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ワーケーションに出かけたくなる都市ランキングの分析:世界トップ30都市編

ヨーロッパベースの宿泊予約サイトを運営するHoliduは、独自にワーケーション指標を策定し、世界の主要都市のランキングを発表しています。

「ワーケーション(Workation)」とは、仕事(work)と休暇(vacation)を掛け合わせた造語です。日本でも、ここ数年で一気に「リモートワーク」が進んだことから、「ワーケーション」への関心は高まっています。

情報通信技術というテクノロジーの発展は、仕事のスタイルに変化をもたらしています。都会的な仕事であっても、物理的に都会にいる必要性が少なくなっています。

2022年の春を迎え、約2年半続いた「海外渡航が不自由な時期」の終わりが見え始めています。多くの国が、再び観光での入国を認めるようになってきました。

そうなると、国内でのワーケーションだけではなく、海外でのワーケーションについて考え始めるという人も増えてくるのではないでしょうか。

ということで、holiduが算出したワーケーション指数のデータをベースに、いくつかのデータを組み合わせて「ワーケーションに出かけたくなる都市」について検討してみたいと思います。

この記事では、調査対象となっている世界147都市のうち、ランキング上位の30都市を抜き出して分析してみました。

アジア編、非アジア編、アメリカ編についてのランキングや分析については、以下の記事をご参照下さい。


ランキングの算出方法について

そもそも、このランキングはどのようにして算出されているのでしょうか。まずは、調査対象とする都市の選定の方法です。Holiduの説明によると、bestcities.org などを参照して、150カ国以上の都市をピックアップします。

その上で、ワーケーションなので「仕事」に関する指標と、「休暇」に関する指標にわけ、それそれスコアをつけていきます。

【仕事に関する指標】

  • ネットスピード:平均的なWifi接続スピード(mbps/秒)

  • コワーキングスペース:コワーキングスペースの数

  • カフェイン:コーヒーの平均価格

  • 移動:1キロあたりのタクシー移動の平均価格

  • 仕事終わりの一杯:バーでビールを2杯飲む場合の平均価格

【休暇に関する指標】

  • 宿泊費:1ベッドルームのアパートの月額平均家賃

  • 食事:地元の中級レストランでの平均的な食事代

  • 気候:年間の平均日照時間

  • 観光スポット:トリップアドバイザーにて評価が4以上の「Things to do」の数

  • インスタ映え度:#都市名がついた投稿の数

これらの指標のうち、いくつかの重要な指標は倍もしくは3倍の重み付けをして総合得点を算出しています。3倍の重み付けをしているのは「ネットスピード」、2倍の重み付けをしているのは「宿泊費」と「気候」です。

ワーケーション・ランキング(世界トップ30都市編)

算出方法がわかったところで、ワーケーション指数で高い評価を得た都市から順に並べてみましょう。このワーケーション指数では、数値が小さいほど評価が高くなっていますので、総合得点が小さい都市順に上から(ランキング上位の都市から)第30位の都市までを並べてみます。

ワーケーション指数をもとにした都市ランキング(世界トップ30都市)
*筆者作成。データは、Holiduから提供を受けたものを使用。グレーの破線は、中央値を示している。

ワーケーションをする上で評価の高い都市、世界第1位は、バンコク(タイ)でした。第2位は、ニューデリー(インド)が続きます。スコアを見てみると、この2つの都市は、他に比べて頭一つ飛び出ていることが読み取れます。

少しスコアを落としますが、続いてヨーロッパの都市が名前を連ねています。第3位は、リスボン(ポルトガル)、第4位はバルセロナ(スペイン)、第5位は同じスコアでブエノスアイレス(アルゼンチン)とブダペスト(ハンガリー)がランクインしています。

「インターネットの自由」重視派の人へ

ワーケーションで滞在する国に何を求めるのかは、人それぞれだと思いますが、中には政治体制が気になる人がいるかもしれません。ワーケーションを行う人にとって、ネット環境は重要な要素となりますが、「どの程度自由なインターネットが確保されているか」は、各国の政治体制とある程度相関するからです。

ということで、フリーダムハウス(Freedom House)による政治体制の分類をもとに色分けしたのが、以下のグラフです(「自由(Free)」「部分的に自由(Partly Free)」「不自由(Not Free)」の3つに分類されています)。

ワーケーション指数のランキングと政治体制 (世界トップ30都市)
*筆者作成。ワーケーション指数のデータは、Holiduから提供を受けたものを、政治体制のデータは、Freedom House(2020年)のものを使用。グレーの破線は、中央値を示している。

別の角度からも、ワーケーション指数トップ30都市をプロットしてみたいと思います。今度は、X軸にワーケーション指数のスコアを、Y軸にスウェーデンのV-Dem Instituteがまとめている政府によるインターネットのフィルタリングがどの程度行われているかの指標を使って、各都市をプロットしてみます。色分けは、フリーダムハウスによる政治体制の分類結果です。

