、大丈夫だっ

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夜明けは天使とうららかに 2-1

夜明けは天使とうららかに 2-1

第二章 学校を休んでいる間に、別室登校をしよう、ということに決まった。僕にとって新しい環境に行く方が怖かったのが理由だ。お父さんは僕でも行けそうなところを探してくれたけど、友達を作れたことがない僕にとって、新しい場所に行くのはネガティブなイメージの方が強い。クラスメイトと会うことさえなければ学校に行くのはそんなに苦しくない、と思うから、別室登校を選んでみた。合わないようだったらまた別のやり方を考え

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夜明けは天使とうららかに 1-4

夜明けは天使とうららかに 1-4

〇 〇 〇

 それから、お父さんとよく話して、とりあえず今日は学校に行くことにした。またあんなことがあったら、と思うととても怖かったけれど、その時は早退でもなんでもしていい、と約束した。

 それから、天使もついてきた。

 天使──リセの話によると、彼女の姿は僕以外に見えないらしい。実際、玄関を出る時お母さんが見送ってくれたけど、隣にいる金髪の美少女には視線も向けなかった。

 リセが一緒に学

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夜明けは天使とうららかに 1-2

夜明けは天使とうららかに 1-2

〇 〇 〇

 何かが背中に当たった。

 三時間目の社会で、先生に急用ができたからと自習になった時だった。

 僕は思わず後ろを振り向いたけど、みんな配られたプリントを解いている様子だった。気のせいかな、と思って僕もプリントに向かうと、二問ほど解き進めたところでまた背中に何かが当たった。今度は笑い声を押し殺しているのが後ろから聞こえた。

 冷えた感覚が全身をザッと駆け巡った。

 プリントに書

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夜明けは天使とうららかに 1-3

夜明けは天使とうららかに 1-3

〇 〇 〇

「菖太さん、おはようございます。朝ですよ」

 朝の柔らかな陽光が差し込む中、聴きなれない優しい声が耳元に響いた。まだ寝ぼけている僕はぼんやり声のする方を向いて、その姿を目にして、飛び起きた。

 驚きすぎて声も出ない。知らない人がそこにいる。それも外国人だ。ツインテールにした金髪が陽の光に当たってキラキラ輝いていて、僕を見つめる瞳は青い。身に纏ったワンピースは眩しいほど白くて、光っ

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