見出し画像

読んだが最後、本を買わずにはいられなくなる"読書とはなにか"を考えさせられる本

読まなきゃよかった。

そう唸ってしまうほど、生きていると強烈な印象に残る本と出会うことがあります。

自分の中の感受性が振り回され、これまでの価値観が変わってしまうエッセイ。
先の読めないストーリー、友だちになりたいような魅力的な登場人物、そしてその表現力によって架空世界に引きずり込むんで、時間を忘れてしまうファンタジー。
「これは自分のことを書いているのか!?」と思わず疑ってしまう文芸書。

僕にとってのそれは、就活の時に読んで、「あれ、俺の日常に監視カメラでもとりつけていたのか」と身震いすらした朝井リョウの「何者」であり、”スタイル”とは何かを考えさせられ、自分ちっちゃいなぁと思った塩野七生の「男たちへ フツウの男をフツウでない男にするための54章 」というエッセイであったりします。

一方で、そんなおそろしくも魅力的な本に出会う機会というのはなかなか訪れません。むしろ、そんな本に気軽に出会える機会があったら逆に困るくらいです。

でももし、そんな本だけが選りすぐられた宝石箱かパンドラの箱かともわからない"本の本'があったら、あなたはどうしますか?

それを手に取らずに我慢できるでしょうか。もし我慢できるのであれば、こっそりとその本を紹介します。

その本のタイトルは「人生を狂わす名著50」。

現在京都大学大学院現役生の三宅香帆(@m3_myk)さんの著書です。

はい、いま「大学院生???」とちょっとでも疑ったそこのあなた。

三宅さんは、小学校の頃から開店と同時にブックオフに入り浸っていたと自称するほど本好きの、まさに本を”食べて”育ってきた生粋の文学少女なんですよ!

この本の元ネタともなった「京大院生の書店スタッフが『正直、これ読んだら人生狂っちゃうよね』と思う本ベスト20を選んでみた。」は、2016年のはてなブックマーク数年間2位を記録。さらに、現在cakesで「わたしの咀嚼した本、味見して。」という連載を持っている三宅さんは、文字通り「歩く図書館」と申し上げても差し支えないでしょう。

「私の人生は本そのものです」と言い切る三宅さんが書いた本の本。ただ、三宅さんが面白いと思った本を集めているわけではありません。

「人生を狂わす名著50」には、声を高々に「読んでくれ〜〜〜」と叫びたい一心と「読んだらマジでやばいから! 読んじゃダメ!!!」という板挟みの感情の中で、それでも「やっぱり読んで!!!」と誰かに紹介せずにはいられない本たちのみが厳選され収録されています。

ただ、面白い本を集めるだけでもまぁやばいのですが、「人生を狂わす名著50」の特徴は何より三宅さんの語り口。休み時間の教室で「ねぇねぇこれ知ってる!?」と椅子の背もたれを両腕で抱いて、前のめりに目をキラキラさせながら話しかけてきたと思ったら、ちょっとお洒落なバーでウイスキーなんかを片手に話しかけてきたり。はたまた、自分だけの秘密をひっそりと共有するような危うさと静かさを彷彿とさせたり。

そんな様子を思わず妄想してしまうくらい、読者と本人の距離が近いんです。

そんなものですから、1ページ、また1ページとめくり続け、どんどんと読みたい本が増えていき、気づいたら何冊か買ってしまっている。三宅さんの言の葉には、本を好きにさせてしまう魔力が宿っています。

例えば「ぼおるぺん古事記」という本の紹介の冒頭文。

この本を初めて手にとったときは、それもうもうもう、ぶったまげました。
「こんなの、見たことない」
天才なの??? ねぇ、天才なの???? し、信じらんねぇ〜〜〜〜〜〜。
なんなのこの本。何がどうしてコンナこと可能なの。How。喉からグエッと蟾蜍(ひきがえる)みたいに変な声が出そうになりました。

ここまで、自分の心情をダイレクトに載せて紹介する文なぞ、なかなか見たことがありません。本の紹介に込める温度が常に沸騰しているんです。

「人生を狂わす名著50」は"本の本'なんですが、視点を変えてみると「読書とはなにか」を考えさせられるエッセイでもあります。

三宅さんはこの本の冒頭でこう述べています。

私にとって、本を読むことは、自分の人生を賭けて戦うこと以外のなにものでもないです。

各章は三宅さんと著者の戦いの記録なんですね。本を読むという行為の答えの可能性を色々な切り口で僕らに教えてくれる。本の読み方には数学の答えのように唯一解はありません。

純粋にそこに書かれている物語を心ゆくまで楽しむのもよし。自分と重ね合わせて深く考えるのもよし。ときには著者に反発して「こんなん受け入れられっか!」となるのもよし。

実際のところ、本なんて読まなくても生きてはいけるんですね。本を読んでもお腹はいっぱいにならないし、快眠効果があるわけでもないし(なんなら寝不足になるし)、むしろ消費する側に近いのに。

それでも、僕らはなぜ本を求めるのか。あなたは、どう考えますか?

「読まなきゃよかった」と思ってしまうほどの本は、自分を変えてくれるきっかけを与える本でもあります。日常の生活の中では考えないようなことや、あえて目を背けてきたことに対し、本は「ちゃんとこっちを見ろ!」と首根っこを掴んできます。

僕自身、この本を通じて素敵な本達に出会いました。本当に大切な”勉強”とは何かを考えずにはいられなくなる「僕は勉強ができない」や、自分が蓋をして隠していた綺麗事の感情を思いっきりぶちまけられた「ものぐさ精神分析」といった本に出会い、人生狂っちまったなと思わされました。もちろん、いい意味で。

「人生を狂わす名著50」はこれまで知らなかった世界の扉をいくつも教えてくれます。そこら中に好奇心をくすぐる「どこでもドア」が突然林立する様な気分です。いや、もしかしたらそれは知らなかった世界ではなく、あえて見ないようにしていた真実なのかもしれません

三宅さんが立てるドアの先で、必ずあなたの人生を大きく変えてしまう本との出会いが待っているでしょう。もし、その恐ろしさに耐えられるのならば、自分を少しでも変えたいと思っているのならば、是が非でもその先にある本を手にとって欲しいと思います。

あ、お財布との相談だけには気をつけることを忘れずに。

さぁ、書店へ向かいましょう。


この記事が参加している募集

最後まで読んでいただきまして、有難うございます。 あなたが感じた気持ちを他の人にも感じてもらいたい、と思ってもらえたら、シェアやRTしていただけると、とっても嬉しいです。 サポートは、新しく本を読むのに使わせていただきます。