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就活における誠実さについて考えさせられる本

会社でサマーインターンが始まった。

いま就活している彼らは平成最後の就活生で、僕らにとっては平成最後のサマーインターンの学生だと思うと、少し感慨深い。

彼らを見ていると、同じように暑い夏の日にインターンの面接を受けていたことを思い出す。
セキセイインコみたいだった髪の毛をカラスみたいな色に戻して、同じようにカラスみたいなスーツに身をまとって。

あの頃の自分は、今よりも何にも考えていなくて、就活もスムーズに進んでいったわけではなかった。いま採用担当をしている自分に、当時の自分が面接を受けにきたら「もっとちゃんと考えてから受けに来い」と突きかえすだろう。

恥ずかしい話だが、やりたいことなんかないのに志望動機を聞いてくる面接官がとにかく嫌いだった。面接中にほとんどずっと下を向いて、寝ているのか、と思うような面接官と会ったこともある。数年前は自分と同じ立場だったのになんでそんなに偉そうなんだと思っていた。

「目の前で面接をしているあなたは第一志望でこの会社に入ったのか」

そんな心の声が思わず漏れてしまいそうだった。

なかなか内定がもらえず、就活に対して嫌気がさしてきた時に出会ったのが朝井リョウの「何様」という本だった。

「何様」は、映画化もされた朝井リョウの「何者」の続編として書かれた作品である。とあるベンチャー企業に務める新卒1年目で採用人事に配属された男が、候補者と向き合う中で誠実さとは何かに向き合う話だ。

僕はこの本を読んだ時、就活という制度や面接官に対して悪態をついていた自分が、果たして誠実な学生だったのだろうかと考えさせられた。

僕は、全ての企業に対して真摯に向き合ってエントリーシートを書いていたのか。
面接中、ネット上の有名企業ランキングや、年収、出身大学の割合、実績の凄さでその会社を値踏みしてなかったのか。一緒に面接を受けている学生のことを見下していなかったのか。
 
「自分はこんなすごいことをやった。隣の学生よりは自分はすごい」
「この企業はそんなに有名じゃないし、第一志望の練習」
「この企業はすごい人が多いから、気に入られるようにしないと」
「どうせこの企業は受かっても行かないから、受けなくてもいいや、適当でいいや」
 
こんな考えを持っていたのではないだろうか。
自分は”学生様”になっていたのではないだろうか。
 
「何様」の中で登場する企業は、面接のタームを6回にも分けて行っている企業だ。その理由は、まだ設立してから年月が浅く、学生の採用に苦労するから。最初に採用した優秀な学生が商社や銀行のような企業に取られていく可能性が高く、タームの回数が少ないと採用人数に不備が出てしまう。
 
履歴書の額面だけは優秀なような、無駄にプライドの高い人間はきっとこのような企業を練習としてか見ないパターンが多い。企業サイドがいくら本気でも、練習台として不誠実な学生様が受けてくる。不誠実な学生に対して、面接する側は誠実に対応したいと思うのだろうか。プライドの高い学生に対して、真摯に接したいと思うのだろうか。きっと、それは難しいことだろう。
 
でも、中には不誠実さの中に誠実さを見出そうとしてくれる人もいる。
 
就職活動の初期の頃、自分の勘違いで全く興味がなかった会社の面接を受けることになった。
 
それが自分にとってはたまたま第1社目であり、「練習としてちょうどいいや」と思ってなんとなく受けていたら、最終面接まで進んでしまったことがある。ろくに企業のことを調べもせず、志望動機も適当。まぁ、どうせ入らないし、そんな気持ちで面接を受けていた。

ところが、面接官の方はというと、そんな自分にも熱心に接してくれた。多分、最初の数分でこちらに入る意思がないことなど見抜いていただろう。結局、途中から自分の人生相談みたいな感じになってしまったけれど、最後の最後までちゃんと僕に向き合って対応してくれた。こちらが不誠実だったにもかかわらず、そういった真摯な対応をしてくれる人も沢山いる
 
学生が全てのエントリーシートや面接を100%本気でこなすのは難しいかもしれない。面接に落ち続けると、どこか人間性を否定された気になってしまい、やる気がさらに落ちる。また、人生の順序として学生の後に社会人が待っているわけだから、どうしても学生視点の気持ちを持ちがちになってしまうのも仕方ない。一方、採用担当側に立つと、また違った仕方ないが見えてくる

みんな沢山の仕方ないを抱えている。
 
そんな中、学生も企業も関係なく唯一できることは、人や企業の本質的な価値に上も下もないと理解することなんじゃないだろうか。売り上げとか、ネームバリューとか、見えるところだけで判断しないように気をつけることなんじゃないか。企業だって人の集まりだ。

採用担当側の僕らも、バイアスをかけないように望まないといけない。学歴や現職の企業のブランドで勝手な見極めをしすぎてはいけない。
 
当時の僕が企業に対して不満を抱いていたり、就活を失敗したと思い込んでいたのは、目に見えること、考えなくても分かることだけに執着していたからだ。自分と企業を勝手にランク付けして、それで一喜一憂していた。
 
あの時の自分は、内心でいろんな人を馬鹿にしてはいなかっただろうか。誰かの必死さを嘲笑ってはいなかっただろうか。いま逆の立場になり、企業サイドにいるからと候補者に対して傲慢になっていないだろうか。
 
仕方ないばかりがある就職活動の中で僕らができることは、きっとお互いの中の少しの真摯さに目を向け、前向きに受け止めていくことだけかもしれない。
 
それでも、みんながそういう前向きな思考になったら、今よりちょっといい世界ができるはずだ
 
改めてそんなことを思わせてくれた「何様」は、ひょっとしたら「神様」なのかもしれない。
そう思う台風の夜だった。 

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