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ワーケーションに出かけたくなる都市ランキングの分析:非アジア編

ヨーロッパベースの宿泊予約サイトを運営するHoliduは、独自にワーケーション指標を策定し、世界の主要都市のランキングを発表しています。

「ワーケーション(Workation)」とは、仕事(work)と休暇(vacation)を掛け合わせた造語です。日本でも、ここ数年で一気に「リモートワーク」が進んだことから、「ワーケーション」への関心は高まっています。

情報通信技術というテクノロジーの発展は、仕事のスタイルに変化をもたらしています。都会的な仕事であっても、物理的に都会にいる必要性が少なくなっています。

2022年の春を迎え、約2年半続いた「海外渡航が不自由な時期」の終わりが見え始めています。多くの国が、再び観光での入国を認めるようになってきました。

そうなると、国内でのワーケーションだけではなく、海外でのワーケーションについて考え始めるという人も増えてくるのではないでしょうか。

ということで、holiduが算出したワーケーション指数のデータをベースに、いくつかのデータを組み合わせて「ワーケーションに出かけたくなる都市」について検討してみたいと思います。

この記事では、調査対象となっている世界147都市のうち、アジア・太平洋以外の地域に属する都市だけを抜き出して分析してみました。

世界トップ30都市編および他地域の分析については、以下の別記事をご参照ください。


ワーケーション・ランキング(非アジア編)

まずは、単純にランキング順に並べてみましょう。このワーケーション指数では、数値が小さいほど評価が高くなっていますので、総合得点が小さい都市順に上から(ランキング上位の都市から)並べてみましょう。

といっても、調査対象となっている都市は全部で147都市、そのうちアジア・太平洋地域以外の都市は119都市もありますので、トップ30の都市だけを抜き出したランキングを表示してみたいと思います。

非アジア・太平洋地域に属する都市のワーケーション指数のランキング
*筆者作成。データは、Holiduから提供を受けたものを使用。グレーの破線は、中央値を示している。

トップは、ポルトガルのリスボン。第2位は、スペインのバルセロナ。第3位は、アルゼンチンのブエノスアイレス。第4位は、ハンガリーのブダペスト。第5位は、トルコのイスタンブールと続きます。

世界全体のランキングで見ても、リスボンは第3位、バルセロナは第4位、ブエノスアイレスとブダペストは同じスコアで共に第5位、となっています。確かに、どの都市も特徴があって魅力的です。

「インターネットの自由」重視派の人へ

ワーケーションで滞在する国に何を求めるのかは、人それぞれだと思いますが、中には政治体制が気になる人がいるかもしれません。ワーケーションを行う人にとって、ネット環境は重要な要素となりますが、「どの程度自由なインターネットが確保されているか」は、各国の政治体制とある程度相関するからです。

ということで、フリーダムハウス(Freedom House)による政治体制の分類をもとに色分けしたのが、以下のグラフです(「自由(Free)」「部分的に自由(Partly Free)」「不自由(Not Free)」の3つに分類されています)。

非アジア・太平洋地域におけるワーケーション指数のランキングと政治体制
*筆者作成。ワーケーション指数のデータは、Holiduから提供を受けたものを、政治体制のデータは、Freedom House(2020年)のものを使用。グレーの破線は、中央値を示している。

別の角度からも、非アジア・太平洋地域の各都市をプロットしてみたいと思います。今度は、X軸にワーケーション指数のスコアを、Y軸にスウェーデンのV-Dem Instituteがまとめている政府によるインターネットのフィルタリングがどの程度行われているかの指標を使って、各都市をプロットしてみます。色分けは、フリーダムハウスによる政治体制の分類結果です。

ワーケーション指数と「自由なインターネット」との関係性(非アジア・太平洋地域) 
*筆者作成。ワーケーション指数のデータは、Holiduから提供を受けたものを、政府によるインターネットのフィルタリング実施に関するデータはV-Dem Dataset (v12)の2020年のものを、政治体制のデータはFreedom House(2020年)のものを使用。グレーの破線は、それぞれの中央値を示している。

