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■大河ドラマ『光る君へ』第19話「放たれた矢」感想―「来ちゃった♡」と宣う白馬な王子と風雅に生きるイケメン

さて、第19話です。

ちょうどこの日は外出しており、リアタイできずでした。さらに今週は仕事でばたばたしていたこともあり、ようやく今日(第20話放送前日)視聴し、見ながら「もう道隆さまはいらっしゃらないのだなぁ」とじわじわしたりもして。

考えてみれば、道隆さまがご出立になってから、もう2週間が経つのですね。そんなこんなで第19話です。

ラスト1分で長徳の変が始まり、中関白家推しのワタクシの心は奈落へ向かってそろりそろり。「隆家さま、誰がどう見ても高貴な身分の方の牛車なのに、なぜ『てへぺろ』感覚でやっちゃった…」とも思いつつ。今週の感想へ行ってみましょう。

その前に。ものっそいたくさんの方に読んでいただいた第18話の感想はコチラです。未読の方も既読の方も、ぜひどうぞ。

ではでは、れっつごー。


■今日の中関白家

■「なれないこと」と「ならないこと」

兎にも角にも、第19話全編を通して、伊周さまが全力で陰キャを領域展開していることに驚いております。

「ぼくは関白になれなかったから(´・ω・`)」

この一言で、現在置かれている自分の不条理な状況を全部説明しようとしているというか。「いや、だからじゃね?」というツッコミをものともせず、「父の官職であった関白を継げなかった俺、かわいそぉ」な空気を振り撒いています。

このあたり、ほんとうに道隆さまを縮小コピーした雰囲気のメンタリティを感じますが。

伊周さまにとって、政治って「成果を出すもの」ではないんですよね。だからこそ、「関白」の地位を得るために何らかの努力をしたり、行動をしたりということは考えもつかないわけです。

いやもう、おかげさまで、先週の定子さまの苦言、「人望を得られませ。次の関白に選ばれるべく、精進していただきたく思います」は一切合財届かず。

おそらく伊周さまにとって「関白」とは「(前関白の息子である)自分に対して、あたりまえに贈られるはずの称号」であって、それ以上のものではないのですよね。

そう、「関白」という称号は政治家にとって、自分が理想とする政を行なうための「スタート」であるはずなのに、伊周さまにとっては「関白」が「ゴール」であるわけです。

しかも、伊周さまったら政をする気がないというか、政の意味を取り違えているというか……最も正しい意味で「残念なイケメン」がここに爆誕していらっしゃるわけです。

これは、ある意味で兼家さまが道隆さまにかけた「我が家の存続を第一に考えよ、それが政治だ」という呪いをぎゅぎゅっと煮詰めた形で、伊周さまがモロにひっかぶったとも言えるわけで。

そう考えると、フツーの状況であったならば、「家の存続」などほぼ考えないでよい末っ子な道長どんとは、とことんまで対照的なわけです。

それにしても。伊周さまから見て、道長どんはほんっとうに目の上のたんこぶというか、「うっざ」と感じざるを得ない対象でしょうね…。

だって。

自分は「なれなかった」関白に、自ら「ならない」と帝に言っちゃっているわけで。それだけでもイラっとするのに、陣定などを見ていると、(伊周さまには皆無な)人望も道長どんには何とはなしにあるようだし。

また、関白であれば陣定など出なくてOKで、帝と同じ位置で高みの見物、からの、自分の権力をほしいままに使い倒して、貴族どものたわごとをひっくり返すなんて、痛快なこともできるはずなのに、久しぶりに述べてみた自分の意見は超少数派で。誰も自分に同調してくれない(宴までやったのに)。

そりゃ出仕拒否もしたくなるというもの。このあたり、先週に引き続いて「弟妹が生まれたお兄ちゃんの赤ちゃん返り」みを感じざるを得ないわけですが。

兎にも角にも、道隆さまがあれほど「家族に酷なことをしないでくれ」と懇願したのもうなずけるほどの、残念な嫡男っぷりを遺憾なく発揮している伊周さまなのでした。

ちなみな話。

第19話では、何度か「道隆さま」が引き合いに出されておりますが。「兼家パパりん―道隆さまライン」の政治を最も色濃く受け継いでいるのが、あれほど彼らを忌み嫌った詮子さまであるあたり、何かの無常を感じてしまいますよねぇ(遠い目)。

■隆家さまは存外陽キャで

そんな伊周さまを横目に、全力で陽キャな育ちをしているのが末っ子次男な隆家さまです。

隆家さまは底抜けに明るい。「ど~んっと行っちゃえ、とにかくGOGO!」という体育会系な雰囲気は、貴子さまが嫡男は溺愛、長女はお后教育、次男は自由奔放な子育てをされたからでしょうか…??

