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(詩) 芙蓉を指さす母
母の眼差しの先には
芙蓉が咲いていた
指をさして
「芙蓉だよ
木槿とは違うよ」
ひとこと言った
いったいいつのことだったろうか
そして
その話はすっかり忘れてしまっていた
思い出したのは
近所に木槿の花が咲いていたとき
60歳も過ぎたころだろうか
母はすでに亡くなっていた
母が教えてくれたときの情景も
摺硝子の向こうに霞んでいる
ただ「芙蓉」と「木槿」の違いを教えたかった
母の気持ちだけが
(詩) 記憶に浮かぶ水蓮
真夏の盆地の底
まったく風がない
古の都に喘ぎ
求めるようにうろつく
古刹の片隅
ひっそりと咲く
炎天下の水蓮
水面に浮かぶ真っ白な花
ぎらつく陽を浴びて
身じろぎもせずに
一輪の水蓮に魅せられた
50年前の点景
若すぎたその時の感性を
今、手繰りよせてみたい
糸は縺れてしまっているが・・・
(詩) 無常秘める日々
いつものように起床する
いつものように洗顔する
いつものように朝食をとる
いつものように昼食をとる
いつものように夕食をとる
いつものように入浴する
いつものように就寝する
いつものように
決まりきったことを
決まった時に
永遠には続かない営み
垣間見える無常
だからこそ
手のひらの日々を
惜しむように
けっして曇らない
青空を見上げる