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少年Aと少女B

あ、こっちに来る。

カフェのしあわせそうなお客から
何かをとったらしい少年が
青信号の歩行者の波に混じった。

ヨレたシャツのしたに蠢く
絶対に生きてやるというエネルギー。

それでいて、全てを諦めているような背中。

目が、

離せない。

わたしは立ち止まって
そのヨレた背中をずっと見ていた。

彼は角の喫茶店の前で ショーケースに並ぶ
色褪せた食品サンプルを眺め
少し悩んだように見えた。

古い扉を 骨張った手が押し
あの背中が薄暗い店内に吸い込まれていく。

あ。

そう思うのと同時に
手は扉を開いていた。

あるくせに、あまり光を入れない窓。

セロテープが茶色くなったポスター。

席は意外にも満席で、
珈琲をテーブルに置き、タバコをふかす客たちは
表を歩く人たちとは
明らかに違う世界に住んでいると感じさせる
背中ばかりだった。

彼も、この中に不思議なくらい馴染んでいた。

あの背中をもっと見ていたい。

それしか頭になかった。

彼はカウンターに座り
わたしは隣に座った。

え、という顔をして彼がわたしを見た。

長い前髪で目は見えなかったけど。

あ、隣いいですか?

え、あ、はい。

カウンターに置かれた
ベタベタしたメニュー。

一度も飲んだ事がなかったけど
飲み慣れてるフリをして 
『ブレンドください』
ドキドキしながらお店の人に伝えた。

彼は隣でかなり悩んで
『ナポリタンください』と言った。

懐かしい声がした。

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