「インターネットの自由」重視派であれば、狙い目はリスボン、バルセロナ、ブエノスアイレスあたりですね。その次に、ハンガリーのブダペストあたりでしょうか。トルコのイスタンブールは、ワーケーション指数は高いのですが、自由なインターネットはある程度あきらめる必要がありそうです。

ネットスピード重視派の人へ

「インターネットの自由」よりも、「インターネットのスピード」の方が重要だという人もいるに違いありません。ネット環境が不安定ではオンライン会議などに支障が出てしまいます。

そこで、X軸にワーケーション指数を、Y軸にインターネット・スピードを適用したものが以下のグラフです。

ワーケーション指数とインターネット・スピードとの関係性
*筆者作成。データは、Holiduから提供を受けたものを使用。政治体制のデータはFreedom House(2020年)のものを使用。グレーの破線は、それぞれの中央値を示している。

こうして見ると、リスボン、バルセロナ、ブダペストあたりが魅力的に映ります。インターネット・スピードを考慮すると、これまで目立たなかったルーマニアのブカレストも魅力的な候補だと言えそうです。

もっとも、ネットスピードに関して「平均」をとっても、実際にワーケーションをしようとする人にとってはあまり意味をなさないでしょう。ここで調査対象になっているのはある程度の大きさがある都市です。十分なネットスピードを得ることができるコワーキングスペースを見つけるなり、十分なネットスピードがあることを条件にアパートを借りるなどすれば済みます。

ワーケーションに最適な安くて楽しい非アジア圏の都市は?

ワーケーションですので、「仕事(ワーク)」に関してある程度条件をクリア出来るのであればOKで、楽しむためには「休暇(バケーション)」部分で欲張りたいものです。

地理的な条件もあって、日本から海外ワーケーションに出かけるとすれば、物価の安さもあってアジア圏がまずは候補に上がるだろうと思いますが、せっかくならば「アジア以外の地域」で理想のワーケーション先を探したいというニーズもあるはずです(アジア圏でのワーケーション候補については、別記事をご参照ください)。

Holiduによるオリジナルのデータには、コストに関するいくつかの指標があるのですが、ここでは旅の楽しみの1つである「食」にフォーカスしてみましょう。X軸には、ローカルフードを提供する中級のレストランでの1食あたりの値段をとりたいと思います(オリジナルデータは、イギリスポンドですが、1ポンド=161円として日本円に換算しました)。

その都市が退屈な都市か、毎日のようにやることがあるエキサイティングな都市かについては、トリップアドバイザーに掲載された評価4以上のアクティビティの数という指標があったので、これをY軸にとってみたいと思います。結果は、以下のグラフです。

「安くて楽しい」ワーケーションに適した都市(非アジア編・含NYC and Moskwa)
*筆者作成。データは、Holiduから提供を受けたものを使用。政治体制のデータはFreedom House(2020年)のものを使用。グレーの破線は、それぞれの中央値を示している。

トリップアドバイザーに掲載された「Things to do」の評価4以上の数で、ニューヨークシティとモスクワの数が多いようです。この2都市が含まれている関係で、他の都市の差異がわかりにくいので、ニューヨークシティとモスクワを取り除いてみましょう。

「安くて楽しい」ワーケーションに適した都市(非アジア編)
*筆者作成。データは、Holiduから提供を受けたものを使用。政治体制のデータはFreedom House(2020年)のものを使用。グレーの破線は、それぞれの中央値を示している。

いかがでしょうか。「安くて楽しい」都市は、第1象限にあるような都市ですね。非アジア圏では、イスタンブール(トルコ)、マラケシュ(モロッコ)、プラハ(チェコ)、リオデジャネイロ(ブラジル)、ブエノスアイレス(アルゼンチン)、ブダペスト(ハンガリー)あたりが、「安くて楽しい」ワーケーション先として訪れたい都市の有力候補になるのではないでしょうか。