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支那川之穂乃宮(シナカワノスイノミヤ)
2020年4月2日 11:03
あ、こっちに来る。カフェのしあわせそうなお客から何かをとったらしい少年が青信号の歩行者の波に混じった。ヨレたシャツのしたに蠢く絶対に生きてやるというエネルギー。 それでいて、全てを諦めているような背中。目が、離せない。わたしは立ち止まってそのヨレた背中をずっと見ていた。彼は角の喫茶店の前で ショーケースに並ぶ色褪せた食品サンプルを眺め少し悩んだように見えた
2019年10月18日 00:15
「アリア!」 そう叫んだのは自分。なのだろうか。 記憶の奥。手を差し伸べるオレ。 届かない手。辛すぎて忘れることなんかできないと思ってた。けど辛すぎたから 忘れようとしてしまったのだ、この肉体が。「マスター。ご馳走様。」 急いでいつもの金額にビール一杯分をプラスしたお金をカウンターに置き荷物を抱え外に出る。ありあは どっちに向かっただろう。右か 左か
2019年10月16日 23:09
「私の名前は アリア。」ありあ。。アリア。。。Aria・・・なんだろう。胸の奥がチクチクする。ずっと深いところで何かがカチリと音を立てた。どこかで会った?のか・・・。駄目だ全然思い出せない。「ごめん。ほんとに思い出せないや。どこで会った?」「ここから 遥か遠くの場所で今とは 遥か遠い時間に。」そう言って アリアは今度は少し悲しそうな笑顔でビールを飲みほした。
2019年10月15日 22:46
「つまり 石はデータを記憶するってこと?」「そう。おもしろいでしょ。でもよく考えたらレコードだってデータの記憶してるし写真だってそういう事だよね。」「うん、まぁ。」「バーコードみたいに刻まれてて 触れることでそのデータをダウンロードできるんだって。」「え?誰でも?」「そう 誰でも。」そう言って 彼女はまたビールをとても嬉しそうに飲んだ。「でも。石を触ってそんな風に
2019年10月14日 23:47
いつだったかな。やはり行きつけの居酒屋で不思議なひとに出会ったことがあった。いつものようにカウンターで 炙った烏賊をつまみに飲んでいると隣から優しく懐かしい香りが ふわりと漂ってきた。ここ大丈夫ですか?長いストレートの髪がはらりと肩から滑り落ちた。女性はその髪を耳にかけて笑った。えぇ。空いてますよ。屈託のない笑顔に 少しどぎまぎしながら答えた。良かったぁ。そうい
2019年10月14日 00:08
そもそも記憶とはなんだ。脳が覚えてることと定義しよう。僕が実際に見聞きしたものや、体験したこと。それが記憶となるのはわかる。じゃあ 夢は?夢で見たことと現実を脳は同じように認識するらしい。どこかの脳科学者だかが言っていた。つまり夢も記憶の一部となるということだ。でも 今日僕がここで思い出そうとしているこれらは夢のようで 違うような。もっと遠く。距離も時間も 漠然
2019年10月13日 05:42
ここがどこなのか。僕は自分の手のひらを見つめ手を動かしてみた。動く。自分の身体。だな。じゃ この記憶は?誰のモノだ?確実に僕の一部を形成しているこの記憶はいったい誰のモノなのだろう。目の前にあるまたもや冷めてしまった珈琲をすする。僕は昔から生きたくなかった。死にたかったというわけではなくただ漠然と生きてるのがもうしわけなかった。この記憶とこの想いは
2019年10月12日 00:35
いやだみんなと一緒がいい。そう強く願った時頭の中で声が響いた。「あなたがこのお仕事を断るのは構いません。あなたの代わりにやってくれる誰かを探しお願いすればいいだけのことです。ただしその時に 他の誰かが永遠と思われるほどの長い間あなたが感じたその思いを背負うことになります。」もし この話が本当だとしたら「あなたは自分ではない他の誰かに辛い思いを永遠にさせてしまうこと
2019年10月10日 23:47
「お待たせいたしました。ブレンドです。」 「あの、これ。疲れてるとき 私が良く入れるものなんです。」 そう言っておさげの彼女が 新しいコーヒーとともに生クリームとシナモンスティックを持ってきてくれた。 「え?」 「差し出がましいことをしてすみません。よければでいいので入れてみて下さい。」 「あ、ありがとうございます。」 語尾が消え入りそうになりながら やっ
2019年10月10日 00:26
いやそんなこともないか。自然は、地球は、人間を追い出そうとしているのかもしれない。世界中で 年々厳しくなる自然環境。予想もしなかった災害の多発。僕は ニュースを見るたびに風の谷のナウシカの腐海を思い出す。人間にとっては害のあることが実は 地球の再生のための活動だということ、なのかもしれないと。大量発生する虫にもきっと意味があって。流行する病気にも もしか
2019年10月9日 00:02
人々の苦悶の表情が網膜に焼き付いてるようだ。目を開けて 煙草の脂で煤けた喫茶店の壁を見つめたが叫び声まで聴こえてきそうで 耳を塞ぐ。夢から覚めた後も 本当に見てきたかのように思い出せる。少しずつシーンを変え 脳内のミッドナイトシアターで幾度も上映されるこの夢を見るたびに 自分がこうして生きていることを申し訳なく思う。意識を少しずつ いまこの場所に戻してくる。ここは 令和の東京
2019年10月8日 00:53
僕は懸命に伝えた。このままでは危険だと。もうすぐ大きな波が来るからあの山に逃げるべきだと。信じてくれた人もいた。だけれども そんな荒唐無稽なはなしは鼻から信じられないという人のほうが圧倒的に多かった。もう時間がない。僕は何人かの人とともに急いで山に向かった。他の人は 慌てることもなくその地に留まった。山の中腹まで差し掛かった時すさまじい音が響
2019年10月7日 00:23
冷たく暗い海の底にいる意識と それをさみしそうに覗いている意識。 ふたつに分離してしまったのだろうか。海の底を覗く僕はとても苦しんでいる。海の底にいる僕は苦しんではいない。分離したというより同時に両方を経験したんだ。 ではなぜ 僕は海に? そう思っていると 場面が変わった。周りにたくさんの人が集まって みんな僕の話を聞いている。 周りの人たちも僕