見出し画像

■大河ドラマ『光る君へ』第20話「望みの先に」感想―コントの先に推しがいた

えりたです。

大河ドラマ『光る君へ』第20話まで来ました。日本史上最大の推しさまである藤原道隆さまが天へご出立になってからもう3週も経つのですね(涙)かなしい…

と、ワタクシったら、いつまでも悲しみに暮れていますが。そんないたいけな?ワタクシをさらに奈落の底へ落してくれる「長徳の変」がどしどし進む第20話。もうメンタルが、メンタルがぁ……(´;ω;`)ウッ…

そんなこんなで、悲しみの予兆に打ち震える前回、第19話の感想がこちらです。

ではでは、第20話の感想に行ってみましょお。


■今日の中関白家

■伊周さま―心幼くおはする人

ちょうど大河ドラマ『光る君へ』のあたりの時代をがっつり語る歴史物語に『大鏡』があります。190歳という超高齢のおじいちゃんが昔語りをするお話です。

もちろん、伊周さまもこの『大鏡』に出て来ます。が、『大鏡』は基本的に「道長どんの栄華すげぇ…」を全力で語るものです。そのため、道長どんのライバルとなる伊周さまについては、結構ひどい書きようではあります(笑)

たとえば、道長どんが、許されて大宰府から帰ってきた伊周さまと、明け方まで夢中になって双六をする場面。

このとき、周囲の人々は伊周さまについて「心幼くおはする人にて、便なきこともこそ出でくれ」、つまり「伊周さまはお心が幼稚でいらっしゃるので、なにか具合の悪いことが起こると大変だ」と評し、実は道長どんを止めようとしたのです。

そうして、今回の伊周さまは本当に全身全霊で「心幼くおはする人」でした。

というか、みなさま御覧になりましたか? あのいろいろな濡れ衣が全力で襲いかかってきていると知ったときのうつろな表情! あまりにも艶気がだだ漏れ過ぎていて、思わず「やべぇ…」と語彙力皆無なつぶやきをしていた中関白家推しがここに居ます(*・ω・)/ハーイ

やはり道隆さまのお血筋がここに……とまぁ、それはともかく(滝汗)

伊周さまは、あのときにようやく、自分の立場は自分の実力で得たものではなく、父が守っていてくれたからこそのものであったと、気持ちの奥底に叩き込まれたことでしょう。また、それゆえにプライドもずたずたにされたのではないかと。

それでも、恥も外聞も捨て、頼みに行っちゃうところが伊周さまの「心幼くおはする」ところなのだろうと思うのです。

過酷なことをしないでくれと、恥を忍んで道長どんのところへ頼みにいったあのとき。おそらく、あれが伊周さまの本音というか、本質だったように思います。

弱くて、見栄っ張りで。

しかも、このときの伊周さまは幼い頃に遊んでくれた「三郎」なら(父と同じように)自分を助けてくれるだろうと…超甘い考えていたのではないでしょうか。

第1話の感想で(主に私が)沸き散らかしてますが、三郎と小千代君(伊周さま)が一緒に遊んでいる場面が実際に描かれています。まさか、ここでの伏線が第1話にすでにあった…だと??(驚)

また、検非違使たちに踏み込まれるところまで往生際悪くうだうだしていた伊周さまも、やはり「心幼くおはする人」だからこそ。

おそらく、あれは一条天皇の寵姫である中宮定子さまのそばにいれば、それほどひどいことは起こらないだろうという打算もあったのでしょう。しかし、そこは検非違使別当-曲がったことは大嫌い-藤原実資さま。容赦はありません。

実は、あれ、史実でもかなり容赦なく(ほぼ壊す勢いで)家のなかを調べられます。あの頃の上級貴族の女性の在り方を考えたとき、それらの事態がどれほど定子さまのお気持ちや体面を傷つけたか

追い詰められた中関白家の人たちは、誰もそのことに気づくことはなかったように思います。伊周さまはじめ、母である貴子さまさえも。もしかすると、定子さまのいちばんの悲劇はそこにあったのかも知れません。