思慮はちょっと足りてない感じもありますが、この「とりあえず動いとけ!」な隆家さまのオトコマエ精神はここから約25年後くらいに日本を救います(いや、まじで)。

駄菓子菓子。今回ばかりはそれがちょっと? おかしな方向へ行ってしまったようで…(号泣)

上にも書きましたが、なぜ「てへぺろ」感覚で矢を射かけてしまったのか。現代の私たちから見ても高級でしかないあの牛車を見たら、これは「敵にまわしたらあかん」と分かるだろうに…。

あるいは。

それこそが中関白家男子のおごりだったのかもしれませんし、もっと言えば、そういった機微に聡くなるよう導いてくれる、何かあってももみ消してくれる絶対的権力を持つ父はもういないことの証左だったのかもしれません。

というわけで。

■来週はとうとう長徳の変です

長徳の変に関して、伊周さまと隆家さまは正直自業自得でしかありません。が、それにもれなく巻き込まれた定子さまがお気の毒すぎて(号泣)

予告編では、兄と弟の減刑を帝に願う定子さまがいらっしゃいました。ですが、それは聞き入れられず。そのあたり、情だけで動いて伊周さまを関白に為すことはしなかった一条天皇の英明さが下敷きになっていますよね。

蝶よ花よと育てられた定子さま。ここから歩まれるのは、花咲く小道ではなく、真の意味でイバラの道です。兄や弟は思慮が足りず、夫である一条天皇は愛が深すぎ…定子さまは正気を保っているのがお気の毒と思えるほどのレベルで、引き裂かれていきます。

しかも、ここであれほど望まれた妊娠をしてしまう…こう書いているだけでも泣いてしまいそうです。

そう考えると、第20話も忘れられないお話になりそうです。

■うるわし男子列伝

というわけで、今週も行きますよぉ♬(開き直り)

■天下無双な公任さま

さて、今週の公任さまです(定例コーナー…?)

第19話でも、公任さまは参議として陣定に出席され、つつがなくご意見を述べていらっしゃいました。下の身分から発言していくシステムですから、公任さまはわりと下の方に位置していらっしゃることが目の当たりにできます。

それでも、あの「次の除目は、俺のことは忘れておれ」はめちゃくちゃイケメンな発言で…感涙な勢いで感服つかまつりました。お顔だけでなく、お気持ちの在り様もイケメンとはほぼ無敵=天下無双なのでは…??

ここ何話かで、伊周さまが嫡流の道を現在進行形で奪われ、それに抗おうとダダをこねておいでですが。考えてみれば、公任さまも初めの方でがっつりと「嫡流の道を奪われる」嫡男なんですよね。

そうして、公任さまもなんとかその流れに抗おうと、道兼どんに近づいたり、画策しようとしたりしていた。

でも、そんなふうに一通り抗ったところで、公任さまの前にぱっとひらけたのは「風雅の道」だったのだなぁと。

前回でしたか、公任さまは人や情勢をめちゃくちゃ見ていると書きました。今回のお話でそれが超生きた形になります。

「道長どんの陣定の捌きは見事で、おれはああはなれない」

道長どんの様子を見、そこに向かう貴族たちの様子を見、そこから自分を存分に生かす道を見つけたのです。それはとても…すばらしいなと思いますし、それを語る公任さまのすっきりしたご表情がとてもすてきでした。

それでも「行成を使え」と道長どんに提言するあたり、一筋縄ではいかず、参謀役として面白い位置にいるあたり、公任さまもきっちり上級貴族なのだなぁと思ったり。

えぇもう、大人になった公任さまもとてもすてきで、ドキが超むねむねしたのでした♡

■「来ちゃった♡」じゃない(違)

というわけで、一条天皇です。

いやもぉ、「会いたくなってしまった」というあの笑みを見たら、思わず「なに、この白馬の王子さま」って思いますよねぇ。眼福眼福。そりゃ、お客人がいようといまいと、兎にも角にも寝所へGOとなるわけです(言い方)。

一条天皇は、政をしているときのキリリとしたお顔と、定子さまといらっしゃるときのふんわりとしたお顔とのギャップがものっそくて。

賢帝であろうと気持ちを張り詰め、民の為にあろうと思慮し、自分にできることを全力で行おうとする帝ですが、実はまだ10代の少年で。定子さまといらっしゃるときだけは、きっと年相応でいられるのだろうなと思うと、胸が痛みます。

しかも、来週にはその時間さえ奪われてしまう

しかし、それさえも美しい絵巻物のなかの物語に収束…はしなさそうですしね(滝汗)だって、来週の予告で、定子さまったら刃物を振り回していらっしゃいましたし((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル

何にせよ、美しく幸せな時間が、一条天皇のなかに少しでも長く続くことを心から願ってやみません。

■まとめにかえて―メンタルつよつよ女子たち

『源氏物語』桐壷巻にあるいやがらせを、まさか実写で見られるとは! そうして、清少納言姉さまの対応の完璧さ! ほんとうに『光る君へ』は平安クラスタの夢を(時々斜めに行きながら)叶えてくださいます。

また、まひろっちの「のるかそるか」発言にもびっくり。存外によわよわメンタルで彷徨いがちな男子どもを置いて、ききょうさまやまひろっちはずんずんと「メンタルつよめ女子」へと進化を遂げています。

そうでなければ、「わたしを生きる」ことなどできない。

そういった現実を日々突きつけられ続ける女子たちだからこそ、こういった力強い生き方を自分の手で引き寄せようとあがくのでしょうし、それは現代の私たちも同じだよねと、改めて気持ちの強さをいただいたりしています。

そんなこんなで、第19話の感想でした。
第20話もご一緒に楽しめたら、とても嬉しいです。


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