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先生は本と映画です。

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タイトルの通りです。本や映画という先生から感じたことを書いています。
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#小説

誰かの今を美化する、という生き方

誰かの今を美化する、という生き方

人生はない物ねだりの連続である。

今自分が手にしているものの尊さや素晴らしさに気づかずに、そこにはないものに手を伸ばしてしまう。どうして手に入ると色褪せて見えてしまうのだろう。あんなに買うまではワクワクしてた十数万のコートが、3回目あたりから慣れてしまうのはなぜだろう。嫌だった職場が、離れた途端よかった場所かもしれないと思うのはなぜだろう。どうして、目の前の現実より、記憶や想像のショーケースに入

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視野に限界はあるが、配慮に限界はない / 朝井リョウ「正欲」を読んで

視野に限界はあるが、配慮に限界はない / 朝井リョウ「正欲」を読んで

朝井リョウの「正欲」を読んだ。

この本は、昨今当たり前のように聞く「多様性」をテーマにした小説だ。多様性とぱっと思い浮かべるのは、ジェンダーや国籍、健常者と障がい者などが同じ空感で共存している様子だろう。前提として、こうした共存が可能になっているのはとても素晴らしいし、尊いことだと思っている。

だが、朝井リョウはマジョリティが作った「多様性」という言葉では包括できない存在をとりあげ、僕らが言っ

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大人になった貴方にこそ「夜のピクニック」をススメたいのだ

大人になった貴方にこそ「夜のピクニック」をススメたいのだ

「好きな作家は恩田陸かなー」と答えると、「夜のピクニックは読んだことあるよ!」と十中八九返ってくる。読んだことなくても、9割の人がタイトルだけは知っている。

恩田陸が実は女性だとは知らなくても、その存在だけが全国を行脚している不思議な小説。

僕は、「夜のピクニックなら知ってるよ」と答えてくれる方に対して、だいたい「名作ですよね〜」と返していたのだけど。

ごめんなさい。

夜のピクニック、読ん

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就活における誠実さについて考えさせられる本

就活における誠実さについて考えさせられる本

会社でサマーインターンが始まった。

いま就活している彼らは平成最後の就活生で、僕らにとっては平成最後のサマーインターンの学生だと思うと、少し感慨深い。

彼らを見ていると、同じように暑い夏の日にインターンの面接を受けていたことを思い出す。
セキセイインコみたいだった髪の毛をカラスみたいな色に戻して、同じようにカラスみたいなスーツに身をまとって。

あの頃の自分は、今よりも何にも考えていなくて、就

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読んだが最後、本を買わずにはいられなくなる"読書とはなにか"を考えさせられる本

読んだが最後、本を買わずにはいられなくなる"読書とはなにか"を考えさせられる本

読まなきゃよかった。

そう唸ってしまうほど、生きていると強烈な印象に残る本と出会うことがあります。

自分の中の感受性が振り回され、これまでの価値観が変わってしまうエッセイ。
先の読めないストーリー、友だちになりたいような魅力的な登場人物、そしてその表現力によって架空世界に引きずり込むんで、時間を忘れてしまうファンタジー。
「これは自分のことを書いているのか!?」と思わず疑ってしまう文芸書。

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「屍人荘の殺人」は読んだ後に、記憶を消したいと思う小説である。

もしも記憶が消せるのなら、何度でも記憶を消して読み直したい。
この小説の”仕掛け”にまんまとハマって、その度に「やられた!」と悔しがり、中身を髄まで味わい尽くしたい。

ある意味、この小説−「屍人荘の殺人」−に出会ったことは幸運とも言えるし、同じような快感を二度と味わえないと考えると不幸とも言える。

筆舌に尽くしがたい高級料理などはお金があれば繰り返し味わうことができる。

ジェットコースターの

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読み終わった時に「あれ、俺もしかしてダサい?」と唸ってしまう青春小説。

読み終わった時に「あれ、俺もしかしてダサい?」と唸ってしまう青春小説。

カッコイイ人とは、どんな人だろう。

思春期を迎えて、モテたいと思い始めた頃から、現在進行形でカッコイイ人になりたいとずっと思い続けている。

カッコイイの定義には人によって色々あると思う。

料理ができる家庭的な人、外見に気を使うおしゃれな人といった頑張れば自分でも到達できそうなラインから、自分よりも知識が豊富でどんどん問題解決ができるような社会人の先輩。それを超えると、例えば起業した人や、何か

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