ドクターへっこり

訪問診療を始めた消化器内科医の奮闘記と言えば聞こえが良いのかもしれません。 普段の診療…

ドクターへっこり

訪問診療を始めた消化器内科医の奮闘記と言えば聞こえが良いのかもしれません。 普段の診療の中で気になったことを書いてみます。 「へっこり」のイントネーションは「しゃっくり」と同じです。

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書評「世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事」

本書が主に述べているのは「その健康情報はエビデンスあるの?」という事です。というかその事をストイックに書き連ねてあります。「○○は健康に良い」とか「○○ダイエット」みたいなムーブメント的な健康情報にちゃんとしたエビデンスがあるのか、という事がたくさん書いてあります。 エビデンスレベル医学においても、様々な検査や治療はエビデンス(科学的根拠)に基づいて研究され、開発に至っています。他の業界でもエビデンスは重要だとは思うのですが、医学においてはとても厳密で、一つの薬を開発すると

    • 本当に医者は何も知らない。

      前回述べたように 医者の専門は「患者さんの訴えや症状から、患者さんの体で起こっている事を把握し、治療方針を提案して患者さん(家族)と相談して決定する事」です。 なので、症状や所見を察知する能力や、治療に関する知識があることは医者にとっては必要不可欠です。当然、それにかかる薬学や看護の知識も必要にはなってきますが、それらの知識や経験はそれぞれの専門家(薬剤師、看護師、理学療法士、栄養士など)には敵わないんです。 「医者だからそれくらいの事は知ってるだろう」という感じで患者さ

      • 医者は何も知らない?

        以前、某雑誌で「薬剤師の大淘汰」という特集が組まれていました。この特集では「2045年には12万人の薬剤師が余る!」とか、「これまで通りの経営では多くの薬局が潰れる!」とか書かれていました。 国が医療費を削減したいことは皆が知ってるし、医療業界全体(医者も例外ではありません)がこのままの状態ではやっていけない事は分かっているので、特には驚きませんでした。 先日、Twitterで「薬剤師は薬を袋詰めしてるてるだけ」みたいなツイートがあって、何やら炎上?してました。 僕個人とし

        • 奥さんに伝えてみました

          前回の記事の続きになります。 老老介護の共倒れにならないように、生活保護の申請をしてもらおうという話でした。 もちろん「生活保護を受けなければ後々大きな迷惑になる」なんて伝え方はしませんでした。「今のうちに手を打っておいた方が、ご主人のADLを落とさなくて済むかもしれないし、何より今の奥さんへの負担が減ります」とお伝えしました。 しかし、奥さんは首を縦には振りませんでした。「私が我慢すれば済む話ですから」と。 正直悔しかったです。こういう人たちのためのセーフティネットと

        書評「世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事」

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        記事

          生活保護

          日本での生活保護の補足率は20%程度と言われています。 生活保護を利用する資格のある人のうち現に利用している人の割合が異常に低いって事です。これは生活保護に対する恥や負い目(スティグマ)があるためだと言われています。 実際の医療現場では、生活保護を受けるべき人が受けてくれないことで、後々大変な思いをすることがあります。今日はそんな話です。 Y夫妻Y夫妻は僕が月に2回訪問診療を行っている80歳代のご夫婦です。 奥さんはお元気なんだけど、ご主人は脳梗塞の後遺症で右半身に麻痺が

          逆流性食道炎ですね

          って健診の結果説明で言われた事ないですか? こいつの本名は「胃食道逆流症」といってガイドラインもあるくらい有名な病気なので、実際に診断を受けて治療されている方も多いと思います。 胃から胃酸が産生されていることはご存じだとは思いますが、胃酸というのは理科の実験で使った塩酸と同じくらいの酸性っぷりがあります。それでも胃がただれないのは、胃は強力に粘膜保護されているからなのです。しかし、食道には粘膜保護がないので胃酸が逆流すると食道の粘膜がただれてしまう。コレが「胃食道逆流症(以

          逆流性食道炎ですね

          禁煙してみて分かった事

          ここでは禁煙してみて(たかだか4ヶ月ですが)分かった事を書いてみようと思います。禁煙は良いことなので、禁煙した事で起きたネガティブな事は世の中から抹消されていると思うので、良いことも悪いことも書いていきます。 ご飯を美味しく感じるようになった? コレよく言われていますが、正直「?」と感じています。僕の体験からも、医学的にも断言できるのは禁煙して味覚が劇的に鋭敏になる事はないという事です。 上の論文は喫煙者、元喫煙者、非喫煙者の味覚は苦味以外に味覚の差はないというのが結論

          禁煙してみて分かった事

          禁煙途中経過

          実は禁煙してまして(以前noteでもちらっと触れています) 決して順調ではないんですが、何とか禁煙継続(奮闘?)しておりますので、こちらに経過を赤裸々にお知らせいたします。 禁煙2週目 禁煙とは言っても「ニコチンパッチを貼りながら、1-2本/日吸う」といったスタイルです。禁煙と言うよりもパッチで本数を減らすといった感じです。 この頃は、朝に1本吸って病院に向かって、病院でパッチを貼り替えて、仕事終わりに1本って感じでしたね。 禁煙3週目 何となく朝の1本に不快感を覚え