■それに対していい笑顔の隆家どん

ぐだぐだと往生際悪くあがきまくる兄の伊周さまに対して、隆家どんは超いい笑顔で「グッドラック👍」と潔く旅立ちます。

おそらく、あのいい笑顔に日本中が「気持ちのいいナイスガイだねぇ、隆家どん」というほっこりした気持ちと共に、「いや、待て。あんたの所為やん!」と全力で突っ込む気持ちにくらくらしたことでしょう。

…あの「てへぺろ」な射掛けさえなければ、こんなことには。いや、マジで。

事態は深刻ですが、あの末っ子満載ないい笑顔と、男らしい腹の括り方がこの後の隆家どんを助けます。

彼は、失意のまま亡くなる兄とは異なり、実資さまに気に入られ、また、道長どんも彼の胆力を買い、帰京してからわりとちゃんと昇進するのです。

そうして、1019年には刀伊の入寇という前代未聞の事件(海外からの襲撃事件です)にきっちり対処し、歴史に名を残すことに。

このあたりのちゃっかりさ加減は、隆家どん自身の性格と共に末っ子ちゃん特有のものでもあるよなぁと微笑ましく思ったりする、典型的に長女な性格をしているワタクシでありました(笑)

■そうして彼女は世を捨てる

さて、第20話のラストはほんとうに衝撃的でした。中宮定子さまがすべてに絶望し、自ら髪を下ろしてしまったのです。

あの場面、定子さまが刃物を髪にあてたとき、一瞬、刃を頸動脈に当てたようにも見えて……「え、待って」と声が出てしまいました…(号泣)あれはおそらくそういう意味であることを知らしめるモノであったと思うのです。

定子さまにとって、あの場面は自ら世を去ることに他ならないものであったのだと。

史実では、このときの定子さまは第1子を妊娠中でした。

そうなんです、実は史実にいる定子さまのほうがもっと過酷なのです。中関白家皆が待望していた第1子がお腹にいるのに、兄貴たちはロクなことをせず、しかも、そのために高貴な身分とは思えないような仕打ちを受ける羽目に陥る。そりゃ絶望もするというもの。

『光る君へ』で描く長徳の変では、定子さまの懐妊のお話は含まないようです。でも、以前のお話でもおっしゃっていたように、定子さまにとっては、家も大事だし帝も大事だった。にもかかわらず、父亡きあとの定子さまは、家を守ることもできず、帝とはお別れするしかなくて。

もっと言えば、兄たちは家を守るために自分を利用することしか考えず、帝も自分を守ってはくれなかった。そう、定子さまを守ってくれる人はもうこの世のどこにもいなかったのです。

定子さまは賢い御方です。父道隆さまの病没前後から、そのことはうすうす感じていたことでしょう。でも、今回の事態はそれを紛うことなき事実として、完膚なきまで容赦なく、定子さまに突きつけた。

髪を下ろすということは、出家を意味します。つまり、仏門に入るということです。これに対して、帝や中宮は朝廷内において「神事」を行うことを役目としています。

つまり、仏門に入り、「仏」に仕える身となってしまっては、「神」にお仕えすることはできず、神事も行えないということを意味するのです。

だからこそ、今回の落飾が今後定子さまにさらなる悲劇をもたらします。また、今回ほんのり描写された一条天皇の定子さまへの執着とも言える愛着もまた……

■コントの先に推しがいた

そんなふうに、推しの出家するさまを―推しが自ら世を、命を捨て去るさまを目の前で見てしまった清少納言姉さま。このことが彼女を突き動かします。

定子さまのお心を少しでも慰め、救い、魂をこの世に留めておくために彼女は『枕草子』を書き始める。泣きながら、それでも「この世はこんなにもすばらしい。あなたはほんとうにすてき女性なのだ」と伝え続けるのです。

「春ってあけぼのよ!」

あんなに明るく始まる『枕草子』は、裏側にこんなにも切実な祈りとかなしみが織り込まれているからこそ、1000年の時を超えて私たちを揺り動かすのかもしれません。

■うるわし男子列伝

■公任さまぁ!…(´;ω;`)ウッ…

第20話の公任さまは、参議として陣定に出ておられました♡ セリフはなけれど、うるわしいお姿を拝見するだけで心が救われます。…特に、メンタルをやられるお話が続く中関白家推しには(号泣)

