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生活保護

日本での生活保護の補足率は20%程度と言われています。
生活保護を利用する資格のある人のうち現に利用している人の割合が異常に低いって事です。これは生活保護に対する恥や負い目(スティグマ)があるためだと言われています。

実際の医療現場では、生活保護を受けるべき人が受けてくれないことで、後々大変な思いをすることがあります。今日はそんな話です。

Y夫妻

Y夫妻は僕が月に2回訪問診療を行っている80歳代のご夫婦です。
奥さんはお元気なんだけど、ご主人は脳梗塞の後遺症で右半身に麻痺があるため生活には奥さんの支えが必要な状態でした。
それに加えて最近になりご主人の認知症が進行してしまい、デイサービス先でも暴れてしまったりして、奥さんの介護量も増えてきました。

その矢先に奥さんが腰をやっちゃいました。
腰椎圧迫骨折の診断となり、コルセットを巻いているのですが、ご主人の介護はもとよりご自身の生活も大変な状況になってきました。

このままでは夫婦共倒れの状態になってしまうと考え、ケアマネージャーと相談して、ご主人を施設に入れようという話になり、奥さんも同意してくれました。
ただ、吉田夫妻にはお金がありません。頼れるご子息もいません。

生活保護の申請を受ければ、受け入れてくれる施設があるようなので、奥さんに生活保護の申請をしましょうとお伝えしましたが、奥様はこう言いました。

「世間の皆さんにご迷惑はかけられないから生活保護は受けない」

奥さんは生活保護を受けることを「他人に迷惑をかけること」だと考えているようです。ただ、厳しい事を言うようですが、このままの状況が続けば、もっと迷惑な事になるんです。

生活保護を受けない方が迷惑がかかる

この夫婦のどちらかの具合が悪くなれば、おそらく救急車を呼んで救急外来を受診することになるでしょう。
必要であれば入院となりますが、病状が回復したとしても退院する先は自宅ではなく、施設や病院となるでしょう。
転院調整に時間がかかればADLも落ちて寝たきりになってしまうでしょう。
ミトンつけられて、褥瘡ができて。。。

こうなる前に生活保護なり受給して施設に入ればADLを落とさずに幸せな最期を迎えることができるかもしれない。
こうなる場合にどれだけの医療従事者の労働力と医療資源(それにかかる医療費)が必要なんだろう。

奥さんは「世間の皆さんにご迷惑はかけられない」というが、今のうちに手を打っておかないともっと大変な「迷惑」をかけることになるんです。

今度Y夫妻の居宅に訪問した時に奥さんにそれとなく伝えてみよう。


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