          ものをもらうという事

          訪問診療をやっていると、帰り間際に患者さんやご家族から「コレもって帰って下さい」といった感じでものをもらったりする事がある。飴やらチョコやらドリンクなど。中には「梨剥いたから食べていって」とか「コーヒー(熱々)淹れたから飲んでいって」もあります。 色々理解した上で、語弊を恐れずに言うと、正直迷惑なんですよね。 「ものをもらっておいて迷惑とは何事だ」とおっしゃる方もいるかもしれませんが、僕は「ものをあげる事が親切であり、もらった側が絶対喜ぶだろう」という考え方が迷惑だと言いた

          ものをもらうという事

          パイセン達のトンデモ指導

          勤務医時代の事を思い出したので、続けて書きます。 僕が勤務していた大学病院の医局は、ほぼ自校出身の医者で成り立っていたので、みんな学生時代から知ってる先輩後輩が多かったです。良くも悪くもなあなあな感じで、体育会系のノリもあってか、あまり理論的ではない先輩の指導もあったと思います。 ここでは僕が先輩からうけた指導をご紹介します。論理的じゃないけど頷けるものだったり、ただのパワハラチックなものだったり様々です。 どれだけ救急車が来ても当直飯の事だけは忘れるな 先輩と当直す

          パイセン達のトンデモ指導

          ジンクス

          皆さんはジンクスを信じますか? よくあるジンクスには晴れ女やら雨男なんてものもあります。 信じる信じないは別として、皆この手の話は好きですよね。 医療業界にもジンクスというものはあり、中でもあるあるなのが 救急外来とかで「今日は平和だといいね」って誰かが言うと救急車めっちゃくる というものがあります。 僕も大学病院勤務時代に当直していた先輩に「お前が「平和だといいですね」とか言うから忙しい当直になったじゃねえか!」と結構本気で怒られた事もあります。 大変だった当直を誰かの

          糖尿病と運動療法

          糖尿病の治療に運動療法というものがありますが、なぜ運動することが糖尿病の改善につながるのでしょうか。 「カロリーを消費するから」とお考えの方もいるかと思いますが、それは間違いではありませんが正確な理解ではありません。3kmのジョギングで消費されるエネルギーは180kcal程度です。コンビニおにぎり1個にも相当しません。でも、3km程度のジョギングを継続すれば確実に糖尿病は改善します。なぜでしょうか? 糖尿病という病気は「インスリンが足りない、もしくはインスリンが効いていな

          糖尿病と運動療法

          アルコールと睡眠薬

          「お酒と睡眠薬は一緒に飲まないように」ってお医者さんに言われたことはありませんか?医者に言われなくても何となく分かるよ、って感じかもしれませんが、ちゃんと理由があるんです。 それは「呼吸が止まっちゃうから」です。 「怖えよ」って思うかもしれませんが、極端に言うとそうなんです。お酒飲むと眠くなりますよね?睡眠薬飲んでも当然眠くなりますよね?それはアルコールと睡眠薬の作用が同じようで違う機序で眠たくするからなんです。 ここで前提として押さえておきたい知識として「アルコールも

          アルコールと睡眠薬

          褥瘡の外用薬

          外用薬選択のポイント ①創部が湿っているか乾いているか ②治癒過程に応じて変更する 創部の湿潤環境を適度に保ちつつ(ジメジメしていたら吸水性の高い外用薬を使用する)、黒色期→黄色期→赤色期→白色期で外用薬を変更する。 外科的デブリードマンの必要性 黒色壊死部がある状態では創部が閉じなので、デブリードマンが必要。 クーパーとかで黄色い層が出てくるまでチョキチョキ切っていく。黒色部が固いとデブリしにくいので、ゲーベンとかで湿潤環境を保っておくと切りやすい。 各外用薬 ゲ

          褥瘡

          僕みたいな総合病院でしか働いたことのないような内科医が訪問診療を始めるに当たっていくつかの壁に直面することがある。 との一つが褥瘡との戦いである。 当然、病院勤務医時代にも褥瘡というものにお目にかかったことはあるが、ソッコーで形成外科の先生に院内コンサルトし、処置は看護師さんにお任せをしていた。 訪問先の施設職員や、居宅の介護者から「先生、ここの褥瘡なんですけど」と患者さんのおむつをめくりあげて見せてもらうたびに「あー、なるほどね」と言ってはみるものの内心では「これは良く

          禁煙に成功しにくい人

          いろいろと論文を読んでいくと、禁煙補助薬の有用性について検討しているものはいくつかある。パッチが良いだの内服はどうだの。その中でも「禁煙に成功しにくい条件」についての論文があった。 ニコチンパッチによる治療反応性に独立した因子としては様々な報告がある。ニコチン依存度:TDS(Tobacco Dependence Screener)や精神疾患の有無、男女比などがある。ニコチン依存度が高ければ禁煙が失敗するリスクも上がる(TDS:8点以上で禁煙失敗のリスク)し、精神疾患があれば

          禁煙に成功しにくい人