ほんとに、毎回陣定を行なうことをせつにお願いしたい(土下座)

■一条天皇―引き裂かれた先に

第20話では、寵姫である定子さまに里下がりを命じたものの、恋しくてその姿を求めてさまよう一条天皇がとても、とてもせつなかったです。

そこへ、道長どんの手引きでやってきた定子さま。

「お上が恋しくて来てしまいました」

きっとそんな定子さまの姿を見たとき、一条天皇はめちゃくちゃうれしかったことでしょう。また、自分のたましいのよりどころが変わらずに居てくれたことを心から喜ばれたことでしょう。

でも、そのあと定子さまが帝に告げた言葉は、いちばん聞きたくないものだった。そして、その姿はいちばん見たくないものだった。

だって、それは最上で最高の権力に縋りつこうとする有象無象と変わらない姿だったのですもの。

賢帝であろうとする自分をいちばん理解してくれていると信じた人が、自分の権力に縋りつこうとする姿。帝自身、冷静になってみれば、中関白家の人たちを救いたかったでしょうし、何より大切な定子さまを手元に戻したかったことでしょう。

でも、自分は「帝」だから。

この世で唯一無二の「帝」だから。私情に流されるわけにはいかない。だからこそ、彼らを、たいせつな后を見捨てるしかなかった。

「お健やかに」

そう言ってほほ笑む定子さまを見送った一条天皇。ご自分の身分が「帝」でさえなければ、きっと彼は彼女を引き留めて、抱き締めて、放さなかったことでしょう。でも、自分は帝であり。彼女は罪人の家の娘でしかなかった。

そんなふうに、引き裂かれるしかない未来に絶望したのは定子さまだけではなかったのでした。

■まとめにかえて

というわけで。いつも思うのですが、『光る君へ』のサブタイトルって秀逸ですよね。

今回の「望みの先に」にしても。もちろん、まひろっちや為時どんの「望みの先」が中心なのですが。中関白家の人たちの「望みの先」も描かれましたし、一条天皇の「望みの先」もあったわけで。しかも、どちらもきっぱり断たれているあたり、容赦がない(泣)

そう考えると、すさまじく多くの意味を含む言葉を超分かりやすく、タイトルとして選んでいるのだなぁと感嘆してしまいます。

・ ・ ・

さて、第21話では越前守を奪取したまひろっち(違)がいよいよ旅立ち、越前編が始まります。そうなると、中関白家というか、定子さまや一条天皇はどうなりますやら(号泣)

そんなこんなで、第21話もご一緒に楽しめたらうれしいです。


■関連記事

■『大鏡』への愛を語る-1000年の時を繋いで私の心を照らす-

伊周さまのご気性を知ったり、隆家さまのこれからを知るにはもってこいの本です。しかも、古典なのに読みやすい。

■大河ドラマ『光る君へ』第1話「約束の月」感想―中関白家と円融天皇と

まさか第20話の伏線が第1話にあるとは思わず……それとは気づかず、沸き散らかすワタクシ、プライスレス……

■「春はあけぼの…」好きなものは好きと胸を張って言っちゃおう―『枕草子』のこと

第21話から書き始められる『枕草子』。今回のお話を踏まえて読み返すと、また違った感慨が生まれます。


■おすすめマガジン

■大河ドラマ『光る君へ』関連マガジン

大河ドラマ『光る君へ』に関連する記事をすべて収めてある無料マガジンです。毎話の感想や、深掘りするための参考本の紹介などもこちらにあります。

■大河ドラマ『光る君へ』を100倍楽しく見るために

2024年の大河ドラマ『光る君へ』をより楽しく深く見られるヒント満載のマガジンです。

■えりたマガジン

有料記事が全部入ったお得なマガジンです。これからも週に複数本更新していきます。

んじゃ、また。


この記事が参加している募集

#日本史がすき

7,202件

#ドラマ感想文

1,513件

記事をお読みいただき、ありがとうございます。いただいたサポートはがっつり書籍代です!これからもたくさん読みたいです!よろしくお願いいたします!