ワーケーション指数と「自由なインターネット」との関係性(世界トップ30都市) 
*筆者作成。ワーケーション指数のデータは、Holiduから提供を受けたものを、政府によるインターネットのフィルタリング実施に関するデータはV-Dem Dataset (v12)の2020年のものを、政治体制のデータはFreedom House(2020年)のものを使用。グレーの破線は、それぞれの中央値を示している。

「インターネットの自由」重視派であれば、狙い目はリスボン、バルセロナ、ブエノスアイレスあたりですね。その次に、ハンガリーのブダペストあたりでしょうか。世界第1位のバンコクと、世界第2位のニューデリーは、「自由なインターネット」という視点からは、魅力を落としてしまいます。より深刻なのは、トルコのイスタンブールです。ワーケーション指数は高いのですが、自由なインターネットはある程度あきらめる必要がありそうです。

ネットスピード重視派の人へ

「インターネットの自由」よりも、「インターネットのスピード」の方が重要だという人もいるに違いありません。ネット環境が不安定ではオンライン会議などに支障が出てしまいます。

そこで、X軸にワーケーション指数を、Y軸にインターネット・スピードを適用したものが以下のグラフです。

ワーケーション指数とインターネット・スピードとの関係性(世界トップ30都市・含シンガポール) 
*筆者作成。データは、Holiduから提供を受けたものを使用。政治体制のデータはFreedom House(2020年)のものを使用。グレーの破線は、それぞれの中央値を示している。

こうして見ると、シンガポールのネットスピードが断トツで速いため、他の都市の差異が見えにくくなってしまっています。シンガポールを例外として除き、残りの29都市をプロットしてみましょう。

ワーケーション指数とインターネット・スピードとの関係性(世界トップ30都市)
*筆者作成。データは、Holiduから提供を受けたものを使用。政治体制のデータはFreedom House(2020年)のものを使用。グレーの破線は、それぞれの中央値を示している。

バンコク、リスボン、バルセロナ、ブダペストあたりが魅力的に映ります。世界で第2位だったニューデリーですが、インターネット・スピードを考慮すると、少し見劣りしてしまいます。

ワーケーションに最適な安くて楽しい都市は?

ワーケーションですので、「仕事(ワーク)」に関してある程度条件をクリア出来るのであればOKで、楽しむためには「休暇(バケーション)」部分で欲張りたいものです。

この記事で取りあげている30都市は、ワーケーション指数で上位30都市なので、どの都市を訪問してもそれなりにワーケーションを楽しむことができると思います。とはいえ、仕事だけでないとするならば、「安くて楽しい」みたいな要素は行き先選びにとって重要だと考える人が多いのではないでしょうか。

Holiduによるオリジナルのデータには、コストに関するいくつかの指標があるのですが、ここでは旅の楽しみの1つである「食」にフォーカスしてみましょう。X軸には、ローカルフードを提供する中級のレストランでの1食あたりの値段をとりたいと思います(オリジナルデータは、イギリスポンドですが、1ポンド=161円として日本円に換算しました)。

その都市が退屈な都市か、毎日のようにやることがあるエキサイティングな都市かについては、トリップアドバイザーに掲載された評価4以上のアクティビティの数という指標があったので、これをY軸にとってみたいと思います。結果は、以下のグラフです。

「安くて楽しい」ワーケーションに適した都市(世界トップ30都市)
*筆者作成。データは、Holiduから提供を受けたものを使用。政治体制のデータはFreedom House(2020年)のものを使用。グレーの破線は、それぞれの中央値を示している。

このグラフは、世界トップ30都市の特徴を視覚的に理解する助けになると思います。「安くて楽しい」ということであると、やはりアジアの都市に軍配が上がりそうです。右上の第1象限に位置する場所にある都市は、バンコク(タイ)、ハノイ(ベトナム)、イスタンブール(トルコ)、ニューデリー(インド)、シェムリアプ(カンボジア)、プーケット(タイ)といった都市です。

ただし、そのかわりといっては何ですが、「赤色」ですので、フリーダムハウスによる政治体制の分類では「不自由(Not Free)」に属する国ばかりが固まっています。

ある程度、「安さ」は関係ないということであれば、左上の第2象限に位置する都市はいかがでしょうか。バルセロナ(スペイン)、マドリード(スペイン)、リスボン(ポルトガル)、プラハ(ルーマニア)など、どれも「休暇」部分を楽しませてくれそうです。そして、これらの国は、どこも「青色」なので、政治的にも「自由」に分類されています。

いかがでしょうか。そろそろ「封印」していた海外渡航を解禁しようとする人も増えてきそうです。次の「目的地探し」の参考になれば幸いです。